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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「君と舞う永遠の空」(三)

2007-09-24 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


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「ちょっと、なんなのよッ、このハナシ!」

眠りを惜しんだ少女たちが、夜もすがら睦まじく語らいあっていた同時刻に。
天火明村の隣町のマンションの殺風景な一室には、女の怒気を含んだ大声が響いていた。
原稿台に散乱した原稿用紙に突っ伏して惰眠をむさぼっていた女の頭を、漫画の単行本の背表紙が小気味よい音をたてて叩く。

「う…あいた…三連チャンの徹夜明けなんだから、静かに寝かしてよ」
「…って、また寝るなぁ、コラァ!起きろ、このドージンワーカーが!」

怒鳴りちらす女の頭で、二つの鬼の角のようにツインテールがおおきく揺れて舞いあがった。二発目、しかも今度は本の角が、後頭部にクリーンヒットする。さすがにこれは痛い。三日分の睡魔にいちどきに襲われていた漫画家の目は完全に醒まされてしまった。
朝にはめっぽう弱い彼女だが、これまで一度たりとてそのアイドルの甲高い声に起きなかったことはない。
それに本当ならいつもはいちばん目が冴えて仕事がはかどる時間帯だった。

人気漫画家の居所をかぎつけて押しかけてくる熱狂的なファンや、裏稼業でやってる同人誌の売り上げ収入を知っていて投資をもちかけてくる輩など、招かれざる客は多い。いつもは厄介な訪問客を丁重に門前払いさせているスタッフも、今日はあてにならない。いつもアポなしで仕事場に転がり込んでくるきかん気のないこの友人には、さしものアシスタントたちもお手上げで、どうやらすでにいち早く避難してしまったらしい。
ああ、やっぱり自助努力で対応するしかないのか、コイツには。
錆びたような音がする椅子を回転させて向き直り、眠い目をこすりながら鼻眼鏡になっていたレンズを指先でもちあげる。ぼやけた視界の最前線に、眉をつりあげた腐れ縁の歌姫の顔と、コミックスがつきつけられた。

「…あ?それ、最近出した新刊だけど、どーかした?中身にイチャモンつけてもしょーがないわよ。百合ヲタなオトコ編集者にいわれて渋々描いてやったんだから。あー、最近流行の百合系美少女漫画雑誌の連載の仕事なんてうけるんじゃなった…」
「アタシがいってんのは、アンタのこの漫画の内容のことじゃないわよッ!」
「…じゃあ、…ナニよ?」

怒りの収まらないコロナに、天然パーマでまとめようがない頭を掻きながら、あくびひとつおいて作家はスローペースで会話を進める。つねに自分のアップテンポなリズムで生活も言動も刻んで高くするどく弾ませておかなきゃ気が済まないタチのコロナは、いつもこののんびり屋な友人にいらいらする。

「アタシのハナシってのはね、これがドラマ化されるってコトよ!しかもアタシが出演って初耳だったわ」
「いいじゃない、別に」
「いいわけないッ!よりによって、アタシが主役じゃないってどーいうこと?!」

片耳の穴を小指でほじくりながら、レーコがしちめんどくさそうに答える。

「アニメと違ってドラマ、前から出たかったんでしょ?顔の見せられる役やりたかったんでしょ?…役がもらえるだけマシ。ちょっとはあたしに感謝してほしいわ」
「このアタシに恩を売ろうっての?!百年早いわよ。しかもなんで、アンタと共演しなきゃなんないのよ?」
「原作者特権ってやつ…。あたしといっしょに出るのがイヤなの?」

まっすぐに瞳を見つめられて問われると答えに窮してしまう。目が悪く度が合っていない眼鏡のせいだろうか。いつもは空想がちで焦点がどこかあさっての方向を向いているような、うすらとぼけた目つきをしているのに、レーコはときおりじっとりと深い目線を送ってくることがある。そして、そんなときは、いつも彼女の「本気」だ。だからコロナも、うかつにおざなりにできない。



【目次】神無月の巫女×京四郎と永遠の空二次創作小説「君と舞う永遠の空」


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