テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

突然炎のごとく

2011-07-22 | ラブ・ロマンス
(1961/フランソワ・トリュフォー監督・共同脚本/ジャンヌ・モロー、オスカー・ウェルナー、アンリ・セール、マリー・デュボワ、サビーヌ・オードパン、ミシェル・シュボール/107分)


(↓Twitter on 十瑠 から

トリュフォーの名作「突然炎のごとく」を観る。2回目だろうか? 数十年ぶりだ。前は十代で、全く印象に残ってない。前半はさらさらと進んでさほど面白くもないが、中盤から俄然面白くなる。中盤からの妖しい心理劇の為に、序盤はことさらサラッと描いた様にも見える。もう一度観なければ掴みきれない。
 [7月 20日]

「突然炎のごとく」2度目を観る。これって、カトリーヌとジムの関係がメインだよね。「アデル」は未だに観てないんだけど、カトリーヌってアデルみたいな女性だよね。“去ると追う”みたいな、まるで男のような女。若い時なら惹かれるかも知れないけど、それでもジュールのようにはなれないね。
 [7月 21日 以下同じ]

ロシェ原作、監督トリュフォーではもう一つ「恋のエチュード」を観ている。こちらは、一人の男と二人の女の話。主人公は男で、その彼がナレーションをして話が進む。「突然炎・・」の方は、ナレーションが誰だか分からない。ジュールが第三者のようなふりで話している感じもあるが・・・。

「突然炎」が公開された1964年の双葉さんのベスト10は、1位から5位まで全部フランス映画だった。「かくも長き不在」、「突然炎」、「シェルブールの雨傘」、「軽蔑」、「去年マリエンバートで」。ヌーベル・バーグ真っ盛りっつう感じですな。

*

 上のツイートに関して一つ訂正しなければいけないのですが、「アデルの恋の物語」のヒロイン、アデルはこの映画のカトリーヌとは全然違う女性のようです。狂気の女性という意味では同じみたいだけど。

 さて、昨年亡くなった双葉十三郎さんが最高点の90点(☆☆☆☆★★)を付けた15作品の内の一つ。<映像による文学>と絶賛されておりました。
 原題は【JULES ET JIM(ジュールとジム)】。
 トリュフォーは、若い頃からアンリ・ピエール・ロシェの原作本を愛しており、この本を映画にする為に映画監督になったとまで言ったらしいです。

 1912年のパリから物語はスタートする。
 共に文学を愛するオーストリア青年ジュール(ウェルナー)とフランス青年ジム(セール)はモンパルナスで出会い、意気投合する。友人の写真に写っていた南の島の彫像にそっくりの魅惑的な美女カトリーヌと逢った時も共に惹かれるが、付き合っている女性がいなかったジュールが猛烈にアタックして二人は結婚する。
 やがて第一次世界大戦が始まり、ジュールとジムは敵国同士となるも、幸いにも戦場で相まみえることはなく、終戦後、文通が再開した頃には、ジュールとカトリーヌには女の子が産まれていた。
 ジュールの誘いに応じてジムはドイツに住む二人の所にやって来る。駅ではカトリーヌと彼女の娘が出迎えてくれた。緑豊かな山間に建つ2階建ての家。表面上は穏やかに見えていても、ジュールとカトリーヌの信頼関係は既に崩壊していた。ジムが独身時代のカトリーヌに感じていた行動の奔放さは結婚後もおさまることはなかったのだ。
 「カトリーヌを失うことが怖い。君がカトリーヌと結婚してくれたら、僕は友人としていつまでもカトリーヌのそばに居られる」。そう言って、ジュールはジムにカトリーヌとの結婚を勧めるのだが・・・。


