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米朝合意による北朝鮮の陣営組み替え

2018年06月13日 | 安保・国益


(2018年6月)[シンガポール 12日 ロイター] - 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、朝鮮半島の完全な非核化を目指すことで合意、米政府は北朝鮮に体制保証を与えることを確約した。




今回の米朝署名文書にCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が含まれていないことをもって、米側の一方的譲歩に過ぎない、との批判が増えている。気持ちはわかるが、米国の主敵を中国に組み替えるという大きな文脈を意識しなければ、今回の米朝合意は読み解けない。

合意文書の記事を末尾に示すが、2段落目にこうある。ここが今回の取引の肝と見る。(原文と訳文はReuters版)

President Trump committed to provide security guarantees to the DPRK, and Chairman Kim Jong Un reaffirmed his firm and unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.

トランプ大統領は北朝鮮に安全保障を約束し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない、固い決意を再確認した。



すなわち、今回の取引を意訳するとこうなる。

A) 米国は、北朝鮮に安全保障サービスを提供する。
B) 北朝鮮は、朝鮮半島の完全な非核化に責任を持つ。


つまり、北朝鮮の有事には米軍が防衛に参加するから、もはや自前の核兵器は不要でしょう、と。
これは、“米朝軍事同盟”とか“米国の核の傘を提供”に匹敵する、驚天動地の合意。



この話の布石は、実は5月9日のポンペオ国務長官の訪朝時から出ていた。

《ポンペオ氏は、「確実にしようと思ったら、安全保障を提供しなければならない」、「これは25年間未決のままの取引だ。北朝鮮の首脳に、この取引が真に可能だと思わせる状況に米国を導いた大統領は過去にいなかった」と述べた。》

「北に安全保障提供」米国務長官、非核化の見返りに言及
http://www.afpbb.com/articles/-/3174460





トランプ大統領は以前にはこうも言っていた。

1)北朝鮮への経済支援は韓日中がするはず
2)米国の税金は使わない、米民間投資を通じて北朝鮮経済の再建を後押し


米国はビジネスの国だから、米国企業が儲からない国や地域には安全保障なんて提供しない。つまり、今回の米朝合意の本当の狙いは、北朝鮮の“準西側化”。


トランプ氏「北朝鮮への経済支援、韓日中がするはず」 | 中央日報
http://japanese.joins.com/article/940/241940.html

【米朝首脳会談】“体制保証”解釈にズレ 国民豊かになれば体制揺らぐ? 北の目的は「米軍撤退」 - 産経ニュース
https://www.sankei.com/world/news/180607/wor1806070035-n1.html





そうすると、やはり先日書いたこの記事の話につながる。

《これも定番の話だが、米国はビジネスの国。焼け野原になった北朝鮮を中国にさらわれるよりは、陣営組み換えして核兵器を廃絶した北朝鮮に米国企業が進出して商売した方が利益になる。》

北朝鮮情勢の雑読み
https://blog.goo.ne.jp/zf-phantom/e/37a8e4cce9017dc3630bdd0f1dfae2e3


ということで、これはアナロジー(類推)としていうと、NATOが東欧諸国を飲み込んだような動きをこの北東アジアでやろうという話だと解釈する。

従って、焦るのは習近平とプーチン。ただし、トランプはG7にロシアを復帰させようと言い出したりしてるから、プーチンにはまだ選択肢がある。




ここで思い出すのは、安倍総理のこの言葉。この時点(2017年9月)では奇異に感じた人も多かっただろうが、日米両首脳間で北朝鮮の陣営組み替えの構想ができつつあったのではないかとも感じる。

《北朝鮮はアジア・太平洋の成長圏に隣接し、立地条件に恵まれています。勤勉な労働力があり、地下には資源がある。それらを活用するなら、北朝鮮には経済を飛躍的に伸ばし、民生を改善する途があり得る。》

