四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

冬から春が旬である貝がそろそろ終盤、初鰹・鰈・鱸・鯵など夏の魚が出てきました。

4月11日(木)

2024-04-11 22:21:39 | 4/1~4/30


野上啓三インスタグラムsushi43nogami2←こちらに変更しました。
すべての魚・貝、天然ものです。
◇営業時間について◇火曜~土曜17:30~21:55※ラストオーダー(酒類・酒類以外全て)21:25まで
日曜お子さんデーは11:30~17:30です。※日曜はお子様の日です
店には月曜(+第一日曜日)以外10:30~営業終了+aおりますのでお気軽にご連絡ください!03-3356-0170
※レストラン予約代行サービス『オートリザーブ』でのご予約は日付・時間帯にかかわらず受け付けておりません。
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おかみノート
主人の実家はお寿司屋さん。私はなんにも知らないドシロウト。
今まで見たり聞いたり体験した 寿司屋のいろんなことを書いておきたいと思います。

『シャリの寿(ことぶき)』
オープンして十日も過ぎると最初に見えなかったものが見えてくる。
主人と義父とのあいだに常に流れている協力体制が途切れときおりつっかえるような瞬間が訪れる。
「オヤジ、もうあげて」
「なんだ、もうあげちまうのか」
「うちは出前やってねぇからガチガチに火を入れないの」
「・・そうか」
お義父さんはヤットコで雪平鍋をつかみ、ザパァッと竹串に刺した車海老をザルにあける。
そして冷ましたあとネタ皿に並べるのだがその並べ方にも主人の考えがあるようで、夕方一本ずつ並べなおしているのを見たことが何度もある。
車海老だけではない。
スミイカの子供、新イカの仕込み。
主人はゲソの先のほうは必ず切り落とす。義父は落とさない。
いろんなものを触っているところだし、食べた感じも切り落としたほうがいいと主人は思っているからだ。
コハダを仕込む時はさすがに「塩は何分、酢は何分か」と主人に聞いて義父はその通りにやる。
そしてネタ皿に並べ冷ケースに仕舞う。
すると主人がすぐにひっぱり出して包丁の先で尻尾だの、開いた両端の角度だの、カタチが気に入らなくて一枚ずつ整え始める。
切れ端がまな板の上に溜まっていく。
お義父さんはそんな息子を黙って見ていた。

午前中私は床掃除をしていた。
カウンターの椅子の背もたれは格子になっておりしゃがんだ状態で見上げるとちょうどその隙間から義父と主人のやりとりが見える。
義父はあおやぎの仕込みを終えネタ皿にきちんと並べた。
「ほい、お願いしますっ!」
お義父さんはおどけた感じで主人に声を掛ける。
主人はみつばを湯掻き水に放つとすぐにあおやぎをチェックし始めた。
ヒモが繋がったまま仕込んだかどうか。ヒモについている薄い膜は取り除いてあるか。開き方は。火の通り具合は。
舐めるようにひとつずつ見終えると主人が言った。
「お、いいね。カンペキだね、オヤジ」
「・・・・」
お義父さんは黙っていた。
「うん、これ、いいよ。パーフェクト」
主人がさらに言うと
「初めて褒められたんじゃねぇのか?、おい」
お義父さんは半分怒っているような、でも冗談ともとれるような口調で言った。

お義父さんのお昼ご飯は朝と同じメニューだ。
剥いたバナナを食パンで巻いて食べながら牛乳で流し込む。私は常にその三つを切らさぬようにと言いつかっていた。
糖尿病でカロリー制限のあるお義父さんは私たちと同じ食事は摂れない。
店の立ち上げからずっとコンビニ弁当が続いていた。皆には申し訳ないと思ったがどうにも余裕がない。
病院から指導を受けた時間にきちんと食べ終わった義父は小上がりで新聞を読んでいた。
私たちがお弁当を食べ始めると電話が鳴った。同じビルの雀荘のマスターからだった。
「社長いる?社長」
主人に声を掛けて受話器を渡した。
しばらくすると
「オヤジ、電話」
と今度はお義父さんに代わった。
主人は元の位置に戻り、唐揚げをひとつ口に入れると固まったご飯をまたわしわしと押し込み数回噛んで呑み込んだ。お義父さんは後頭部をポンポンと叩きながら独り言のように言った。
「・・だからよぉ、社長は俺じゃねぇの。息子だっていうの。・・メンバー足りねぇってぇから、言ってくらぁ」
すぐ五階の雀荘に行ってしまった。

