テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ヴェラ・ドレイク

2017-06-13 | ドラマ
(2004/マイク・リー監督・脚本/イメルダ・スタウントン(=ヴェラ・ドレイク)、フィル・デイヴィス(=スタン)、ピーター・ワイト(=ウェブスター警部)、エイドリアン・スカーボロー(=フランク)、ヘザー・クラニー(=ジョイス)、ダニエル・メイズ(=シド)、アレックス・ケリー(=エセル)、サリー・ホーキンス(=スーザン)、エディ・マーサン(=レジー)、ルース・シーン(=リリー)/125分)


(↓Twitter on 十瑠 から[一部修正アリ])

マイク・リー監督の「ヴェラ・ドレイク」を観る。大体の内容は分かって観ていたが、一回目観終わって監督の掲げたテーマがはっきりと分からなかった。淡々と個人を見つめる描写だったが、観終わった頃には社会的な俯瞰的なテーマを狙っていると感じた。ちょっと手法と狙いがちぐはぐな感じだ。
[ 6月11日 以下同じ]

マイク・リーという監督は脚本を作らないんだそうだ。人物像を与えて、後は所謂即興的なシーン演出をするらしい。僕の感じたちぐはぐさは、そういう手法の影響だろうと思われる。いずれにしても、もう一度観なくては。

*

 「いつか晴れた日に」に出ていたイメルダ・スタウントンが主演オスカーにノミネートされた事で知っていた「ヴェラ・ドレイク」。マイク・リーはお初ですが、観照的な視点でリアリズムタッチで描かれた作品でした。セピア調のスクリーンで展開される戦後間もない頃の負の遺産の話。ストーリーは簡単なのでallcinemaの解説を引用しましょう。

<1950年、冬のロンドン。自動車修理工場で働く夫とかけがえのない2人の子どもたちと貧しいながらも充実した毎日を送る主婦ヴェラ・ドレイク。家政婦として働くかたわら、近所で困っている人がいると、自ら進んで身の回りの世話をする毎日。ほがらかで心優しい彼女の存在はいつも周囲を明るく和ませていた。しかし、そんな彼女には家族にも打ち明けたことのないある秘密があった。彼女は望まない妊娠で困っている女性たちに、堕胎の手助けをしていたのだった。それが、当時の法律では決して許されない行為と知りながら…。>

 事前情報を読んでまず気になるのは、何故主人公は自分だけでなく家族の破滅さえも招きかねない危険を顧みずに犯罪に手を染めたのかという事ですよね。これ実は中盤に警察が事情聴収に乗り込んでくる前の夫婦のベッドの上の会話にヒントが出されていたのですが、その後情状酌量の余地を残すものとして裁判に活かされるものと思って観ていましたら完全にスルー。裁判上は影響なしで仕方ないとしても、家族間の相互理解には重要な情報となると思って観ていたのですが、最期まで再び触れられることもなく肩透かしを食いました。
 それはこんな会話でした。
 引っ込み思案の大人しい娘のエセルが近所の青年からプロポーズを受けて夫婦共に嬉しい気分の中、昔を懐かしみながら今までの苦労を思い出していた時の事です。
 夫スタンはヴェラに『俺たちは幸せ者だ。お前は母親のようにならなかったし』と言います。
 ヴェラは『あの人は仕方ないのよ』と言いますが、どうやらヴェラの母親は若い頃は奔放な人生を送った女性だと僕は感じました。何故ならその後にスタンは更にこう聞いたからです。
 『父親は誰か聞いたか?』
 ヴェラは黙って首を振りました。要するに、ヴェラは父親の名前もどんな人かも知らずに生まれてきたのです。
 この設定はヴェラが犯罪に手を染める理由の一つとして何らかのエピソードを生む材料になると思ったんですけど、結局スタンの口からも家族に語られることはなかったのです。





 即興的な演出をすると言いながら、プロットは分かりやすかったですね。
 序盤から20分は、主人公や周りの人々の紹介。20分を過ぎてからヴェラの裏の顔が出て来ます。裏の顔と言っても彼女としては善意でやっている事なので普段と変わりない物腰なんですが。

 この映画がヴェラの人生だけを追ったモノでないのは、序盤から登場する、家政婦として通っているお金持ちの家の娘(「ブルージャスミン」にも出ていたサリー・ホーキンス扮する)スーザンがボーイフレンドに暴行されて後に堕胎するという一連のエピソードがあることで分かります。中盤で彼女の妊娠が分かった後に、ヴェラとの裏の接点が出来てくるのかと思っていたら結局何も繋がらなかったという、要するにこの映画には当時の堕胎を取り巻く社会事情を描いていくというテーマがあったんですよね、監督には。
 片方では個人の人生を深堀しながら、最終的には当時の間違った社会制度を網羅しようとする態度は如何なもんでしょうか。一つ一つのエピソードの描写は優れているのに、ヴェラの秘密の扱いと共に僕的にはお薦め度がマイナスになった要因でした。

 上映開始後一時間程たつと事件が発覚し警察が登場します。
 ドレイク家では長女の婚約祝いに向かって喜びが増幅していく中、警察は徐々にヴェラ逮捕に向かって捜査が進展していき、後半40分を残す頃についに警察はヴェラの家に乗り込んでくるのです。この後の展開への緊張感が増して素晴らしい編集でした。

 アカデミー賞では、主演女優賞、監督賞、脚本賞にノミネート。
 ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞と女優賞を受賞。
 イメルダ・スタウントンは全米批評家協会賞、NY批評家協会賞、LA批評家協会賞でも女優賞を獲得したようです。
 母国英国アカデミー賞では11部門でノミネート。うち主演女優賞、監督賞(デヴィッド・リーン賞)、衣装デザイン賞(ジャクリーヌ・デュラン)を受賞したそうです。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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