テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

タクシードライバー

2009-05-16 | ドラマ
(1976/マーティン・スコセッシ監督/ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ジョディ・フォスター、ピーター・ボイル、ハーヴェイ・カイテル/114分)


<ネタバレあります>

 マーティン・スコセッシは、選ぶ題材や人物に興味が湧かなくて、昔っから食指が伸びない、いわゆる食わず嫌い(観らず嫌い?)な監督さんです。フィルモグラフィーを追ってみても、今までに観た映画は「ハスラー2 (1986)」のみ。これもP・ニューマン見たさに選んだだけで、しかもレンタルだったような・・・。話題になった、この「タクシードライバー」も今回が初めてです。

 ベトナム帰りの元海兵隊員が不眠に悩まされ、眠れないならいっそのこと夜勤のタクシー運転手をやってやれと、タクシー会社に面接に来るところがスタート。不眠で頭痛持ちの男は、一歩間違えば通り魔事件を起こしてしまいそうな物騒な雰囲気があるのが今日(こんにち)的。
 世間は大統領選の予備選まっただ中で、選挙事務所に勤める一人の美女に惹かれた彼は、政治には無関心なのに、ただ彼女と付き合いたくて事務所を訪れボランティアを申し出る。まんまとデートに持ち込むも、ポルノ映画に誘ったのであっさりふられる。最初のデートで無邪気にポルノに誘う男というのもKYな気味悪さで、以後花を贈ったり電話攻勢をかけるが、彼女からは完全に無視される。
 夜の街には暴力や喧噪、肉欲が渦巻いており、ある日彼のタクシーに飛び込んできた少女売春婦が気になり、いつしか彼女を助けようと思い始める。客を装って彼女に接近、お説教をたれるも家出少女の彼女には助けは不要だと笑われる。
 しがないタクシー稼業で埋もれていく自分に我慢が出来なくなった彼は、ある計画を実行に移す。闇のルートでピストルを4丁購入、粗食や薬も止めて、身体を鍛え始めるのだが・・・という話。

 この後、選挙事務所の女性にふられた腹いせに候補者の議員を殺そうとして失敗。クライマックスが、少女売春婦のポン引きや客、売春宿の管理人たちとの銃撃戦となる。
 血が飛び、肉が飛び、指も脳味噌もぶっ飛んでしまう凄惨な現場の描写は、キューブリックの「現金に体を張れ (1956)」を彷彿とさせるが、スコセッシの語り口には多分に情緒的な雰囲気があり、キューブリックの切れ味はない。
 おどろおどろしいBGM。もってまわったような血しぶきの後を舐めるように写すハンディカメラ。ふと、断片的に観た北野映画(「HANA-BI」?)を思い出し、「タクシードライバー」がカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを獲ったことも知り、こういう映画がヨーロッパの映画人に受けるのかなぁと考えた。
 アメリカン・ニューシネマの流れを汲んだ作品で、主人公は「バニシング・ポイント (1971)」のコワルスキーよりも病的という、スルーした30年前に想像した通りの映画でした。コワルスキーと同じように主人公は最後に死ぬんだろうと思ってましたが、その点は違いましたな。

 ドライバーのトラヴィスには、スコセッシよりも1歳若いデ・ニーロ(当時33歳)。トラヴィスは殆ど狂人なんで、共感なんか持ち得なかった私ですが、映画サイトのコメントにはシンパシーを感じた人もいた模様。モノローグも入るけれど、内面へのアプローチの助けにはならず、理解に苦しむシーンも少なからずありましたな。じっと考え込むようなシーンもあるのに、そんなショットにはモノローグが入らないんだよねぇ。

 シビル・シェパードは選挙事務所の美人スタッフ、ベッツィ役。アヒルくちと洋服の上からでも分かるスタイルの良さ。「ブルームーン探偵社」を思い出しちゃったなぁ。
 ジョディ・フォスターは少女売春婦、アイリス役。13歳だったそうです。
 ピーター・ボイルは先輩の運転手仲間。
 ハーヴェイ・カイテルはアイリスのヒモで、最後にトラヴィスに殺される役でした。

