『君たちに明日はない』垣根涼介 2005年山本周五郎賞受賞作
垣根の作品は「ワイルド・ソウル」「ヒート・アイランド」に続き3冊目。
本書は前の二冊のようなハードボイルドとは違い、リストラ請負人の話。
バブルがはじけ、日本の会社は人切りを考え始めた。
そこで、リストラ請負を専業とする会社が生まれ、主人公はそこの優秀な社員。
退職を迫る主人公に、様々な男女が怒り憤慨し涙を流す。
しかし、垣根の筆致は軽やかでリズミカル、そしていつものようにスタイリッシュだ。
ただ、私の好みからすると前2冊には及ばない。
★★★☆☆
ところで、私も経営者の端くれであり、
過去にリストラ、、会社の理由により馘首した事がある。
理由は業務縮小で、デザイン部門でひとり、営業からひとり、
どう計算しても余剰人員が出た。
このリストラを敢行しない事は会社の死を意味した。
まずデザイン部門は、
サブをやっていたデザイナーに頭を下げ、事由を説明しなんとか理解を得た。
問題は営業で、
その当時はまだ長男が入社して一番月日が短く、
必然として他の営業部員に成績が及ばなかった。
会社の事を冷徹に考えるならば、長男に涙を呑んでもらわねばならなかった。
他の営業部員も会社の実情は薄々判っており、
「自分かもしれない、、」という疑心は会社を暗くし、
当時のこの街の就職状況を見ても、簡単に再就職が可能とは思われず、
皆ぎすぎすと余裕のない目で私の顔を盗み見た。
誰にも言い出せないままに私は呻吟し苦悩した。
1ヶ月くらいが過ぎ、
会社のトイレに行こうとした時、たまたま長男が通りかかった。
彼は私を見てこう言った。
『おれさぁ、、、会社出て外の空気吸おうかと思ってんだ』
『エッ、、、会社出るって、、』
『うん、、今会社、人多すぎるでしょ?、、、いい機会だしさ、、』
『、、、、、、そうか、』・・・
長男はニコッと笑い、右手を少し挙げて離れていった。
わたしはトイレに行き用を足し、
洗面台に行き、
鏡を見た。
そこには、、、
自分のこどもも守れなかった、
目の下に大きなくまを作った、
情けない、
やつれて痩せた男が居た。
私は手を洗うために水道の水を出した。
冷たい水に濡れる手をぼんやり見ていたら、
涙がとめどなくこぼれ出てきた。
立派なご子息ですね。
さすがに社長の後継者だけあって
お父様の呻吟を、言わずもがなで理解されたのですね。
P家の父子愛を感じさせて頂きました。
あの時ほど情けなく無力を感じた事はことはありません。
今は静かに碎啄の機を待つばかりです。