テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

いつか晴れた日に

2013-05-03 | ラブ・ロマンス
(1995/アン・リー監督/エマ・トンプソン、アラン・リックマン、ケイト・ウィンスレット、ヒュー・グラント、グレッグ・ワイズ、エミリー・フランソワ、ハリエット・ウォルター/136分)


 ジェーン・オースチンの「分別と多感」【原題:Sense and Sensibility】を女優エマ・トンプソンが脚色・主演した作品。
 例によって、この時代のイングランドでは遺産相続権は男子にしかなく、しかも女性には外で働く仕事がない。そんな時代の女性を主人公にした物語であります。
 オープニングで一家の主が死んで、残された奥さんは後妻で子供は娘ばっかり三人。死の床で主は先妻との間にできた長男に後妻と娘達の世話を託すが、金にうるさい長男の嫁が何かと口出ししてきて後妻家族は冷や飯を食わされる。英国版「渡る世間は鬼ばかり」みたいですな。ただ善人も登場するところが「渡鬼」とはチト違う。いや、随分違う。女性に厳しい世相に見えて、どっこい母となれば今度はつまらぬ嫁を掴みそうな息子には遺産はやらないぞと脅す権利はあるようで、ここにも女の戦いのネタがあるわけです。

 さて、冷や飯組の三人娘の長女エリノア・ダッシュウッドを演じるのが「日の名残り」のエマ・トンプソン。
 長女らしく分別があって、穏やかで、しかも人の心にも敏感な繊細な感性の持ち主。亡き父と暮らしたお屋敷を追い出されることになって、腹違いの兄から貰える財産に見合う質素な家を探したり、高価な食材を控えたり、もうすぐ別れる事になる使用人へのプレゼントを揃えたりと冷静さと配慮が賢妻の素質十分なのに、妹からするとお人よしに見えたりする姉であります。

 そのエリノアが恋するのが、腹違いの兄の嫁ファニーの弟エドワード・フェラーズ。扮するのは「ブリジット・ジョーンズの日記」などのヒュー・グラント。ラブコメでは女性の扱いが巧いイケメンのイメージですが、今作のエドワードは大人しく真面目で女性との約束は必ず守るタイプ。都会の喧騒よりも静かな田舎暮らしを切望する青年であります。
 兄嫁に乗っ取られたエリノアの生家に初めてやってきた時は、エリノアの12歳の妹マーガレット(フランソワ)に優しく対してくれてユーモアもあったのに、その後はひたすらぎこちなさばかりが目立って少し物足りなかったかな。

 エリノアの妹で、この物語のもう一人の主人公マリアンヌを演じたのが「タイタニック」のケイト・ウィンスレット。
 感性豊かで直情型のいかにも次女らしい行動派。土砂降りの雨の中、新しい家の近くで足を挫いて難儀していたところを助けてくれた若者に一目惚れ、この恋は彼女の生死にも関わるほどの事件に発展する。

 その男ジョン・ウィロビーに扮するのがグレッグ・ワイズ。
 初登場シーンは、マリアンヌが惚れるのも無理からぬ格好よさでありましたが、段々と遊び人らしさが露呈してくる男であります。オースチンの小説には必ず登場するタイプの人物。「渡鬼」のようにバッサリと切って捨てないところが深イイところか。でもやっぱし、ラストシーンの登場は蛇足の感が。
 データを見ていたら、なんとエマさんの(7歳下の)ご亭主でありました。

 ウィロビーの悪いところを知っていながら、ひたすらマリアンヌの幸せを願って遠くから見守る男、ブランドン大佐を演じるのがアラン・リックマン。「ラブ・アクチュアリー」ではエマ・トンプソンの旦那の役でした。
 若い時に恋人が貧しいからと親に結婚を反対され、その女性が後に貧困のうちに亡くなったという過去があり、恋には消極的になっている男盛りの35歳。マリアンヌのピアノの弾き語りに一目惚れ。ウィロビーとは因縁の関係にまでなるが、ついにはマリアンヌを振り向かすことが出来る。「ダイ・ハード」とは全然、全く違う役どころでした。

 その他、エドワードの内緒の婚約者ルーシーにはイモジェン・スタッブス、エリノア達のお母さんにはジェマ・ジョーンズ、そのダッシュウッド母子に自分ちのコテージを提供するママ・ダッシュウッドの従兄弟のジョン・ミドルトン卿にはロバート・ハーディ、最初にちょっとだけ出てくるパパ・ダッシュウッドはトム・ウィルキンソン、父親に頼まれながら結果的に反故にしてしまう先妻の息子ジョン・ダッシュウッドにはジェームズ・フリートが扮していました。
 ジョンの妻ファニーに扮したハリエット・ウォルターはドラキュラ役者のクリストファー・リーの姪っ子との事。そういえば、怖い顔が似てました。

