陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

大津市のいじめ事件、あの日から一年

2012-10-13 | 教育・資格・学問・子ども
今年の夏に耳目を集めたあの大津市の中学生いじめ自殺事件。夏休み中には決着がつくかに思われたのですが、まだ裁判の行方が不透明です。自殺を強要したのに殺人罪に問えないなど、遺族からすればやりきれない方向に転がりそうです。そして、あれほど話題を集めたのに、すでに世間から忘れ去られようとしています。新聞では逐一経過が報告されましたが、扱いが小さくなっていますね。これではいままでの大きく騒がれたのに風化させられたいじめ自殺事件と同じ道をたどってしまうのでしょうか。

十月十一日は、被害者男子生徒の命日で、中学校では全校集会が開かれたようです。あの教育長も参加で。不遜な言動をとった担任教師はどうなったんだろう。加害者生徒の転校先での悪行も露見したのに、その後は? 学校側の対応にあれだけクレームがあったのに、いまとなってはなにも音沙汰がないのは、良い傾向に向かったとみていいのでしょうか。

とても残念だったのは、この事件が発覚してのち、いくつものいじめ事件が各地であらわになり、しかも、またしても尊い犠牲者が出てしまったということです。この大津の「命の集い」と題された全校集会の報道のあった新聞記事の真横に、鳥取の中学校でいじめを苦に、授業中に飛び降り自殺をこころみた生徒がいたと報じられたのが、たいへんショックでした。それは未遂で終わったからよかったものの、命を絶ってしまう例が絶えません。いじめの程度の差こそあれど、学校側の対応不備、弱者をいじめてストレスを発散するという陰湿さにおいては、大津の事件と引けを取らないものであるのに、ほとんど話題になることはありませんでした。ひょっとしたら、あの大津の事件だって、ノーベル賞受賞の歓喜に湧く時期であったら、政党の総裁選という政治の局面を迎える時期であったら、尖閣諸島問題で国内が揺れていたのだったら、あんなにも注目されていなかったのかもしれません。

ちょっと酷なようですが、これが事実なのです。
ですから、いじめに悩んで、自分の命を投げうって訴えようなどとは決して思ってはいけないのです。そんなことをしてもなにも変わりません。悔しいけれど、ほんとうになにも変わらない。死んでしまったらなにもかもおしまいです。自分の屍をのりこえて、悪しき虐めがなくなってほしいと訴えても、なにも変わらない。まだ若い身空で人生にケリをつけてしまうなんて、もったいないのです。これから出会うすてきな人がいるかもしれないのに。これから出会う楽しいできごとが待っているかもしれないのに。

取引先のお孫さんが最近、亡くなられました。まだ十代の高校生、交通事故でした。ご家族の哀しみ、いかばかりか、察するに余りあります。大学に行くのだと希望をもって勉強していました。いじめのような塗炭の苦しみとは異なるのかもしれませんが、親御さんにとってはたいへん辛いことなのです。熱を出したといっては徹夜で看病し、言葉を発したといえば大喜びし、そうやってたいせつにたいせつに育てられたお子さんが、不測の事態で命を落としてしまうのは、嘆かわしいことなのです。

どんなにささやかなことでもいいので、生きる希望を持っていただきたい。
そして、今後とも追い詰められる子がいないように、この忌まわしい記憶を忘れてはならないのです。

【関連サイト】
大津中2いじめ自殺裁判支援~真相究明と再発防止のために
被害者少年のご遺族の代理人弁護士によるホームページ。事件の概要や、裁判の経過、訪問者からのコメント受付、裁判費用のための寄付金についてのお知らせがあります。

教育ひろば~教育情報の総合サイト
今回の事件のみならず、過去のいじめ事例についてのデータベースがあります。


【関連記事】
大津市のいじめ暴行殺人事件訴訟、その行方(まとめ)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 安藤美姫選手の引退表明 | TOP | 映画「画家と庭師とカンパー... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 教育・資格・学問・子ども