第72回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0920enzetsu.html





だから、以下の話も世間が思ってるのとは意味が違う。中国の同盟国だった北朝鮮を東欧と同様に“準西側”にひっくり返したということを指している。

《金委員長は両首脳が歴史的な会談を行い、「過去との決別を決めた。世界は重大な変化を見ることになるだろう」と述べた。》

《トランプ大統領は金委員長と「極めて特別な絆」を築いたと評価し、将来の北朝鮮との関係はこれまでとは全く違ったものになるとも言明。》

《昼食会後には金委員長とホテル周辺を散策し、「誰もが予想したよりはるかに良い成果が得られた」との認識を示した。》

米朝首脳、非核化と北朝鮮の体制保障で合意 具体性に疑問符も
https://reut.rs/2y2FUPZ



また、そうであればこそ、米韓軍事演習の中止や在韓米軍撤退の話が唐突に出てくる理由もわかるというもの。

米韓軍事演習、トランプ氏が中止の意向 軍撤退も示唆
https://reut.rs/2HKNWNa





ところで、“米朝軍事同盟”成立となれば気になるのは中朝軍事同盟だが、海上自衛隊幹部学校のコラムにはこんな解説もある。中朝軍事同盟などというものは最初から無いのだと。今回の米朝首脳会談でも、おそらくその点について金正恩に直接問いただす場面があったのだろうと推測する。

《いずれの議論からも窺える中朝関係の姿は、王俊生の言う「複雑な戦略バランスの産物としての特殊な関係」であり、我々が想像するような中朝軍事同盟関係ではない。(中略)また更に遡れば、1984年5月に、鄧小平が「中国の対外政策は独立自主であり、同盟関係を作らない」と明言している記録があり、中国は北朝鮮との関係を同盟関係にあるとは言っていない。》

海洋安全保障雑感~米国東海岸便り(No.6)~
-中国と北朝鮮と選択肢-
http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-094.html





以上の読みが正しいとすると、シンガポールに来た金正恩が妙に余裕の行動を取っていた理由もわかる。彼は敵対国の国家元首(=トランプ大統領)と対峙するために来たのではなく、これまでの敵対関係を解消し、準同盟国あるいは庇護国としての立場を得るためにやって来たのだ。

シンガポールから多くを学びたい─金正恩氏=KCNA
https://reut.rs/2JKTlIU

金正恩氏、首脳会談前夜にシンガポール観光 植物園など訪問
https://reut.rs/2l1qQZx


また、今回の米朝首脳会談で撮影された金正恩の表情がどれも非常に柔和で安堵感に浸っている雰囲気だったことも理解できる。




さて、あまり先読みしすぎるとアレだが、、、北朝鮮が準西側になったら何が起きるか。日本国内でも、想像以上に天地がひっくり返る可能性もある。夢を見過ぎるのも良くないが。

・金正恩が「反日言論はもうやめろ」と指示したらどうなる。
・朝鮮総連の姿勢はどうなる。
・反日偏向がひどいマスコミの報道姿勢はどうなる。
・挺対協などの北朝鮮勢力の影響が強い慰安婦問題はどうなる。





(追記)

戦略学博士の奥山真司さんは、こう書いている。

《つまり戦略というのは、下から順に技術、戦術、作戦、軍事戦略、大戦略、政策、世界観とレベル分けされる。しかも「上位のものが下位のものを決定する」という原則があるのだ。》

【脱ハウツー本!本当の人生戦略】戦略の階層 上位が下位を決定する原則 - 政治・社会 - ZAKZAK
https://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20121113/plt1211130709000-n1.htm


今回の米朝合意をこれに当てはめると、おそらく次のようになる。

世界観
政策  :米国の主敵をロシアから中国に切り替える
大戦略 :北朝鮮の準西側化
軍事戦略
作戦  :CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)
戦術
技術


