陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「こころの宛先」

2007-02-19 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
「ねえ、姫子。もし今後商品化して欲しいものってあるかしら」
「えっ…と、確かにわたしたちのアニメグッズって少ないよね…。どうしてだろう。
残念だなぁ…千歌音ちゃんは綺麗だし、人気があるからグッズにしたら売れると思うよ」

顎に人差し指をあてながら、瞳をくりくりさせる、思案顔の姫子。
その真剣な仕種がとても愛らしくて、千歌音の頬はおのずと緩む。

「私たちの姿がグッズになって売れるのは嬉しいことよ…でもね」

姫子の両頬を掌で包み込むように顔を近づける。
花弁の一枚たりとて散らさぬように、大輪の薔薇のうてなに添える気遣いのある手つき。
姫子の顔は、決して手折ってはいけない微笑の花なのだから…。

「姫子の姿を誰かが切り取って、所有しているのを見るのは少し胸が痛むの。
貴女のこの眩しい笑顔を私だけの物にしておきたい」

じっと見詰められて、姫子は恥ずかしさに瞳を逸らしてしまう。

「そ、そんな…照れるよ、わ、わたし」

可愛らしい鼻先をちょんと、人差し指で突ついて、姫子の視線を自分へ戻させながら。

「ふふっ…私、我儘ね。お陽様の光を自分にだけ向けさせたいなんて。
姫子のどんな顔もこんなに近くに眺めていられるのに…」
「わ、わたしだって本当の千歌音ちゃんだけで十分だよ?!で、でも何時でも手元に
千歌音ちゃんの笑顔を、写真だけじゃなくて何かの形にしておきたいなんて…贅沢かな?」
「そうね。ファンの皆様の為にも、もっと真面目に考えてみましょう」

彼女はとてもゆっくりとものを考える。
実のところ、千歌音が欲しいのは的を射た答えではない。
その可憐な唇に乗せて欲しい名前は「千歌音ちゃん」で、
囁いて欲しいのは「愛している」の一言だけ。
どんな修飾語も要らぬ、簡潔な、二人だけの世界の魔法の文法だ。
問い掛けをしておきながら、姫子の思考が他の何かで満たされているのを惜しんで、
答えを阻んでしまった先刻の自分。自嘲気味に苦く笑った。傍らの少女に気取られぬように。

「あのね、よく少女漫画の雑誌で附録になっている便箋・封筒セットはどうかな?」
「それはいいアイデアね。私たち二人が一緒の絵柄でね」
「わたしも千歌音ちゃんと一緒だといいな。毎日、お手紙書くのが楽しくなるよ」
「私ももちろん欠かさず返事を出すわ。素敵なポストがあるしね」

姫子のブラウスの釦が外されて、胸元に白い手が差し入れられる。

「ひゃっ!…くすぐったいっ…ん…あっ…」

ちょっと感じてしまった姫子。
顔中に薄紅を刷いたように、恥じらいの色が漲る。

「千歌音ちゃんほど大きくないんだし、わたしの胸に挟める訳ないじゃない。
かっ、からかわないでよぅ!」
「フフフ、ごめんなさいね、姫子」

マシュマロのような少女の胸の肌触りと温もりを楽しんで、千歌音は姫子をくすぐり
から解放した。悪戯っぽい笑みを浮かべながらも、透き通るほどに深い色の瞳が、
ふと神妙な眼差しを送る。
高鳴りっぱなしの胸がようやく鎮まったところなのに。
でもそれは、いつもの嬉しいどきどきだから。
姫子は今度こそちゃんとした笑顔で、その熱い視線をうけとめる。

「…でもね、間違ってなんかいないわ。私の気持ちの届け先は、いつも貴女の心だもの」
「千歌音ちゃん…」

愛しい人の胸に顔を寄せて、命の脈打つ音に耳をそばだてながら、千歌音はそっと瞼を
閉じる。
姫子のこころが聞こえてくる。
どこまでもまっすぐで、いつでも優しくて、心地好い…――自分だけに贈ってくれる
「大好き」のリズム。
余りにも姫子のほんとうに距離が近すぎて、今はもう飾り立てた言葉なんていらない。
この世界で一番の存在が奏でる、この幸せな甘い調べに耳を澄ませて、ずっとずっと
まどろんでいたい。
でも、せめてひとことを伝えてから。
おやすみと同じくらい重ねてきた、熱い夜の合い言葉を。
弾むようなときめきを刻む姫子の胸、そこに隠された魂に口づけるように
寄せられた美しい唇が、おなじみのフレーズを甘く囁いた。

「…愛してる、姫子」










【後書きという名の悪あがき】

メディア流出をしないのは、やはり千歌音ちゃんの陰謀でしょうか(笑)
あまりにも気恥ずかしくて、二〇〇六年七月頃執筆したものの、死蔵させておりました。
当初ネタに走るつもりだったのに、なぜか中途半端なシリアスに…。
本編の雰囲気壊してましたら、ごめんなさいまし…。

「神無月」はともかく「京四郎」でレターセットとか出そうな気が。
なんで抱き枕とか、グッズがマニアックなんでしょうね…。



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2 Comments

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肝臓はくれぐれもお大事に(笑) (万葉樹)
2007-03-02 21:45:01
ごきげんよう、ユリミテお姉様。

お久しぶりです。レスが遅れてすみませぬ。
酒の肴にもならぬ、ど素人の駄作にお言葉くださり、
ありがとうございます。
ああ、でもきっと酒豪のユリミテ様を酔わせるような
代物ではありえず。
お恥ずかしゅうございますっ(大赤面)
物語になってないので、永久に封じておくべきだったの
ですが。「京四郎」で不遇な二人に耐えかねて、一時の
気の迷いで出してしまいました。
人物の特性を損なわず、シリアスなものがちゃんと書け
る書き手さんが羨ましいですね。

>切→甘希望。
時間と力量と(発表する勇気)があれば…。
といいますか自分の場合、読者サービスではなくて
自己救済の一環として書いていますので、二次小説と呼
んでいいのか疑問なのですが。
地の文のほうが主張しやすいですし。

それはともかく。
アニメ本編も原作漫画も、この飴と鞭の使い分けといい
ますか、苦味と甘味の切り替えが上手いですよね。
ビールを一気呑みしたとしても、程好い甘さがほんわり
残ってしまう。そして何かを考えさせる。
人生について。恋について。
そんな物語を読んでみたいです。

あ、ちなみに万葉樹は酒をあまり嗜みませんが
つまみは柿の種が大好きです(誰も聞いてません)
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Unknown (ユリミテ)
2007-03-01 20:40:13
先生。是非姫千歌SS書いてくださいまし。
どうかどうかお願いします。
できれば切→甘希望。
うますぎる!ひきこまれて飲んでいたビールをあおってしまったくらいにっ!
尊敬しますです。うまいなぁ。
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