でもね、ちょっと、考えてみてほしいのです。
日本は現在でも終身雇用が崩れて、能力主義に移行してますよね。多くのサラリーマンの皆さんは、絶対に、自分の業績が正当に評価されているとは思っていないはずです。成果は自分のものにするが責任を部下になすりつけるのがうまい上司だとか、ゴマスリがうまい腰巾着野郎の同僚だとか、仕事も手つかずでお喋りばかりしてるのに色気でごまかしてるOLとか、とにかく、なんでオレはあいつより査定が低いんだ、と不満たらたらではないかとお察しします。ところがどっこい、ご自分が過大評価されていると妬んでいる相手だって、その実、自分の給料に不満があったりするものなんです。たとえ年収1000万円でもまだ足りない、と思ってる方多いでしょう。だって、所得が上がっても、税金や社会保険料などの負担も増えるわけですから。
仕事を早く切り上げるために効率化がすすむ、というのが「残業代セロ法案」推進派の明るい主張です。しかし、いくら働いても年収が頭打ちになると分かった場合、いくら働いてもこなせないようなノルマを課せられた場合、ひとはどういう行動をとるでしょうか? まずは手を抜くでしょうね。そして、自分の負担を減らすために同僚や部下に押しつける。仕事を断れない、選べない、管理できない弱い立場の人にしわ寄せがいきますね。もう誰にも押しつけれない最後の最後の、下の下の立場の人はもう追い詰められて逃げるしかないのです。ほんらいは二人か、それ以上でやるべき達成量を一人でこなさなきゃ、いけない。そりゃ、逃げますよね、どっかの深夜の牛丼チェーン店でなくとも(笑)。
この悪化した労働スパイラルは、現に能力主義を謳った現場で起きていることです。
そして、このような利己的な思考回路は、経営者側のそれを一般の労働者たちが反芻しているに過ぎないんですよ。なぜって、経営者や事業主たちは、長すぎた不景気と原材料の高騰などで、自分たちの取り分が薄くなっているのを怖れています。日本の大企業のCEOは億単位の報酬をもらっているけれども、何十億も報酬を得る海外のCEOに比べたらまだまだ安い。だから不満感があり、経営にも責任をあまり持とうとしないという指摘もあります。
だから、労働者からできるだけ搾り取りたい。労働者も正社員であれば、非正規労働者に仕事を投げてきて楽をしようとします。親会社の大企業が人件費アップの恩恵をこうむっているのに、その下請けの社員は、消費税分や原料値上げ分の負担などを押しつけられて受注額を切り下げられ、給料カットさせられているのです。
この「残業代ゼロ法案」をゴリ押しした民間議員は、武田薬品工業株式会社の代表取締役・長谷川閑史氏でした。この企業は、医薬品を巡って米国の連邦裁判所に巨額の損害賠償金の支払いを命じられていますし、京都大学による高血圧治療薬の臨床研究で自社に有利なように干渉していた疑いが持たれています。ある程度の規模の企業になりますと、人件費も設備投資もかさみますが、なにより怖いのが税務署から追徴課税されたり、特許で揉めたり、訴訟を起こされて莫大な損失をこうむってしまうことですね。長谷川氏が就任してからは、過剰な海外企業の買収を繰り返したために、赤字企業の負債や外国人社員を抱えこんであまり思わしくないとか、海外に技術が流出したり買収される危機もあると噂されています。
とどのつまりは、いまの日本人経営者たちや幹部は、企業戦略を誤ったツケを労働者に払わせているとしか思えないのです。会社の業績が悪かったとしても、経営者や幹部は真っ先に自分たちの給料だけは確保します。社員がリストラされて会社がよそに売られても、自分たちは新しい会社に幹部役員として迎えられるのです。(倒産間近でリストラさせれる社員の再就職探しに熱心な社長さんもいますが…)
使用者と雇用者の関係でなくとも、別の事業部門間のお話でも、同じような負担の転嫁は生じています。メーカーでは生産ラインの人材供給が追いつかないほど、営業が納期を度外視したむちゃくちゃな契約を結んでくるという苦情もよく聞かれます。仕事欲しさに社長が無茶なスケジュールで仕事をとってくるので、社員が連日徹夜に近いサビ残で納品しているという、悲惨な話はネットでも転がっていますよね。
「残業代ゼロ法案」が推進されたら、裁量労働制が際限なく拡大されてしまったら、企業には、使用者には、労働者の勤務時間や健康状態を管理せねばならないという義務がなくなります。過労で病気になったり、自殺しても、それは自己責任のひと言で済まされてしまいます。能力が高い人であっても、会社が人員を配置してくれなくなると、やがて自分の仕事の配分が増えることになります。いずれ自分の首をしめるのです。
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コメントありがとうございます。
経営者や上司が、下の苦労を知らずに無茶なノルマを課す、というのは誰しも経験のあることだと思いますが。とくにIT化でスピードアップが進展してからより効率化の極限に歯止めがなくなったような気がします。がんばった成果が給与に反映されないのでは、モチベーションも下がるでしょうね。
この法案については、労働という生活の根幹に関わることですので、より多くの方に問題意識を共有していただきたいと思っています。