テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

隣の女

2011-07-25 | ドラマ
(1981/フランソワ・トリュフォー監督・共同脚本/ジェラール・ドパルデュー、ファニー・アルダン、アンリ・ガルサン、ミシェル・ボームガルトネル/106分)


 名作「突然炎のごとく」にさほど感銘を受けなかったので、監督トリュフォーの20年後の作品「隣の女」を観る。同じように狂おしい愛の狂気を描いた映画なのに、明らかにタッチは違っていた。どこか控え目で、高所から観ている感のあった前者に比べて、20年後の不倫映画は、主人公二人の内面に深く迫っており、それぞれの伴侶についても必要最小限ではあるけれども存在感があった。
 同じ不倫なのにコチラには当事者の持つ罪悪感があって、それがサスペンスを呼び起こし、忘れようとして忘れられない想いと欲望が更に妖しいムードを醸しだす。狂言廻しのテニス・クラブの女主人の絡ませ方もストーリーに膨らみを持たせて良かったなぁ。

*

 1968年に冬季オリンピックが開かれたフランス南東部、アルプスの麓の静かな町グルノーブルが舞台。
 ジェラール・ドパルデュー扮する不倫夫ベルナールは、石油会社のタンカーに関する製作、運行計画の技術者。優しい妻アルレット(ボームガルトネル)と幼い息子トマと平和な家庭を築いているが、ある日、道を隔てた隣の空き家にある夫婦が引っ越してきてから、物語は動き出す。
 やって来たのは、グルノーブル空港の航空管制官のフィリップ(ガルサン)とその若い妻。荷物が運び込まれた日に挨拶に行くが、フィリップに紹介された彼の奥さんは、ベルナールが8年前に苦々しい恋の末に別れたかつての恋人マチルド(アルダン)だった。勿論、フィリップもアルレットも互いの伴侶が知り合いだったことは知らないし、ベルナールとマチルドも初対面のふりをする。
 最初に声を掛けたのはマチルドの方だった。
 翌日、アルレットがトマと出かけるのを窓から見ていたマチルドは、一人になったベルナールに電話をする。後からやって来たのは自分の方だからベルナールの事は知らずに来たという事や、懐かしく思ったことなどを話したかったのだが、ベルナールは迷惑だとすぐに電話を切った。
 アルレットはベルナールに黙ってフィリップ夫婦を食事に誘う。隣人として当たり前のことなのでベルナールも承知するが、夕方になって残業が入ったと嘘の電話を入れる。『デザートの時間までには帰ってきてね』という妻の言葉も無視し、フィリップ夫婦が家を出るのを確認してから帰宅するベルナールであった。
 そんな二人に、再会の時が訪れる。
 近くのスーパーでベルナールが買い物をしているところを、マチルドが偶然見つけるのだ。買い物かごを乗せたカートを押しながら、穏やかに語りかけるマチルド。流石にベルナールも電話のように突っぱねることも出来ず、マチルドの車まで荷物を運ぶのを手伝う。駐車場で別れのキスをする二人。互いを見つめるうちに、つい接吻(くちづけ)をしてしまうベルナール。と、突然マチルドはヘナヘナとその場に崩れ落ちてしまうのだった・・・。

 この“ヘナヘナ”(つまり失神)は突然なのでかなり驚くが、見終わってみれば、作劇としては実に上手いシーンだったことが分かりますな。要するにこのシーンで焼けぼっくいに火が点くわけです。マチルドもそうだし、彼女の“ヘナヘナ”を目の当たりにしたベルナールも、愛おしさが募ってくる。併せて、マチルドの神経の脆弱さも匂わせている。
 最初にホテルに誘うのもマチルドで、罪悪感に苛まれるのもマチルドが先。一旦はストーカーのようになってしまうベルナールをマチルドが懸命に諫めるも、ついにはフィリップやアルレットに過去がばれてしまい、徐々にマチルドの神経も衰弱していく。
 伴侶に二人の過去がばれそうになった時の言い訳というのも、かなり狡猾な印象で、シュザンヌ・シフマン、ジャン・オーレル、トリュフォー共作の脚本の巧さを感じる所。逆に、チラチラと語られる二人の過去が何となく曖昧に感じるんだけど、これはコチラの実体験が少ないせいかな

 シチュエーションは日本の昼メロと全く同じ。陳腐な設定でも、上手く作ればこんなに面白くなるんだぞという映画であります。

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(↓Twitter on 十瑠 から

トリュフォーの「隣の女」を観る。重く感じるかもと僕のセンスをご存じの方からコメント頂いてましたが、コレくらいは問題ないですな。つか、ドラマとしてちょうどイイ感じ。ファニー・アルダンってこういう人だったんだ。トリュフォーとの娘ももうすぐ30歳になるのか。
 [ 7月 23日]

トリュフォーのカメラがよく動く事に今更ながら気付いたよ。リズムが重々しくならないのはそのせいだと思うけど、これって一歩間違うと「アイ・アム・サム」みたいにストーリーをぶち壊しかねない。シリアスドラマで、このセンスって好みじゃないんだなぁ。
 [ 同上]
(注:2回目の鑑賞では動くカメラも気にならなくなりました)

夕べ、「隣の女」2回目を観る。居間ではない部屋で一人。細やかな心理が描かれた映画は、夜、一人で、静かに観ることをお薦めします。狂おしい程の愛の狂気を理解するには、歳をとりすぎて、そんな情熱もあったような気がする程度だけど、それでも1回目よりは格段に面白く観れる。映画は不思議。
 [ 7月 25日]

予告編がありましたが、1分50秒過ぎから結末がネタバレしてますのでご注意を)




・お薦め度【★★★★=静かな所で一人で観ることを、友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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