 このありきたりに見える人間ドラマにオースチンらしい変化球を投じたのが、ジョン・ミドルトン卿の義母として登場するジェニングス夫人でした。義理の息子と同じく陽気でおしゃべりで世話好きな恰幅のいいオバアさん。エリノア達も最初はその詮索好きに辟易していたが、段々と彼女の人間らしい優しさが分かってくる。ミドルトン卿を含めて、いいアクセントになっていました。
 演じたエリザベス・スプリッグスは英国アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされましたが、ケイト(ウィンスレット)に持っていかれたようです。2008年7月にお亡くなりに。合掌。

 ジェニングス夫人の娘夫婦についても書いておきましょう。
 母親と同じくお喋りな不細工娘シャーロットに扮したのは2004年の「ヴェラ・ドレイク」で主演オスカーにノミネートされたイメルダ・スタウントン。
 シャーロットは母親のような気遣いのできる女性ではなかったですが。
 そのご亭主で政治家のパーマー氏は「スチュアート・リトル」のパパ役、ヒュー・ローリーでした。

 NY批評家協会賞で監督賞を獲ったアン・リーの演出は、けれん味のない語り口ではあるが、悪く言えば個性がないとも言える。オススメ度は★四つ半。満点★にするか悩みながら、お話自体が「自負と偏見」に比べても弱い印象があるので四つ止まりにしました。ぶっちゃけ感想はツイッター(↓)から。
 なんて言いながら、後半では結構泣かされたんですがネ。
 人物のモデルについても触れていますが、ダッシュウッド家の三女マーガレットが後の「自負と偏見」のエリザベスになっているように思います。

*

(↓Twitter on 十瑠 より抜粋)

昨日の夕方、ゲオで「いつか晴れた日に」を借りる。
 [4月 30日 以下同じ]

「いつか晴れた日に」は夕べ観る。面白い。特典映像にGGで脚色賞を受賞したエマ・トンプソンのスピーチが入っていた。原作者J・オースチンが映画制作の感想を述べたらという仮定の文章をエマが作って語っている。傑作だった。漱石が写実の見本だといった彼女らしさがきっちりと出てた。さすが。

但し、ラストの結婚式はいるのかなぁ。「プライドと偏見」みたいに、そこは無しでも良かったのでは。「晩春」のように、巧い省略をして欲しかった。原作は「分別と多感」。エリノアとマリアンヌのことを言ってるみたいだけど、多分違うな。「自負と偏見」がダーシーとエリザベスのことでもないように。

J・オースチンのウィキを読むと、「分別と多感」は「高慢と偏見」より先に書かれた本のようだ。「高慢・・」はエリザベスがジェーン自身がモデルであるとすぐに想像できるが、「分別・・」は微妙だ。主人公のエリノアには、姉のカサンドラに自分を加えた性格を与えたような気がする。
 [5月 1日]

「いつか晴れた日に」2回目を観る。なんだろう?魅せるんだけどウキウキ感がイマイチなんだよねぇ。マリアンヌとエリノアの姉妹の恋物語を両方同じウェイトで描いてるんだろうけど、ちょっと妹の方を引きずり過ぎかな。エリノアの大逆転をクライマックスにしてサッと撤収・・くらいがイイと思うなぁ。
 [5月 2日 以下同じ]

後半のマリアンヌが雨の中で行方不明になるシーンで、編集ミス発見。心配そうに外を眺めるエリノアに厄介になっているお屋敷の夫婦がティーカップを差し出すんだけど、夫がエリノアに手渡したすぐ後に別ショットでその妻の方が・・・。エリノアは妻の方のも普通に受け取るので観てる方は??となる。

特典映像をもう一度見ると、アレはジェーン・オースチンがあの授賞式に参列していたらどんな感想を書くだろうかというエマの創作でした。参加者についての感想が主だが、最後がエミリー・トンプキンソンについて。自分の小説を勝手に使った悪女だと言い切る、仮想オースチンでした。





・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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2 コメント

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Unknown (宵乃)
2013-05-04 11:15:46
好きな作品です。
>魅せるんだけどウキウキ感がイマイチ
そうそう、そんな感じでしたよね。
なんとなく「優雅に泳ぐ白鳥も水面下では激しく足を動かしている」という言葉を思い出す作品でした。お姉さんのイメージかな。

一度しか観ていないので、親戚の関係がいまいち把握できなかったけど、時々ふと思い出します。ストーリーではなく、この時代、国の女性たちの姿を描いた絵画みたいに、心の隅にイメージが焼きついてるんですよね~。
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宵乃さん (十瑠)
2013-05-04 11:51:32
なるほど。白鳥のように水の下ではバタバタと。
来客の前にあわてて部屋の中に入って・・・というシーンなんか、まさにその通りですよね。
昔の邦画にも似たような場面がありましたが、昨今は死語と同じです。

>親戚の関係がいまいち把握できなかったけど

エリノアは腹違いの兄の嫁と義理の姉妹になってしまいました。ルーシーともそうだし。「渡鬼」以上にイラツク状況にみえます
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