陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

アニメ「神無月の巫女」ブックレットについて(十一)

2021-03-14 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

2018年のアマゾンプライム無料放映時に企画した、アニメ神無月の巫女ブックレットのレビューの続きです。
しばらく、放置していてすみませんでした。下書きとしては書いてあるのですが、いつも更新を忘れてしまうのは悪い癖ですね。この間、2020年にはウェブノベル「姫神の巫女~千ノ華万華鏡」が、神無月の巫女スピンオフ漫画と銘打って、めでたくコミカライズされました。電撃マオウ誌で現在連載中(角川コミックウォーカーでもウェブ配信中)の、漫画『姫神の巫女』はコミックス第一巻も只今好評発売中です。もちろん漫画を手掛けたのは、原作者の介錯先生。



この「姫神の巫女」は、神無月の巫女のアニメ版をなんとなくオマージュした演出が散見されるのが特徴です。そして、先般発売された最新の第十話(2021年2月発売)では、剣の舞踏会の再来というべき御霊鎮めの儀式を前に、「ひめこ」と「ちかね」の愛憎渦巻く関係が一変します。個人的には、姫子と千歌音の愛の顛末を十数年来にわたり見届けてきただけに、あまりにも直視しがたい残酷さがあるわけですが…。ある意味、ロボットで潰されるよりも酷いですよね。この少女ふたりの愛はいつも重すぎますし、観ているこちらも勝手手前に傷つきます。ふたりしかいないから、救いがないし、重いんですよね。都会の孤独、孤島の呪い。誰か、彼女たちの闇を散らしてほしい。

姫神の巫女を読んだら、神無月の巫女も観たくなる。
今回は怒涛のクライマックスへと流れるままに進む九話と十話をふくめた旧版アニメDVDブックレット第五巻をご紹介。この五巻の表紙の姫子のリボン、やたらと色が暗いというか、血に近いですよね。背後のタケノヤミカズチのほうが、まだなお鮮やかな赤だという。千歌音ちゃんが選んだドレスだから、どうしても暗い配色にしてしまったのでしょうか…。

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とくに深く考えずに、全十二話のうちでいちばん観たい回を選べと言われたら──おそらく最終話を選ぶひとが多いはずです。私も以前はそうでした。いまは、どうでしょう。そうですね、二話の駅舎とか、三話の海辺の二枚貝とか、九話、十話あたりですね。ブックレット第五巻目のポエムを読むと、ふとそんなことを考えます。

この第九話から、千歌音の心情がまったく見えなくなります。
そうなんです、あれだけ川澄ボイスで駄々洩れだったモノローグが聞こえなくなる。それを裏打ちしたかのような、このポエム。左が千歌音、右が姫子。哀しい誓いを立ててしまった千歌音。いなくなってしまってはじめて、その大切さに気付いた姫子。二人は別々の道を歩みはじめるのです。

さて、今回のブックレットのお楽しみは。これも、どうやら本編とは裏腹の番外編。
おそらくシナリオから抜いたお話なのでしょう。

「あり得たはずのあり得ない物語」──なんだか、意味深なタイトルですね。
第八話にてお邸から暇を出されてしまった乙羽さんと、いまだ入院中であるはずのマコちゃん。このふたりがこの時期、接触するはずはなく、事実アニメ本編でも顔合わせしないコンビ。そのふたりが、愛し憎しの姫子と千歌音とのいちゃこらタイムをめぐって激しく口論。けっきょく、ふたりとも羨ましいというか、微妙なささくれがある者どうしという結論に? 示し合わせたわけではないけれど、姫子の背中を押し、勇気をふるわせ、足を向かわせることでは同じだった仲良しさんです。あんがい、気が合いそうですね。

「そのころの二人(大神神社、御神前にて)」
これも、一種の姫子と千歌音公式SSですね。ふたりで祝詞の練習をして、アメノムラクモ召喚の儀式に挑んでいるところ。時期としては、三話から六話あたりまでか。姫子のお腹の虫を気の利いたジョークで言い換えて、恥ずかしさを拭ってあげられる千歌音ちゃんがもう素敵、好きすぎる。こういうユーモアは、なんというか、育ちの良さを感じさせますね。ギロチには下衆とか平気で吐ける千歌音ちゃんですが。この手の話はもっと読んでみたい。

そういえば、この解説のサイドストーリーって。
ソウマは出てこないんですよね。いや、ツバサやギロチも出てはこないんですけど。男衆は神社の師弟だけ。ミヤコはドラマCDで愛のオロチ懺悔室が面白かったですが。でも、この四人のオロチ衆は本編でかなり八面六臂の活躍をしてくれていますからね。たぶん、十二話に含められなかった案をここに残してくれたのでしょう。

今回も「スタッフコメント」。
美術監督・安原稔さん。なんと本作が美術監督の初仕事。千歌音の寝室や調度、姫子や真琴が扱う小物など、イメージをつかむのに苦労し、ある一曲を聞きながら模索したそうで。その音楽が果たしてなんだったのか知りたいところですね。背景といえば、設定資料集などに詳しい下書きがありますが、基本、農村が舞台なので派手な色付きでなかったせいか見やすかったですね。姫宮邸にあった、やたら前近代的なモニュメントとかいろいろ気になります。あと乙羽さんの人形とか、ボードメモとかも。人形は千歌音ちゃんと想い出があるものなのかな?

