陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ガスパール 君と過ごした季節」

2018-04-29 | 映画──社会派・青春・恋愛

今回は、短いながら泣けるフランス映画をご覧いただきましょう。
1990年のフランス映画「ガスパール 君と過ごした季節」(原題:Gaspard et Robinson)は、切ない音楽と相まって、社会からはみ出した人間の優しさを描き切った良作です。


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家族に見捨てられた、名もなき老婆を拾った青年ロバンソン。
同居している初老の男ガスパールはいい顔をしません。困っている人を捨てておけない面倒見のいい青年の悪い癖がはじまった、とガスパールは顔を曇らせますが…。

アウトローな男ふたりの間に美女ならぬ老女。いっぷう変わった「明日に向かって撃て!」スタイルかと思えばそうでもありません。本作で焦点が当てられているのは、このうだつの上がらなさそうな男ふたり。

ふたりの性格は対照的です。
母親に捨てられてホームレス少年になったロバンソンは、家族の愛に飢えていて、宿無しとみるや、ガチョウから人間まで保護してしまうお人好し。
いっぽう、眉間にいつも皺を寄せているガスパール。「家族はうっとおしい重荷でしかない」と言い張る彼には、妻には逃げられ、財産をうしなった苦い過去がありました。

想い出の曲をかけて夜に柱を抱きながら号泣するガスパール。それを眺めて、「目がとける」とその男の悲しみに添う老婆。とはいえ、老いらくの恋には発展しません。

話が進むに従って、ふたりの素性があらわになっていきます。錠前屋で働いていたが、失業したふたりはなんと盗みを繰り返して生計を立てていたのです。おんぼろな家もすべて廃品でできています。しかし、このふたりが憎めないのは、自分より弱者に対して優しいこと。

ガスパールはいっけん非情に思えますが、じつは、痛みを知ったぶんだけ人の苦しみを理解できる人物。ロバンソンのいないところで隠れた善行を施す彼は、どちらかというと、義賊に近いといえましょうか。

彼らは廃屋を改装して食堂をオープンさせることを夢見ていました。
そこにふしぎな巡り合わせで、悲しみを抱えた母子が舞い込んでくる。しばらくすれば、老婆をも含めたほんとうに血の繋がった家族のような関係が形づくられていくのです。

ところが、そのお膳立てをしたガスパールは意外な行動に出てしまいます。
この結末は一抹の寂しさを感じさせますが、最後に彼の背中を追いかけるものを知った時に、ガスパールこそがロバンソンをふくめた悲しみにくれる人をほうってはおけない善良な人間ではなかったか、と視聴者は知るでしょう。

監督は、「モンド ~海をみたことがなかった少年」のトニー・ガトリフ。
音楽は「シェルブールの雨傘」などの巨匠ミシェル・ルグラン。
出演はジェラール・ダーモン、ヴァンサン・ランドン、シュザンヌ・フロン。

2011年現在、不況で精神的にすさんだ時代だからこそ、ぜひ観ておきたい一作です。
印象派の絵画を思わせるような明るい色彩の対比も魅力のひとつ。芸術性を感じさせながら気どったところがなく、目線の低さを感じさせるあたりで好感度が高いのでしょう。

(2011年1月29日)

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