脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

またまた、右脳と左脳の話

2017年04月10日 | 右脳の働き

フェイスブックを読んでいたら、ちょっと目を引く記事に出会いました。
「知人宅を訪問したら、そこの方が『利き手はマヒでまだ使えず、左手で自分を描いてくださった絵』に感動した。心温まる作品だった」と書かれていました。絵を描かれた方は脳卒中か事故かで脳に損傷があるのですね。
4月10日松川湖のサクラ

たった1行でも、脳障害を推理することができるということは、つい先日、石原慎太郎さんは左利きー右脳障害で失読症 でもお話ししました。
今回のケースは「聞き手は右手。その右手にマヒがある」のです。ということは、脳の障害が左脳に起きてしまったということになります。
左脳は言葉の脳ですから、言葉の障害は覚悟しなくてはいけません。
上肢だけにマヒがあるのなら、多くの場合は顔にもマヒが残っていると思いますし、話すことがとても難しくなります。言葉も出て来ないしとにかく話しにくそうですから、聞いている方もつらくなります。ただしこの状態は直後よりも改善してくることが多いので、少しずつ話せるようになることは期待できます。(運動性失語)
松川湖のオオシマザクラ

もしも下肢にもマヒがあるとしたら、入力障害も考えなくてはいけません。これは聞こえているのに何を言われているかわからないという障害です。(感覚性失語症)
あたかも、外国語を聞いたときと同じように、聞こえるけれども意味は分からないのです。この障害がなければ「はい」「いいえ」で答えられる質問をすることで、大まかな意思疎通はできるのですが、それは難しい。
そのうえに、本当に言いたい「単語」が出てきません。
話すことに困難があるタイプの失語症の場合は、言いたい単語は出にくいのですが「語頭音(その単語の最初の音。みかんなら、み)」を言ってあげると、その音につられて言いたいことばが出てくることが多いのです。
右手だけでなく右足もマヒがあると、言葉の障害もそれだけ重篤ということになります。
4月10日川奈ホテル

もうひとつわかったことがありますね。
それは、「左手で絵が描ける」ということです。
このような場合に多くの方は、「利き手でない左手で描く」ことにびっくりするのですけれども、その前の理解が必要です。
絵を描くことができるためには、色や形のアナログ情報を認識し処理する右脳の働きが必須です。その右脳の領域が傷つけられてしまったら、利き手である右手の動きが完璧であったとしても、絵になりようがありません。
川奈ホテルのオオシマザクラ
 
右脳に損傷を受けたら「絵を描く」ということがどのようになるのか、1か月ほど前に書きました。
例外ですが、左脳=デジタル・右脳=アナログに当てはまらないこともあります
「人の絵を描いてください」という課題に対しての作品です。

右脳の大きな機能である「音楽」に関しても同じことが言えるのです。
左手だけのピアニストとして館野泉さんは有名ですね。脳卒中で左脳にダメージを受け、懸命のリハビリを続けましたが、右手はピアノ演奏ができるところまでは回復できませんでした。
失意の時を過ごすうち、「左手のためのピアノ作品」に出会いました。
「その楽譜を目にしたとたん、ここには音楽があることがわかった」とその感動を表現されています。「右脳」が何の損傷も受けていなかったからこそ「音楽」が病気の前と全く同様に、脳に飛び込んできたのですね。
右脳が壊れても、主旋律を引く利き手である右手には(左脳が壊れていないわけですから)何の変化もありません。演奏するための運動機能はあるのです。動かせるのです。
でも、肝心の「音楽」を感じることができないのです。ロボットのように弾くことはできても、自分の音楽性を表現することはとても無理な状態になります。

最初に館野泉さんのことをこのブログに取り上げたのは2005年。その後2010年にもう一度まとめ直してありますから、興味がある方は読んでみてください。
脳障害の解説②左脳障害ー左手だけのピアニスト

 


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