3月31日(金):
339ページ 所要時間5:50 アマゾン407円(150+257)
著者42歳(1961生まれ)。
2004年2月に日本で公開(中国では2003年9月)された中国映画『ヘブン・アンド・アース 天地英雄』(何平(フー・ピン)監督)に唯一の日本人俳優として唐代の遣唐使 来栖旅人として日本人でただ一人参加した中井貴一の体験記である。
縁あって、中国映画出演のオファーを受けた中井貴一が、世界で最も難しい言語の一つとされる中国語に躊躇するが、尊敬する高倉健さんから外国映画出演の値打ちと「中国映画に出演する中井貴一を観たい」という言葉を頂き、「えいやっ!」と出演に踏み切る。シンチャンウイグル自治区を中心に進められる映画撮影の様子や当時の思いを著者は「日記帳」に記録していた。本書は、その日記の原文をベースに解説を加えるような形で綴られた中国映画出演記である。
先ず、中国(香港ではない!)という全くの異文化かつ困難な中国語の映画に群れることなく、たった一人で飛び込んだ著者の日本人俳優としての心意気に最大限の賛辞を贈りたいと思う。その上で、何平(フー・ピン)という非常にハズレの監督に当たってしまったことに「本当に大変でしたね」と慰労させて頂きたいと思う。
読み始めて、本書半ばぐらいまでは、著者が感じる中国でのさまざまな異文化体験をお約束の内容として面白がっていたが、途中で時間に対するルーズさが、中国の常識から見てもおかしい。最終的には、予定の契約期間を一か月以上大幅にオーバーして4か月にわたった撮影になってしまった原因が、何平(フー・ピン)というハズレ監督の秘密主義と計画性の無さ、無責任にあったことが明らかになる。予定通りに全く進まず無駄に、虚しく撮影が先延ばしされていくことに著者が大いに戸惑い、不信感と怒りを募らせていく様子が、撮影現場の息遣いとともに日記を通してリアルに伝わってくる。
お国柄の違いはもちろんのこと、監督の無能さや監督とスタッフ・俳優たちとの関係性の日本との違いなど、日本の中に留まっていては見えない様々なことを著者は体験し・思考していく。その中で著者は「海を渡ってきた外国人俳優」として現地の習慣や流儀に対してできる限りの寛容さを示そうとするが、それが国柄なのか、監督個人の資質なのか、外国人として受容するしかないのか、言うべきことは指摘すべきなのか、大きく揺れ動き、迷い、やがて戸惑いと怒りが噴出していくのだが、それが本当の異文化体験というものだろう。
元々、俺は著者である中井貴一の大フアンではあるが、彼がこんな経験を敢行していることや本書中で示された俳優論を知り、中井貴一という俳優がただ者ではない、ということを再認識させられる思いだった。
まあ、あれこれ言ってますが、体験に裏打ちされた実のある内容の価値ある本だということで是非お薦めできる本だと述べておきます。また、出来上がった映画に対して著者自身は納得せず、残念に思う部分が多々あることも知っておけます。
・普通、何かあると人間は平常心になろうと努めるが、その平常心は一歩間違えると無関心につながりかねない。そしてそのときにこそ、本当の寂しさが自分んに襲いかかかってくるのだ。302ページ
・3カ月以上の滞在で、たった40日しか撮影されず、あとは軟禁状態、苦しい生活に耐えるためだけに、ここに来たわけではない。ホー・ピンは自分で責任を負わない人間である。309ページ