昨年11月の会談で習氏が硬い表情を崩さなかったのとは対照的に、両首脳はこの日、笑顔で握手を交わした。日本側同行筋は「前回と比べて中国側の雰囲気はとても和らいでいた」と会談の様子を語った。
会談は日本側の要請で実現した。26日からの首相訪米を前に、日中関係の改善を国内外に印象づける必要があったためだ。会談に先立つバンドン会議60周 年記念首脳会議では、両首脳が演説でともに直接的な批判を避け、相手の演説時には席を外した。スムーズに首脳会談に入れるよう配慮したとみられる。菅義偉 官房長官は22日の記者会見で「日米両国にとって、アジア太平洋地域の平和と安定は極めて重要だ。日中がそうした方向に進んでいくことは(米国から)歓迎 されるだろう」と述べた。
とはいえ、中国側が安倍政権への警戒感を緩めたわけではない。中国側が首脳会談に応じたのは、歴史認識に関する首相の考えを確認する意図もあった。
首相は会談で、先の大戦への「深い反省」に言及した首脳会議での演説に触れ、平和国家としての歩みを変えないことを強調した。同行筋は「(習氏は)従来 の言い方とそう変わりはなかった」と説明した。歴史認識で厳しいやり取りはなかった模様だが、未来志向の戦後70年談話を目指す首相と、「過去」を重視す る中国側にはなお温度差がある。
日本はアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を見送っているが、中国としてはノウハウを持つ日本に参加してほしいのが本音。中国メディアは、首相 が「日本はアジアにはインフラ投資に巨大なニーズがあることを認識しており、中国側とAIIBに関する問題を検討したい」と述べたと報じた。
習氏は日中関係について「双方が積極的な政策をとる必要がある」と踏み込んだ。対日政策は中国トップの権力基盤のバロメーターといわれる。軍を含む反腐 敗運動で権力基盤を固めた習氏は、対日強硬一辺倒を改め、両国間の課題について率直に意見を交わせる関係を模索しているようだ。
【ジャカルタ木下訓明、石原聖】安倍晋三首相と中国の習近平国家主席は22日の会談で、両国の関係改善にそろって意欲を示した。アジア・アフリカ会議 (バンドン会議)60周年記念首脳会議を利用した両首脳の会談は国際社会への格好のアピールになったが、習氏は首相の戦後70年談話を念頭に「歴史を直視 した発信を」と注文もつけた。両首脳が互いに間合いを計る展開は当面続きそうだ。