 オリジナル脚本を書いたのが、後に監督業にも乗り出すポール・シュレイダー。「ガープの世界」などのメアリー・ベス・ハートの旦那さんですな。

 1976年のアカデミー賞では作品賞、主演男優賞(デ・ニーロ)、助演女優賞(フォスター)、作曲賞(バーナード・ハーマン)にノミネートされるも無冠。
 全米批評家協会賞では、主演男優賞、助演女優賞、監督賞を受賞したそうです。

 理解しづらい主人公の心情と、まったりとした展開は個人的にはお薦めしづらい。売春組織から少女を助けたとはいえ、違法に所有した銃をぶっぱなし、三人もの人間を殺しておいてお咎め無しってぇのも虫がよすぎやしないかい?
 唯一気に入ったのが、タクシーが夜の街を流す時に聞こえてくるサックスの音色(↓)。コルトレーンに似ているなぁと思ったら、演奏していたのはトム・スコット。グラミー賞3回受賞の名ミュージシャンで、『ウィキペディア(Wikipedia)』によるとコルトレーンの影響を受けているようです。




・お薦め度【★★=悪くはないけどネ】 テアトル十瑠

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6 コメント

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音楽センスは (vivajiji)
2009-05-16 20:30:25
抜群にいいスコセッシ監督。
音楽がらみの製作側人としては
いつもすごいと思いますが
私も本作を含め、どこか途方もなく
イッチャッタ表現と内容が
(それをパワフルな男性的映像と
賛美する方もおりますが)
いまだに違和感のある映画監督。

ポルノ映画館へ彼女を誘うというのは
やはり歪んでいる主人公を表すためだったのですね。
「卒業」でも似たようなシーンありましたよね。
あれはストリップでしたか。
あの時のロスの表情・・・くっきりと今でも覚えています。
実にかわいそうだった~。
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“どこか途方もなくイッチャッタ表現と内容” (十瑠)
2009-05-16 21:27:51
言い得て妙ちゃんですなぁ

「卒業」のベンジャミンは彼女に嫌われようとわざとストリップに行ったんですが、トラヴィスは一緒に楽しめると思ってるんですから根本的に違いますね。

レーガン大統領を狙撃した男は、この映画に影響された末の犯行らしいです。そういう意味でもお薦めしたくないですね。
返信する
優秀な作品でも (anupam)
2009-05-16 22:24:45
優秀な作品だと思うけど
決して

好きになれまへん

いい人なんだけどね~つきあいたくないわ
という感じに似てますね(どこが?)

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悪い奴だけど・・ (十瑠)
2009-05-17 07:47:24
みんなが面白いって言うから、ちょっと付き合ってみよっか、という感じに似てますね。^^
面白いって、要するにちょっとイカレてるのね。そう気付いたら、やっぱ付き合うの止めよう。そう思いました。

ジョディ・フォスターファンにも記念品的な価値はあるでしょうね。
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そして「・」がなくなった (オカピー)
2016-08-12 20:47:18
弊記事までTB&コメント有難うございました。

公開当時は「タクシー・ドライバー」だったのに、最近「タクシードライバー」になったみたいですね。こんなことを気にするのは僕くらいでしょうか^^

>三人もの人間を殺しておいてお咎め無しってぇのも
40年近く前のわが評を読み返しますと、同じことを指摘しています。
 脚本を書いたポール・シュレイダーには、彼をヒーローにして終えることに何か意図があったのかもしれませんが、はっきりしませんね。今回は「お咎めなし」の疑問を指摘する代わりに、「殺人狂時代」を引用してみましたが、的外れかもしれません。

僕もスコセッシは苦手な部類で、一番合わなかったのが「レイジング・ブル」。アメリカで大絶賛された作品なので、友人と映画館へいそいそ出かけ、しかし、何がそこまで良いのか全く解らずに帰途につきましたよ。
 それに比べると、脚本の完成度は高いとは思わないものの、本作の方が面白くは感じましたね。
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モノローグ (十瑠)
2016-08-13 09:45:28
7年前に観たきりなので幾分忘れている所もありますが、トラヴィスのモノローグの使い方が意図不明と感じた所にスコセッシと僕の相性の悪さが出ているのかなと。

>「レイジング・ブル」

双葉さんの採点は「タクシードライバー」共に☆☆☆★★でした。双葉さんも『主人公には共感できないけど・・』てなことを書かれていましたね。
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