したがって、政策レベル(=米国の主敵をロシアから中国に切り替える)の構想に基づいて、大戦略(=北朝鮮の準西側化)を米朝首脳会談で合意したという話に、作戦レベルの『CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が含まれてないのはダメだ』と非難することに終始するのは、それこそ「戦略の階層」がわかっていないのである。

そんなことは、米朝署名文書にあるように、ポンペオ国務長官ら実務者レベルの仕事であって、大統領の仕事ではない。




(追記2)

トランプ大統領が、米朝首脳会談の際に金正恩に見せたというビデオ。
「米国と戦争するよりは、西側諸国の一角として経済発展する未来を選びなさい」と誘っているようだ。




(追記3)

米国ワシントンの複数の研究機関が結成した「ビヨンド・パラレル(境界線を越えて)」という民間組織の2017年の調査によれば、北朝鮮の住民の68%は米国を敵とみなしていない、とのことである。北朝鮮の“準西側化”を模索するにあたっての下調べ(身体検査)のようにも見える。

"A study commissioned by Beyond Parallel of North Koreans currently living inside the country found 68% North Korean respondents do not see the United States as North Korea's enemy."

本当は米国を敵視していなかった北朝鮮国民
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53307

A View Inside North Korea
https://beyondparallel.csis.org/a-view-inside-north-korea/





(余談)

前から思ってたのだが、金正恩って映画『レッド・オクトーバーを追え!』の可能性も10%くらいあるんじゃないかとずっと疑ってた。(ストーリーはググってちょうだい)

その場合、誰かが「CIAアナリストのジャック・ライアン」役をしないといけない。つまり、敵の真意の推測と確認。前CIA長官のポンペオ国務長官がその役だろうか。事実、上記のように5月9日に訪朝し、金正恩に会っている。



(余談2)

金正恩レッドオクトーバー説に私が気づいたのは、おそらくこの記事のあたり。2016年。北朝鮮お抱えの料理人・藤本氏の話として次のように書かれている。

《すると金委員長は、語気を強めてこう言った。「ロケットやミサイルを打ち上げるのは、アメリカのせいだ。アメリカと交渉し始めると、すぐに無理難題を突きつけてくる。アメリカとの関係は相変わらず険悪だが、私は戦争などする気はない。だからどこにも当たらないように(ミサイルを)打ち上げているではないか」》

「金正恩の料理人」藤本健二氏がもらした“将軍様”の胸の内
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49855



(余談3)

2017年に発射した弾道ミサイルの飛翔コースも、もしミサイルにトラブルがあっても日本への被害が出にくいように津軽海峡を通るコースを選んだのではないかとの観測も流れた。この時も、飛翔コース選定から“日本への配慮”を感じた。






米朝署名文書の全文:

Trump and Kim's joint statement
https://reut.rs/2l1Q5e6

情報BOX:米朝首脳会談、共同声明の全文
https://jp.reuters.com/article/us-nk-summit-joint-statement-idJPKBN1J80RF




以上。





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3 コメント

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Unknown (中島みゆき)
2018-06-14 11:54:33
本当に北朝鮮が準西側に行くのであれば日本にとってもかなり喜ばしい事態ですが北朝鮮をどこまで信用できるのでしょうかねぇ?
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中島みゆきさん、 (ZF_phantom)
2018-06-14 12:01:11
信用する必要はないと思います。互いに信用できない相手として、双方の見返りを確認しながら適宜現物取引で良いと思います。
返信する
どうしましょぅ (真客)
2018-07-20 13:42:11
2015年07月17日の なでしこりん 消された記事 の中にある「他の方」です
http://kotoage.net/
ameba blog なでしこりん さんのバックアップ
blogspot なでしこりん さんのバックアップ
http://nadesikorin0719.blogspot.com/
blogspot.comも消えちゃってるんですねぇ
138記事と48記事のデータを放置してますがどうしましょう
samurai20さんのコメント欄から来ました
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