テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

彼女を見ればわかること

2009-05-18 | ドラマ
(1999/ロドリゴ・ガルシア監督・脚本/グレン・クローズ、ホリー・ハンター、キャシー・ベイカー、キャリスタ・フロックハート、ヴァレリア・ゴリノ、エイミー・ブレネマン、キャメロン・ディアス、マット・クレイヴン、グレゴリー・ハインズ、ダニー・ウッドバーン、ノア・フレイス/110分)


<ネタバレあります>

 ノーベル文学賞を受賞したコロンビアの作家ガブリエル・ガルシア=マルケスを父に持つ、ロドリゴ・ガルシアの劇場用映画の監督デビュー作。元々は映像カメラマンだが、この映画では脚本も書き、サンダンス映画祭でサンダンスNHK国際映像作家賞を受賞、第53回カンヌ国際映画祭でも「ある視点」部門グランプリを受賞したとのこと。
 NHK-BS放送の録画鑑賞。ガルシア作品は、今回がお初です。

 五つの短編のオムニバスだが、ある話の主人公や重要な脇役が他の話にも出てくるので、全ての話が一つの街(解説ではL.Aになっている)を舞台にしていることがわかる。どれも孤独な心を抱えた女性が主人公で、女優陣の名演技と巧みなショット構成による心理描写がお見事。スッキリしない結末にも見えるエピソードがあるが、この辺はコチラの読解力不足かも知れないし、他の方のレビューを読んでお勉強しようかと思います。

*

 第1話は、介護の必要な老母を抱えた女医が、ある人の電話を待ちつつ、タロット占い師に出張鑑定を依頼する話。【原題:This is Dr. Keener(こちら、ドクター・キーナー)】。
 介護ヘルパーが休んだ為に自宅で母の面倒を見ている女医エレイン(クローズ)は、バツイチの中年女性で子供は居ない。最近付き合っている男性から連絡が来なくなって、少し焦り気味。友達に教えられて、出張占い師を自宅に呼んで運勢を見て貰うが、やって来た占い師は頼りなげな若い娘のくせにズバズバと彼女の境遇や内面まで言い当てていく。占い師曰く、今付き合っている男性とは上手くいかないが、もうすぐ新たな男性との縁が待っている・・・。
 グレン・クローズの緻密な演技が見所。占い師のキャリスタ・フロックハートは第4話のヒロインである。

 第2話は、銀行の支店長をしている独身女性が不倫相手の子供を妊娠する話。【原題:Fantasies about Rebecca(レベッカについての妄想)】。
 レベッカ(ハンター)は39歳。3年前から付き合っている黒人男性(ハインズ)がいるが、彼は同じ金融関係の仕事をしていて家庭持ち。生理が無くて病院に行くと妊娠を告げられ、翌日に堕胎の予約を取る。
 私は自立している女。子育てなんてとんでも無い。彼には別の男性の赤ん坊と嘘をついたが、彼は知ってか知らずか、いずれにしても産むことには賛成しない。
 翌日、予定通り粛々と手術を済ますが、帰り道で何故か涙が出てしまう。結局私は“都合のいい女”なだけじゃないのか。
 謎めいたホームレスの女性が出てきて何かとレベッカについて語るが、単なる妄想と言えないものをレベッカは感じる。堕胎後のレベッカと通りを挟んで向かい合うが、件の女性は無言で去って行った。
 「ピアノレッスン」以来セクシーな役どころが多いホリー・ハンターの、筋肉質なバディが今回も拝めます。
 堕胎を施術した女医が、第1話のエレイン。
 盲目の娘を持つ、妻と別居中の部下が出てくるが、彼ウォルター(クレイヴン)は第5話にも出てくる。

 第3話は、思春期の男の子と暮らすシングル・マザーの向かいに、小人の男性が引っ越して来る話。【原題:Someone For Rose(ローズに誰かを)】。
 ローズ(ベイカー)は元教師。離婚して一人息子ジェイ(フレイス)を引き取り、今は童話作家をしている。ある朝、空き家だった向かいに小人の男性が引っ越して来たのに気付く。買い物帰りに、その彼が荷物を抱えて歩いている所に出くわし、親切心から自己紹介をし、近所だからと車に同乗させる。空き家だと思っていた向かいは彼の実家で、20年ぶりに帰ってきたのだと言う。ひとり暮らしていた母が亡くなり、勘当同然で生き別れたままだったので、母への供養を兼ねて今は病院勤めをしているらしい。彼の名はアルバート(ウッドバーン)。
 玄関のベルに出てみると、誰の姿もなく、戸口には小さな鉢植えが置いてあった。アルバートがお礼に持って来たに違いない。お返しにと、ローズもお花を持ってアルバートの家のドアを叩くが返事がない。何気なく、敷地の中に入って行くローズだったが・・・。
 歯磨きをちゃんとしているか、そんな心配も楽しみに暮らしていたのに、可愛い一人息子がいつの間にか大人になっていた事に気付くシーンには、思春期の男の子を持つ母親の皆さんは身につまされることでしょう。

 第4話は、余命幾ばくもないレズビアンの女性と、彼女を見守る占い師の話。【原題:Goodnight Lilly, Goodnight Christine(おやすみリリー、おやすみクリスティーン)】。
 第1話に出てきた占い師クリスティーンが、癌を患っているらしい恋人リリー(ゴリノ)の世話をしながら、思い出に浸る。
 暗くて、個人的にはあまり好きになれないエピソードです。
 リリーの病気は予想できなかったのかな?

 第5話は、独身の女性刑事と、同居している盲目の妹との話。【原題:Love Waits For Kathy(キャシーを待つ恋)】。
 第1話の前、タイトルバックに、ある女性が自宅で遺体で発見されるシーンがあり、その捜査をしているのがキャシー(ブレネマン)。彼女には一緒に暮らしている盲目の妹キャロル(ディアス)がいて、キャロルは同じように目に障害を持つ少女の点字読書の先生をしている。
 冒頭で発見された遺体は、実はキャシーの高校時代の同級生カルメンで、解剖医のサムによると明らかな自殺であった。帝王切開の施術痕があり、遺留品から病院を突き止めたキャシーは、赤ん坊の行き先を調べるが、赤ん坊は誕生日の翌日に亡くなっていた。
 キャロルは教え子の父親にデートに誘われセックスをし、少女は父親とデートしないようにと忠告する。少女の言うとおり彼は薄情な男であった。
 キャロルは自殺者の人生を推理して涙し、キャシーには新しい出逢いが訪れる。
 薄情な男は第2話の銀行マン、ウォルター。赤ん坊の行き先を調べてくれた病院の事務員が第3話のアルバートでした。
 キャロルが読んでいる本が、監督の父親の代表作『百年の孤独』だったのがご愛敬。
 尚、カルメンは第5話以外のエピソードにも通行人でちょこちょこと出てきます。

 第5話の後に、各エピソードの短いエピローグが。なんとそこにもウォルターが出てきて、バーで隣に座ったエレインの煙草に火をつける。こヤツ出過ぎ!

 ロドリゴ・ガルシアは、この後、「彼女の恋からわかること(2002)」、「美しい人(2005)」と、同じようにオムニバス形式の女性主役の作品を作っています。前者はカメラに向かってヒロインが告白するだけというスタイル、後者はワンシーン・ワンカットというどちらも実験的な作風だそうです。
 想像ですが、世評通り、私もこのデビュー作が一番面白いだろうと思います。



・追記記事 ~ 小ネタ備忘録はコチラ

・お薦め度【★★★=一見の価値、充分にあり】 テアトル十瑠

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