 <ある種の映画監督たちは人生の断面(きれはし)を映画に撮る。私はケーキの断片(きれはし)を映画に撮る>

 こう言ったのはトリュフォーが愛してやまないA・ヒッチコックですが、トリュフォーがいつものようにサラッと描いた様に見えるこの映画も、二度三度と観る内に、どのシーンにもトリュフォーの想いが詰まっているように感じてきます。つまり、ロシェのケーキのその美味しい所だけを並べた様に。
 ただし、監督の思い入れが強い分、作者(つまりトリュフォーです)としては充分に描けていると思っているシーンでも、もともと登場人物に距離を置いた描き方をするのがトリュフォーの特徴ですから、一般観客からすれば物足りないと感じるのではないでしょうか?
 ロシェのもう一つの小説をトリュフォーが映画化した「恋のエチュード」は、男一人対女二人という、この映画と反対の人物構成をもつ作品ですが、主人公である男性のナレーションで話が進むので感情移入がし易いのに比べて、コチラはナレーションが第三者の立場をとっているので、その辺りも取っ付きにくい感じがあります。

 男二人対女一人というと、漱石の幾つかの小説も思い出してしまうのですが、日本人が描く葛藤とフランス人のそれは全く違うということを記しておきましょう。

 自らの感情に従順で、男に束縛されるのが、いや何物にも縛られるのが嫌いな女性。それがカトリーヌでしょうか。昭和世代の進歩的といわれた女優の多くが、ジャンヌ・モローを憧れの対象として語っていたようにも覚えています。
 ジュールは彼女を女王様のように扱うことによって愛を得ようとしたけれども、ジムはそうしなかった。
 後半でジムと再婚したカトリーヌが彼とベッドで喧嘩をした後、隣の部屋のジュールに慰めてもらった時に、彼女はこの映画で唯一涙をみせます。
 カトリーヌにとって、唯一自由に出来ない男、それがジムだったのでしょう。ラスト・シーンの激しさは彼女の愛情の深さでもあり、そこにも世の女性が憧れる要因があるのかも知れません。

 長編デビュー作「大人は判ってくれない (1959)」から数えて三作目。中盤の戦争シーンでは実際のニュース映像を盛り込み、男女の感情の機微を描くのにストップ・モーションや方形のアイリス・ショットなど実験的なテクニックも見せています。
 次回は最晩年に近い「隣の女 (1981)」を観てみようかと思います。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり、出来れば二度以上観ることをお薦めします】 テアトル十瑠

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4 コメント

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そのツィートに (vivajiji)
2011-07-22 17:53:20
関して「十瑠さ~ん、それってちがうわよ~」
コメント入れましょかとずっと思ってましたが
このたびはご遠慮申し上げました。
気がついて下さってほっとひと安心。^^

かたや安定はあるけれどトキメキがない、
トキメキはあるけれど思い通りにならない。
恋多き女の不可解さを
巧みに描いた作品ですね。
軽妙な中にも男女間心理の危うさ、
その絶妙なバランス、名品と思います。

「隣の女」は本作から見ると
けっこう重くお感じになるかも。
私はその重さも好きでしたが。(^ ^)
返信する
観てないのに (十瑠)
2011-07-22 21:19:06
勝手に想像して書いちゃいけないって事ですね。
大概間違ってるし

>「隣の女」は本作から見るとけっこう重くお感じになるかも。

コメディじゃないから重くて結構、と思ってレンタルしてきました。
「終電車」も観たいですね。
返信する
邦題がいいね (anupam)
2011-07-23 11:10:33
「突然炎のごとく」
この日本語タイトル、かっちょいいすね~~

作品は未見なんだけどね・・

「恋のエチュード」は原作読んだ記憶あり。でも、なぜか映画は見てないな。見てないもの、まだまだいっぱいだな。
返信する
突然火が付いたように・・・ (十瑠)
2011-07-23 12:31:15
そしてそれは、本人も抑えようもなく燃えさかる、カトリーヌの心を表していて、実に上手いタイトルです。

主人公と同じジュールですけど、僕はこんな女性とは恋愛だけで終わりたいです。相手にされるかどうかは別問題ですが
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