色彩設計の木村聡子さん。色彩設計とは? キャラやロボなどを背景やシーンに応じてカラーリングすること。この作品のロボット、部位が複雑ですし、巫女服も面倒だしで、けっこう色付けたいへんそうですね。EDイラストのあの姫子と千歌音の対比的な色を考案され、藤井まきさんに気に入られたとのことです。よく指摘されていることですが、最終回Bパートのあの色が退いていく演出は鳥肌ものですよね。

そして、音楽担当の窪田ミナさん。この傑作アニメの根幹をなす要素のひとつ、それは音楽の良さ。「姫子と千歌音の愛と悲しみ、そしてどうする事もできない運命に立ち向かう登場人物たちの姿勢」という最大テーマのために、台本、絵コンテ、イラストなどを眺めつつイメージをふくらませた作曲作業。生のオーケストラ演奏。とくに千歌音の心情を細かくとらえたピアノソロや、天から轟音鳴り響くかのようなソウマの勝利のマーチ。ふとした折にリフレインしたくなるのは、自分がなす術もない状況に陥ったあのキャラクターたちとこころを添わせる経験が生じるからなのかもしれませんね。アニメの音楽には勇気づけられることが多いものです。

さて、「各話解説」は。
四巻よりもさらにフォントが小さくなった気が…。シリーズ構成・脚本の植竹さん、熱意があふれすぎて文字数が増えてしまったようです。

九話「黄泉比良坂へ」────この回は、主役三人が揃いもそろって舞台をおりてしまった感がある。千歌音は叛き、姫子は沈み、ソウマも弱ってしまう。そして、脇役たちの存在感がいや増すエピソードです。ここが、カップル二人さえ輝いていれば他は傍観者に徹していたほうがいいという、百合作品にありがちな忖度とは違う。アニメ二話からこのかた顔出ししなかった親友・早乙女真琴の姫子に向ける励ましの言葉。誰よりも女主人を慕い、その心情を慮り、その痛ましい悲恋を知るがゆえにこそ、敵とさえ思う姫子に後事を託さざるを得ない如月乙羽の手紙。原画集でも明かされていましたが、乙羽さんが八の首だった案についてもほのめかされています。正直、真琴や乙羽一人ひとりを主人公にしても物語ができそうなくらいに、深い背景があり、感情の蓄積がある。なのに、物語展開の手際よさと過酷な運命の手加減なさを描き出すために、犠牲にされた感もある脇役たち。OP映像でなぜストーリーラインの主軸にかからないキャラクターまで顔出ししているのか、それはこの制作者たちが物語には無駄な人物がいないという意思表示なのでしょう。

十話「愛と死の招待状」───第八話も無論そうなのですが、この回も解釈がひときわ難しい回なのではないでしょうか。ソウマとともにオロチ打倒の出撃前夜、姫子のもとにオロチ衆に堕ちたはずの千歌音が何食わぬ顔で戻ってくる。そして、姫子はすっかり甘えてしまい、千歌音とのふたりきりの穏やかな夜を過ごします。この回、おそらくは常識で考えたらおかしいわけです。姫子は千歌音の「あの行為」を赦したかのように思え、千歌音も忘れたかのように振る舞う。千歌音は何も言わず、姫子からも何も問いたださない。そうすれば、もとの優しい日々が戻ってくるとでも言わんばかりに。姫子は傷つくのが怖いから、千歌音ちゃんの本心を知りたくないようにみえる。千歌音が隠していたものに気づくことができない。これは虐待をうけて育った子にはよくある性質らしく、姫子は仔犬のように可愛がられ従順でいることでしか、自分を愛してもらえないと信じているからです。

もし、このとき、ふたりに巫女としての使命に関わる対話があったのなら、気持ちを交えておくことができたならば、結末は変わっていたのかもしれない。姫子が真実を知っていたら…。しかし、一夜明けた秋の晴れ晴れとした空の下で、千歌音は姫子に残酷な宣言を下すのです───。

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現在連載中の「姫神の巫女」の千華音も、媛子も、神無月世界のふたりとは異なる性質の人間として描かれてはいます。かなりのこと現実めいた愛憎きらめき、現在ぶった生活をしつつ、現金にして凄絶な定めにもとづき、少女たちはかりそめの友情を紡ぎ出す。彼女たちには、連絡を取り合わずともそこにいけば待っていた約束の場所すらない。死の儀式を経て彼女たちの愛が変わったのか、いや、それとも儀式の前に変わらなかったのか。一つ言えるのは、「姫神の巫女」は剣の舞踏会「以後」が描かれるということ、すなわち十二話では終わらずに、現世のままで課題を解決する余地が与えられたということなのかもしれません。


アニメ「神無月の巫女」ブックレットについて(まとめ)
月には誰も知らない朽ち果てた社があるの。全ては其処からはじまりました──。感動の全十二話を堪能したあと、再観賞用に、保存用にオススメのDVD。今回はその旧版DVD付録のオールカラーブックレットで、作品をふりかえります。

★★神無月の巫女&京四郎と永遠の空レビュー記事一覧★★
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