テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

クライマーズ・ハイ

2009-10-04 | ドラマ
(2008/原田眞人 監督・共同脚本/堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋政宏、山崎努、遠藤憲一、田口トモロヲ、でんでん、中村育二、野波麻帆、西田尚美、小澤征悦/145分)


 2008年度の日本アカデミー賞で作品賞など10部門にノミネートされながら、一つも受賞できなかった原田眞人監督の力作。この監督の作品を観るのは多分コレが初めてですな。
 無冠に終わったのは、同じ年に「おくりびと」があったからで、確かに「おくりびと」の方が良く出来ていると私も思いますが、日本アカデミー賞には何か評判になる作品があると作品賞以外の部門もごっそり票が集まるという傾向があるようで、如何にも日本人的だなぁと思ってしまいます。

*

 さて、「クライマーズ・ハイ」は群馬県にある北関東新聞という(勿論、架空の)新聞社に勤める一匹狼的な新聞記者、悠木和雅(堤)が主人公。
 冒頭は1985年の初夏。悠木と彼の登山仲間である同僚の安西(高嶋)が、それぞれの息子を連れて山裾の渓流に遊びに来ているシーンで、安西はこの夏、悠木を谷川岳の衝立岩登頂に誘っている。
 その後、悠木が息子を空港に見送りに来ている場面に変わり、どうやら悠木が離婚していて、息子が遊びに来ているらしいことが分かる。息子は自分の身代わりだと川で拾った小石を父に渡し(おいおい、「おくりびと」とかぶるじゃねぇか^^)、母親が通訳の仕事でスイスに行くことになったから暫く来れないと言う。
 場面が変わり、今度は22年後の2007年、夏。冒頭のシーンで安西が誘った山登りに、すっかり歳をとった悠木が向かおうとしている所で、登山口の最寄りの駅で電車を降りた彼が数百段の階段を上って駅前で待つ安西の息子(小澤)に逢う。安西の息子が悠木を誘った格好で、それは22年前に父親がやろうとしたことを息子がやっているということ。この息子も登山家で、もうすぐエベレストに挑戦するらしい。その前に悠木に逢いに来たわけだ。

 またしても場面が変わる。それは1985年の8月12日。冒頭のシーンの続きで、その日は安西と悠木が山に登ろうと仕事帰りにそのまま駅で待ち合わせていた日だった。
 安西は出先から直接待ち合わせの駅に向かうことになっており、悠木もリュックを背負って会社を出ようとしていたのだが、その時テレビに臨時ニュースが流れた。
 「羽田発大阪行きの日航ジャンボ機の機影がレーダーから消えた!」
 そしてその頃、駅で悠木が待っていると走っていた安西は、歩道橋の上で倒れる・・・。

*

 この事故は鮮明に覚えてますねぇ。あの8月12日は月曜日で、しかし次の13日から盆休みが始まるという休み前の少し浮かれた気分の夕方でした。
 その後も新聞や雑誌のフロントページを埋め尽くしていった事故で、皆さんご存じでしょうが、あの坂本九ちゃんも帰らぬ人になりました。“ダッチロール”とか“圧力隔壁”とか“垂直尾翼”とか新しい言葉も覚えました。そして、飛行機に乗ることが怖くなった事件でした。
 乗員乗客500名以上が犠牲になり、乗務員の女性と小学生(又は中学生)の女の子が奇跡的に助かったのを覚えてますが、『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、生存者は4名だったそうです。
 生存者がヘリコプターでつり上げられるシーン、写真週刊誌に載った焼け焦げた遺体の写真は今でも脳裏に浮かびますね。

*

 悠木は史上最大の航空機事故が地元群馬県で発生したことで、登山を中止せざるを得なくなり、しかも社長(山崎)によりこの事故の全権デスクに任命される。
 以降、映画は1985年のこの事故の取材や新聞掲載の為の悠木の苦労がメインに描かれ、時折22年後の登山のシーンが挿入される。

