2009年から2011年にかけて、勤労感謝の日特集で特選映画レヴューを行いました。(◆特選映画レヴュー集◆参照)
この世の中にはいろいろな職業があります。資格や高度な専門知識を活かし、組織の経営課題解決を行う基幹業務もあれば、組織のネームバリューに名を借りた、末端のただの事務作業だけのものまで。わたしたちはついつい仕事の何たるかで人間の価値をはかってしまいがちですが、そもそも、どんな仕事も必要があるから生じているわけで、そこに貴賤があるわけではありません。単純な作業やルーチンワークは今後どんどんAIに奪われていきますし、ひとつの会社で長くいただけで培ったような知識や、その職場だけの人間関係はすぐに他の職場では使えなくなりますよね。
資格や学歴を活かしているから、業界や業種が見てくれがいいから、ではなく。
仕事は他人の生活に役立ってこそ価値があるものではないでしょうか。いくら能力があっても、組織内でパワハラまがいのことをくりかえし、心身の健康を損なわせ、職場環境を悪くするような人間は厳しく咎められるべきなのです。そういう人は創造的に仕事を生み出しませんし、自己保身のあまりに他者を不当に低く評価して、ひとを育てて伸ばすこともできません。
そして、自分の仕事ぶりにしか興味がない人は、社会的な問題解決に向かう力すらありません。
しばしばエリートと自認しがちな人が陥りやすい過失は、社会のいちばん弱い立場にいる人の気持ちを自分がそこにおちぶれるまでは気づくことができないということです。私が知る限り、医療機関やお役所仕事、士業関係者にこういう御仁が多いのは残念ですね。
1993年の映画「フィラデルフィア」は、エイズ差別に立ち向かう弁護士を描いた社会派ドラマ。エイズ患者=ゲイという認識が根強い米国では、かなり話題を呼んだ法廷劇です。
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一流の弁護士事務所で働くエリート弁護士ベケットは、将来を嘱望されていた。だが、ある日、医師からはエイズ感染を宣告される。職場には隠しとおしていたが、仕事のミスをでっちあげられて不当に解雇されてしまった。
ベケットは、弁の立つ黒人弁護士ミラーの助力を仰ぎ、職場を訴える。自由と兄弟の街フィラデルフィアで、注目の裁判がはじまった…。
ベケットがエイズ患者であると知った最初、ミラーは態度を硬化させていました。だが、図書館でベケットに対する周囲の差別を目の当たりにして、またその差別に毅然とした態度で応じるベケットにこころ打たれて尽力を惜しまなくなります。
しかし、ベケットに関わったことで、謂われなき中傷を浴びてしまう。さらには、ベケットが同性愛者であるという不利な状況も飛び出し、告発の行方は明るくはありません。
ベケット自身も、多くの敵と戦っていました。体力を奪っていくウィルスの進行。そして、かつての同僚からの侮蔑、偏見のまなざし、ゲイであることへの負い目。差別という、いとも簡単な伝染病のごとき悪意が法廷を支配し、相手の弁護士は執拗なまでに尋問を繰り返す。
それでも、果敢に証言台に立つベケットを支え、勝訴に持ちこもうとするミラー弁護士の口述がとても冴えています。
一審では勝訴するも、あえなくベケットは亡くなってしまう。けれど、自分の治療を拒んでまで人間の尊厳をかけた命がけの戦いは、現在病気で人権を迫害されている人々に勇気を与えたことでしょう。
主演のトム・ハンクスの変貌ぶりがすばらしい。才気走った青年弁護士から、アウトローな患者、そして最後になると痩せ細った痛々しい姿まで、演じ切っていたのはみごと。ほんとうに別人のようです。この熱演で、アカデミー賞主演男優賞を獲得。
ミラー弁護士役は、「ボーン・コレクター」で、半身不随の辣腕捜査官を演じたデンゼル・ワシントン。
トム・ハンクスの恋人役が、アントニオ・バンデラス、となかなかキャスティングが私好みで楽しめた一作でした。
監督は「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミ。
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