陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「我等の町」

2018-09-07 | 映画──社会派・青春・恋愛

1940年の「我等の町」は、二十世紀初頭のアメリカのとある田舎町の十年を描くホームドラマ。ソートン・ウィルダーが1938年にピューリッツアー賞を受賞した戯曲を映画化したもの。小さな町で恋人となった男女の家族に焦点を当てた群像劇。狂言回し役がいるのは「輪舞」を思わせますね。

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マサチューセッツ州の小さな町グロブナースコナー。
町医者のギブス一家と、地域新聞の編集長ウエブスの家とは隣同士で家族ぐるみの付き合いがある。野球にうつつを抜かしているギブスの長男ジョージは、ウエブス家の長女で才媛のエミリーに惚れていて、ふたりはハイスクールを終えるとすぐに結婚。
その十数年後、二人目の出産で危篤状態にあったエミリーは仮死状態となり、過去を回想する。彼女が望んだのは、まだ十代で恋も知らないで、家族の元にいた日々。最終的に、舅のギフス医師の努力によって一命をとりとめる。

とくに因果関係もなく、二家族の十年あまりと街の暮らしの推移を追っている。
ただそれだけのものですが、この映画が描き出したかったのは、直接参政権すら与えられていない時代の女の苦しみではなかったかと思われます。

ジョージの母は、成績も悪く身の回りのことすら何一つできない息子が妻を娶ることに不安を感じています。また年がら年中患者を相手にして休みのない夫の稼業につきあい、街を出て遊びにいく楽しみすら覚えないままの生涯。女性が社会進出を果たす前の保守的な時代、家庭に縛り付けられた妻や母親の口には出せない哀しみが伝わってきます。

対称的にやや情けない男性陣の代表格が、花婿のジョージ。
エミリーを愛しつつも、人並みに結婚して世帯をもつことに自信が持てないまま。
カレッジ進学をやめて伯父の農場を継いだ彼に付き添ったエミリーは、果たして幸せだったのだろうか。臨死体験の際に街いちばんの華やかさといわれた結婚式の日を選ばなかったことが、彼女の後悔をさりげなく示しているのではないか、という気がします。

さらに、ふたりの結婚式を担当した牧師の厭世的な態度。彼の顛末は物語中の暗部といえるでしょう。

ロングランの舞台劇が原作とあって、どことなく前衛的な演出が目立ちます。
とくに雨中の埋葬シーンで傘の列の動きや、亡者の語らいの場面はインパクトがありますね。CGなどまだない時代、幽体離脱したエミリーのからだの透明感をよく表したものだと感心します。

(2010年1月10日)

我等の町(1940) - goo 映画


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