夜のカウンターは主人が取り仕切ることになっていた。
お義父さんは白衣に捻じり鉢巻。お茶を携えて小上がりの隅に腰掛けて息子の姿を眺めていた。
「おとうさんの握ったお寿司が食べてみたいです」
女性のお客様からそう言われ、私もおどけて
「よっ、お義父さん。御座敷掛かりましたよ!」
と促した。
しかし、なかなか立ち上がらない。
「お義父さん、ほら」
「あるじのよ・・」
「え?」
「この店の主のお許しがねぇとよ・・」
出来るだけ明るい声でカウンターの向こうの主人に声を掛けた。
「ねぇ!お義父さんにお願いしたいよねぇ?」
主人は無言のまま軽く眉と瞼の辺りを引き上げ、三回ほど頷いた。
「・・じゃ、しょうがねぇなぁ」
お義父さんはゆっくりと前掛けを締めなおし板場に上がった。
カウンターに立つお義父さんには華がある。主人はその陰になった。

閉店時間が近づいた頃、お義父さんはいきなり猛烈な速さでシャリだけのにぎりを握りだした。
四十個くらいになった時
「柳のまな板を倉庫から持ってこい」と私に指示を出すとそこにシャリを並べ始めた。
シャリで “寿” という文字がつくられていた。その女性のお客様は
「うわぁ、おとうさん、すごい、ね、すごいですよね」
と私と主人に同意を求めてきた。
「このな、ことぶきの最後の点をな、食紅か何かで赤くしてな。ちょん、とやってもいいしな。半分の数を赤くして交互に並べてもいいんだぞ。緑が映えるから、こう、葉を飾りつけてな」
喋りながらステンレスのボウルに入った手酢を手に馴染ませてひとつふたつシャリを握ると、“寿”のバランスを見て足りなそうな部分、
―― カーブしている一番先っぽのところや、最後のハネの部分 ―― に置いていった。
見たことのない飾り寿司に興奮して
「お義父さんすごい!初めて見たー、ね、ね、いいじゃない?」
主人に視線を向けて頷いてもらおうとした。
「・・・・」
主人は黙ったままだ。
「・・ねぇ、すごいよ、ねぇ?こういうの覚えとくとさ、いいよねぇ?」
それでも主人は何も言わない。少し顔が紅潮している。苦虫を噛み潰したような、でもあからさまな怒りではない。
「面白くない」
と顔が言っていた。

『大葉でっぽう』
「パンッ」と何かが鳴ったので主人を見た。
まな板の上には大葉が一枚あり、中心にくるりと輪状の切れ目が入っていた。
お客様の手巻き寿司にその大葉は入れられていった。
店が終わってから主人に訊いた。
「さっきすごい音だったね」
「ああ、大葉?香りを出すためにやるんだよ」
「さっき見逃しちゃったんで、ぜひ見てみたいんだけど」
私が頼むと主人は冷蔵庫から大葉を取り出し左手の人差指と親指で作った輪に他の指も添えて茶つぼのようにし、大葉をひらりと一枚茶つぼの蓋に見せかけて載せると右手のひらを上から思いっきりそこに叩きつけた。
さっきと同じ音がした。
そして真ん中がくるりと五百円玉くらいの大きさに切れていた。
「空気圧で大葉の細胞膜が壊れるでしょ。一気に香りが出るんだ」
「お刺身を食べる時、穂紫蘇を手のひらに載せてポンと手をつぼみみたいにするのと一緒?」
「そうそう、同じ、同じ」
「でもさ、細巻きに大葉を入れる時にはやらないね」
「う~ん…手巻きはすぐお客様に手渡しするから香りの効果があるうちに食べてもらえる感じがするけど、細巻きは切ったりなんだりしていると時間が経っちゃうからパンとやる意味があまりない気がするんだよね。むしろ包丁で六つに切ったり、食べる時に噛んだりで香りが出るでしょ。まあ、一種のパフォーマンスみたいなもんだよ。特に深い意味はないから」
パフォーマンスをあまり好まない主人がやるパフォーマンス。
紙でっぽうの音に似ているので“大葉でっぽう”と勝手に名付けた。

