陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

続・残業代セロ法案は阻むべし(六)

2014-07-18 | 仕事・雇用・会社・労働衛生


こうした労働者の厳しい状況を我知らずとして、経営者や政治家、学者、そして官僚など、比較的労働の苦労というものから解放された立場にいる側だけが主導して有利に議論を進めていくのを、口惜しく思います。こうした方々は、ご自分のお子さんがたが、労働で搾取されていく働き方を強いられることに、異を唱えないのでしょうか? 公務員は業務上の手違いがあれば補償問題になりますし、医師だって手術ミスで刑事罰を受けます。が、議員さんや経営者が重大な施策を誤ったがために国家に損失を与えてもなんらデメリットもないのは、実に不思議です。不思議というより不可解ですが。

いま全国の高校や大学などで、労働問題にとりくむNPO法人による、労働法の勉強会や相談体制の設置が進められているのは、せめてもの救いだと言わざるを得ません。

私は生産性を向上させる、個人の能力性を高めるという趣旨での労働時間の取扱いについては賛成です。そう大して苛酷な労働でもないような仕事、人と接する仕事、というだけでブラックだと騒ぎ立てて拒絶するような風潮もどうかと思うのです。

現在、経営者やそれなりの役職に就いている方はやはり若い頃に相応の努力をされてきた方でもあり、彼らの仕事への姿勢には一部は傾聴に値するものがあります。働くことで、税金を支払い、年金も納め、誰かの役に立つことは人間として誇らしいことであり、生活保護をもらって怠けている人間よりも、不十分な報酬で働いている人の方が尊いに決まっている。成功者は無気力な人間、努力しない人間、働いたら負け、だと思っている人間を見下すけれども、このような態度は、ほんとうに努力しているが報われない人の憎悪を増やすだけ、他責的な人を増長させるだけ、なのです。

しかしながら、もし企業が労働者にそのようなさらなる自己研鑽と努力を強いるのであれば、労働者の心身の健康を損なった、労働管理に不備があったとされる企業や経営者には、刑事罰に等しいペナルティを与えてほしいと思うのです。もし、それが認められないのならば、労働者がいっせいに職務放棄する権限(ストライキ)は与えられていますが、現実にそれを行う人はいないでしょうね。

現在は、百年前と異なって、多種多様な職種があります。
職種によっての年収基準にも差がありまして、いきおい、高年収な職種や企業に惹かれがちですが、そこで求められる能力の高さについていけずに退職してしまう若者も多いでしょう。また高給をもらってはいるが、社内失業状態の中高年の方もいらっしゃるでしょう。そうしたミスマッチを防ぐ意味で、労働に関する適性能力の審査なども行われるべきです。非正規のような不当に安い労働単価での働かせ方が妥当ではない職種にまで、高い専門能力を求めながら見返りが少ないのであれば、いずれその仕事に見合った労働者が集まらなくなるでしょう。

日本は超高齢化社会を迎え、少子化に拍車がかかり、労働力不足が問題視されています。
かつての高度経済成長期のような極端な所得倍増も望めず、なんとなくいま不自由ないと思っているような暮らしを維持するにも、いずれ大きな経費や人力が必要になります。定年制も65歳に延長され、年金の支給も制限されるでしょう。女性も、かつてのような専業主婦のような生き方は望めない。だとしたら、出産育児と仕事を両立させるための、日本の慢性的な長時間労働は解消されねばならない。

人ひとりが生きていくだけでも、多くの人の労働によって生活が支えられています。
なるべく、多くの人がゆるやかにゆったりと、長く働けるような労働環境の整備が欠かせません。




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