 実際の事件報道を扱ったジャーナリストが主人公の映画ということでアメリカの「大統領の陰謀」を思いだしましたが、アレとは随分雰囲気の違う作品になっています。
 最前線で取材する記者たち、編集長やら担当部長、編集会議など殆ど同じような企業形態なんだけど、アメリカ映画が事件の取材活動をサスペンスフルに描いたのに対して、コチラは取材活動と共に当該新聞社の人間関係やら企業体質に対する批判的な描写にも多くの時間を割いています。精神論を振りかざし他社では当たり前になっている無線機さえも取材記者に持たせない上司。それは山奥で発生した事件の取材活動の過酷さを増幅させ、終盤では精神に異常を来した記者の非業の死を招いたりもする。こう書くと、人間の対立関係を描くのがテーマなのかと誤解されるかも知れませんが、あくまでも映画はこの事故報道に関して起こった一地方新聞社での数日間の活動を人間関係のゴタゴタも含めて描いた作品です。

 セクハラでワンマンの社長とか、「大久保清事件」や「連合赤軍事件」で飛び回った過去の活躍を自らの栄誉として先輩風を吹かす上司たちとか、編集局と販売局の対立とか、とにかく見終わった後に最初に思ったのは、新聞記者にはなりたくないと言うこと。同じ会社に勤める同僚でありながら助け合おうって気持ちは微塵も見られないし、ま、あんな社長の元ならあんな会社になるのは合点がいくなぁと、そんな事を感じました。

 映画的には、85年のシーンでは遠近法を使ったシャープな画面と細切れなショットの挿入、移動ショットの多用で緊迫感を作るのに成功しています。但し、少々五月蠅いと感じる部分も無きにしもあらずで、ショットの繋ぎに荒っぽい箇所も幾つかあったように記憶しています。時折挿入される22年後の登山のシーンは、二人だけの静かなものなので、単調になりがちな過去のシーンにアクセントを付けていたと思います。

 過去のシークエンスをメインに、現在のシーンを時々カット・イン(←こんな用語あったかいな?)させるという手法でジョセフ・ロージーの「」も思い出しました。ロージーの「恋」は、過去を原因とした結果の現在が(皮肉を込めて)描かれたのに対して、「クライマーズ・ハイ」の現在は単なる過去の延長としてのものでしかないように思われました。
 確かに一人の男の人生の宿題が提出された感があって、映画を見る限りではラストは収束しているように見えますが、22年前のシーンとの関連性は薄いように感じました。コチラの頭が悪いせいかも知れませんが、いまいち掴み切れてません。

 ★★★★クラスの力作。但し、前出のように掴み切れてない部分があるので、お薦め度は★一つマイナスです。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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2 コメント

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今頃ですが (オカピー)
2009-12-16 15:43:35
TBを持ってきました。

>「おくりびと」
同じ点数を付けましたが、確かに上述作のほうが本作より完成度が高いような気がしますね。

>カット・イン
そういう用語はありますよ。
基本的には同じ場面において連続性のないカットを入れるパターンが多いですが、全く別の場面から入れてもワン・ショットであればカット・インです。
2ショット以上であれば、カットバック若しくはクロスカッティングとなりますね。本作の場合明確なクロスカッティングではないですけど。

で、1985年とクロスカッティングで進む現在の場面から関連付けられるラストシーンの意味合いが、仰るように掴みにくいし、付けたし若しくは浮いたような印象があり、そこが「おくりびと」の巧みさよりは落ちるかな、と。

日本では原作ものを多く映像化する監督が(原作とイメージが違う等の理由で)袋叩きにあうというとんでもない現象がありますが、本作の原田監督もそうですね。
僕は、馬力があって結構買っているんです。
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どうも~ (十瑠)
2009-12-16 17:26:10
TB&コメントありがとさんです。

カット・インもあれやこれや入れられるとストーリーが分かりにくくなるという弊害もあったりして。

>掴みにくいし、付けたし若しくは浮いたような印象があり・・・

ですよねぇ~。
なんか意味深な風情でしたけど、なんかよくワカラン結末でした。
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