明日は『大根の役割』『菱井桁』です
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◎赤貝の仕込み 動画アップしました(5分03秒)
◎シャリ酢あわせ 動画アップしました(1分50秒)
◎かんぴょうを煮る動画アップしました(7分30秒)
◎玉子焼き動画アップしました(6分53秒)
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1dayアーカイブ2023年~2001年4月11日のおしながき[2023年]
[2022年] 野上啓三が見ている豊洲市場の風景 寿司屋の七十二候
[清明・第十三候・玄鳥至つばめきたる ]4/5~4/9・長崎対馬 のどぐろ 今、店
・千葉勝浦 金目鯛 今、店
・宮城 石巻 シャコ 今、豊洲
・和歌山すさみ ケンケンガツオ 初鰹 今、店
・愛知 師崎 平貝と隠れエビ 今、店・木の芽の鉢植え 今、豊洲[2021年][2020年]新型コロナウイルス感染の影響を鑑み、4/5(日)~4/12(日)まで休業致しました。
[2019年][2018年][2017年]
[2016年]野上啓三が見ている築地の風景 七十二候 3/30→4/3 [春分・第十二候 雷乃発声かみなりすなわちこえをはっす]4/4→4/8 [清明・第十三候 玄鳥至つばめきたる]4/9→4/13 [清明・第十四候 鴻雁北こうがんかえる]左上から横に
・のれそれ(茨城・大洗)・ホシガレイ(静岡・舞阪)・本桜鱒(北海道・函館)・タイラギ(愛知・篠島)・生桜海老(静岡・駿河湾)・喜知次(青森)・大羽鰯(千葉・竹岡)・活車海老(愛知)・オコゼ(福井)
[2015年]

005[2014年]シャコ、青柳、すみいか、春子、生トリ、生小羽鰯、本鱒(本桜鱒)、赤うに、本ミル、真鯛、生子乃子、新規入荷です。今、築地006

赤うに、出始めなので粒が小さめです。[2013年]4/11(木)、店主腰痛のため、休業させていただきました。



Nogami0906_006[2012年]神奈川県下浦 〆小あじ’12 4/9→4/19 リニューアル工事でした。



 



[2011年]



005産庁・漁港一覧から、青森・岩手・宮城・福島・茨城の全部の漁港が載っている一覧表をアウトプットしました。



太平洋の魅力あふれる魚や貝が豊富に獲れる漁場。



仮にこの先いくつかの港がまとまってひとつになったとしても、どこのものかということに思いを馳せたいと思いました。



 



 



002



[2010年]



メソ穴子は小さめの穴子です。ご注文をいただいてから煮ますので15分くらいお時間を頂戴します。



006



[2009年]春から初夏にかけてのほんの一時、アカイカを築地で見るのはこの時期なのだそうです。主人は言います。「冬から春にかけて、泳いでいるヤリイカ・スミイカ・アオリイカをしょっちゅう見かける。それがだんだん活けで入ってくるのが減ってきて、今ぐらいの時期にアカイカがふっと現れて、“あっアカイカだ!”と思っているとすぐにシロイカの時期に突入して…そうこうしているうちにもうシンイカだ…ってなるのが毎年のことだね」 と。



001 右がアカイカ(赤烏賊)、左がスミイカ(墨烏賊)です。



 



 



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