脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

記憶障害ははっきりあるのですが・・・これを認知症といいますか?

2015年07月19日 | 側頭葉性健忘症

「アリスのままで」の原作本が未着のため、気にかかりながら続きを書いていませんが、人生は面白いものでこんな相談事例が飛び込んできました。(今日は保健師さんたちのために書きますから、ちょっと専門的になります)

 72歳の男性です。
ちょうど一年前に相談を受けたそうで、1年間の経過観察が行われています。
一回目の脳機能検査は、脳の後半領域の働きを調べるMMSの結果は30点満点の27点と合格点。減点は想起のマイナス3です。
前頭葉機能なのですが、立方体透視図の模写は完璧。動物名想起はやや少なく1分間に6個でした。
一番重要な、かなひろいテストは9個見落として32個に〇、内容把握は可。見事な合格です。だいたい50歳代と考えられるくらいの好成績です。
二回目はMMS25点(計算の得点が低下)。模写OK、動物名想起は3個、かなひろいテストは14個見落として30個に〇,内容把握可。と確かに少し低下がみられます。
保健師さんは「去年に比べて生活実態は改善していると思うのですが…旅行も6回行かれたそうですし、畑も継続してやってます。畑が一段落したら教室参加もされることになってます。特に問題も無いようですが」

1年前に時計を巻き戻します。一回目の主訴は物忘れ!。
2年ほど前に、胃がんと言われ治療開始。幸いにも完治したということで以前の生活に戻ったそうですが、妻の訴えは以下の通りです。
1.最近、とにかく物忘れが目立つ。
記憶の問題が出てきた一番最初のエピソードは「去年の5月、家族旅行をしたときに、駐車した場所がわからなくなってとても困ったことがあったのですが、今までになかったことと、どのように駐車場に入ったのか全く覚えてないようで、家族みんなで顔を見合わせました」ということを聞くことができました。
2.なんとなくやる気がなくなった。
3.写真撮影が趣味で、撮影旅行も自分で計画して行っていたのに旅行のことを口にしない。
4.写真を近所の小学校に贈呈していたのに作品数が減ってしまった。真面目なきちんとした人なので、本来なら気にするはずなのに。
「とにかく、お父さんらしくないんです」

この例も認知症の始まりのようですよね。ただし二段階方式でいう小ボケレベルですけど。訴えの2・3・4なんかは特に小ボケでよく言われます。
「夫と死別して半年ー小ボケになったおばあさん」に書いたように、家族は おじいさんやおばあさんが小ボケに入って発現しだす症状を見て「おじいさんらしくない」とか「おばあさんらしくない」というのです。
小ボケに入ったということは前頭葉機能がフル稼働できてないことと同じことです。前頭葉はその人らしさの源ですから、まさに「その人らしくない」というのは言いえて妙だといつも感心しています。
ここでもう一度テスト結果を見てください。
認知症という時には、必ず前頭葉の機能低下がなければいけません。この例では前頭葉は20歳くらい若いレベルを保っているのです!
いくら記憶障害があっても、前頭葉機能が完璧なら、それは認知症ではありません。 

ここのところが理解できていないことが、先日の「アリスのままで」「若年性アルツハイマー型認知症?」がまかり通る現状につながります。

専門家達がどう言おうとも、このタイプの人達は「ボケているようには見えない」のです。
表情は豊かだし、動作は機敏。当意即妙な受け答えもできるし、創作的なことも見事にこなします。気も利きます。恥じらいもあります。
このケースでも、妻が帰るまでにご飯を炊いて食事のセッティングまでしてくれるそうです。洗濯物もきちんとたたむだけでなく整理までしてくれるのです。
小学校に寄贈している写真も皆さんに感心される出来栄えだそうです。
このような「ボケ」があるでしょうか!

でも、新しい記憶が入りませんから種々の失敗を繰り返すことにはなります。

脳機能から認知症を理解すること、その脳機能も、前頭葉と記憶などその他の認知機能と別々に考えることでかなりクリアに理解できるようになるのですが。
普通の認知症は、記憶障害が出てきたときには前頭葉機能がもうフルには働いていませんので「どうしていいかわからない」「次に打つ手が思いつかない」と困り果ててしまうのです。結果、怒り出すこともあります。又は他人事のように知らん顔して周りを怒らせてしまったりすることもあります。
前頭葉機能が働いている記憶障害の人達は、「また失敗してしまった」という恥じらいや反省、落ち込みなど辛さが共感できる反応になります。
離れのやど星ケ山で女子会


ログハウスでした

このケースの解説です。(時計を今に戻しますから、一回目の検査時が1年前になります)
3年前の胃がん治療が、脳の老化を加速させて認知症に進ませるきっかけになったとしたら、2年後である一回目の検査時には小ボケになっているはず。必ず前頭葉機能からうまく働かなくなっていくのが認知症の始まりですから。
ここで、前頭葉機能がみごとに維持されていることがわかったということは認知症が始まったのではないといえるのです。たった数分間かけて行う脳機能テストの威力です。
側頭葉性健忘と言って、前頭葉機能が正常にもかかわらず「新しい記憶が入っていかない」という症状が出ているのです。
巨石風呂「飛龍の湯」

1年前の1回目の検査の時に保健師さんが「認知症ではなく、記憶の障害」とその説明をして、日常生活をスムーズに過ごすためには「いつも携帯できるノートを使って、一日1ページと決めて何でも書くようにする」という指導をしたそうです。
そして、「この記憶の障害だけだったら、訴えの1は当然ありますが、2~4は起きて来ない。なぜならば2~4は記憶の障害で起きることではなく、前頭葉が元気を失っていっている証拠だから、脳の老化を加速しないように頑張りましょう」と、一般的な脳リハビリの生活指導「1日5000歩歩くこと。写真や旅行の復活。教室参加。家事を積極的に手伝う」などをしたそうです。
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、スタートは記憶障害だけで始まっていたのですが、1年間も失敗が繰り返されると、前頭葉機能としては優秀レベルに保っていても自信を失って行こうとしていたために、あたかも小ボケのような症状が出始めていたと考えられます
華の湯

そして今年。最初に書いたように生活の実態は1年前よりも良くなっているにもかかわらず、脳機能は全体的に低下しています。
原因として、いくら「認知症ではない」といわれても日常的に記憶障害がたびたび起き、そのための失敗が繰り返されるために、前頭葉が自信を失ってやはり少しずつとはいえ老化を加速させてしまうことが考えられます。失敗を繰り返す度に前頭葉の出番が少なくなると言い換えてもいいかもしれません。
最初は言い訳や種々の工夫をしていたとしても、次第に対応しきれない状態になることは十分に予想されます。
但し、1年前に保健師さんが「認知症ではなく記憶の障害」という指導をしていなかったら、一番最初のエピソードは3年前ですから、もう小ボケが終わるくらいのレベルまで進んでいても不思議ではありません。
どうしても老化が加速されるとしても、できるだけ緩やかにさせていかなくてはいけません。それには一般的な脳のリハビリを意識してもらう必要があるのです。
森の中の渡り廊下のさきにお風呂が

おまけがあります。
このケースの妻は、暴力的で徘徊も激しかった舅と、穏やかにかわいくボケた(でも手はかかった)姑の介護をしたそうです。
「わが夫がどちらのタイプでもない。確かに忘れるけど」と日々に感じていたはずです。

 


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