徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「シアター・プノンペン」―激動の大弾圧の時代を生きた家族の知られざる真実―

2016-08-29 18:00:00 | 映画


 非常にめずらしい、カンボジア人女性による初監督作品だ。
 ソト・クォーリーカー監督が、プノンペンの古い廃墟のような映画館を舞台に、映画愛に溢れたヒューマンドラマを織り上げた。

 1970年代、ポル・ポト政権下圧政に苦しんだ、カンボジアの負の歴史を踏まえつつ、あの暗黒の時代に無関心な現代の若者の姿を描き出している。
 過酷な歴史を背景に、娯楽性と社会性双方に微妙な腐心を感じさせる映画だ。
 あまり知られていない、知られて欲しくないその国の歴史も、いつか明らかにされる時があるものだ。









カンボジアの首都、プノンペン・・・。
いまではバイク置き場となっている古い映画館の片隅から、女子学生のソポン(マー・リネット)は、一本の古い映画を発見する。
何と、その映画は古い恋愛映画で、主演女優は若き日のソポンの母だったのだ!
文化否定のポル・ポト時代で、公開できなかった作品のようだ。
美しく輝いていた母の、知られざる女優時代・・・。
そして、40年間も母を慕い続けていた元映画監督で、いまは映画館主のソカ(ソク・トゥン)・・・。

映画の最終シーンが失われていることを知ったソポンは、今は病床に伏せる母ソテア(デイ・サヴェット)のために、この作品を完成させようと決心する。
ラストの一巻がないので、ソポンが母親の代役で再現して公開する計画を、仲間たちと立てるのだった。
だが、その時から、軍人の父(トゥン・ソーピー)、かつて母と愛し合ったソカたち、世界を揺るがせたクメール・ルージュの時代を懸命に生きた人々の、半世紀近くにも及ぶ数奇な運命が明らかにされてゆく・・・。

40年前に、かつてアジアのパリと呼ばれていたこの街を廃墟とし、国民の四分の一を殺したポル・ポト政とは何だったのか。
もとより温和な国民性で知られるこの国で、政治的な大虐殺があったのだ。
この作品に登場するソポンの父と母も、殺し殺される関係だった。
両親は、娘に本当のことを語っていない。

結末の失われた一本の古い映画をめぐって、若い現代女性が過去と向き合う。
美しい恋愛ドラマの背景に、ポル・ポト率いるクメール・ルージュによる大虐殺という、カンボジアの負の歴史が大きく横たわっている。
飛行機の操縦士だったという監督の父も、殺戮の被害者だ。
ソト・クォーリーカー監督カンボジア映画「シアター・プノンペン」は、彼女の家族の歴史であり、多くのカンボジアの家族の物語でもある。

主人公ソポンを演じるマー・リネットは、カンボジア期待の新鋭女優で、その母親の少女時代という二役に挑み、鮮烈なデビューを飾った。
母親役はカンボジア映画界の大御所デイ・サヴェットで、クメール・ルージュ時代を奇跡的に生き延びた唯一人の女優だ。

多くの映画人を見守ってきた映画館シアター・プノンペン、エネルギッシュな街プノンペン、深い緑に囲まれた静寂の中にたたずむ蓮の池と・・・、現代と過去の歴史が渾然となった作品世界を、オールロケーションで写し撮っている。
カンボジアに広がる過去を封印する風潮に対して、ソト・クォーリーカー監督が一石を投じた(!)意欲作は、激動の時代を生きた映画人たちの壮大なヒューマンドラマだ。
いろいろとエピソードを散りばめて、沢山詰め込みすぎているのは少し気になる。
それでも、優れた娯楽作品に仕上げながら、カンボジア映画人の無念の思いはずしりと重い。
見応えも十分である。
      [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回は日本映画「後妻業の女」を取り上げます。