陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

書籍『金持ち父さん貧乏父さん』(前)

2014-05-09 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
ミレニアムに世間が湧く頃、まだ学生だった私は、一週間にいちど、とある図書館に通うのが楽しみでした。当時、かなりの予約がついて借りられなかったのが本書。こういったベストセラー本は長くても二年は待てば借りられますが、話題になっているから興味をかき立てられる一方で、これを手にしてはいけないという自制心もありました。もし当時、これを読んでいたら…人生変わっていたかというと、そうでもない気がします。

金持ち父さん貧乏父さん
金持ち父さん貧乏父さんロバート キヨサキ シャロン・レクター(公認会計士) 白根 美保子 筑摩書房 2000-11-09売り上げランキング : 101Amazonで詳しく見る by G-Tools



多くの日本のサラリーマンのお父さんがた、このタイトルにどきっとしたものでしょう。著者ロバート・キヨサキはハワイ出身の日系アメリカ人で、投資家にして金融セミナーの講師も務める資産家。「金持ち父さん」とは、彼の友人の父親で実業家、そして「貧乏父さん」とは実父で、ハワイ州の教育局長を務めた人物。

さて、ここで気をつけねばならないロジックは、彼のいうところの「金持ち」と「貧乏」の定義です。「金持ち」とは、せこせこと会社に勤めて働く給与所得者や雇用者ではないこと、利益を生む資産で左うちわで暮らしていけること。逆に「貧乏」とは、誰かに雇われている給与所得者であって、時間を搾取され自由を奪われている者。彼に言わせれば、勝ち組とされる大企業の正社員や公務員ですらも「貧乏」です。我が国で言うところの、ほんとうに日々の生活にあえぐ派遣、パート、アルバイトなどの非正規社員や、無職、生活保護などの貧困層を指しているわけではないのです。とにかく仕事に追われている人=ラットレースのなかに放り込まれた人が総じて「貧乏」。まじめに働いている人にとっては納得がいかないですよね?

この本で紹介されている不動産投資、とくに買い替えによって利益を増やす手法は、書籍『会社に頼らず生きるために知っておくべきお金のこと』の著者もそうですが、かねてからの実践者は多そうですね。不動産市場はここ数年の不況で低迷中だったものの、平成24年には全国的に下げ止まり傾向になり、取引も活発になってきています。さりながらバブル期のような高騰になるかはさだかならず。日本では不動産を過剰な投機対象として地価を吊り上げる動きに規制がありますし、株でもインサイダー取引で刑務所行きになる投資家もいます。

美術品がすでに博物館に収められるときはアヴァンギャルドではないのと同様、どのようなビジネスモデルも、それが教育として示された時は使い道がないものになっています。著者がここで紹介している事例は、すでに過去のものであり、おそらく次なるマーケットを狙っているのでしょうが、それについて語ることはもちろんありません。「金持ち」になるとは独り勝ちなのであって、目の前の仕事をこなすだけで満足の「貧乏」な労働者たちをいかにこき使うかに長けていることだから。あけすけもなく、こんなことを暴露しています。

稼ぐことは偉いことだのアメリカンドリームの体現者としての成功談のように聞こえますが、実際、高い手数料を払ったことも匂わせる記述あり。それに著者は生真面目に働く労働者をかならずしも馬鹿にしているわけではありません。たとえば、専門性を極める職に就くのであれば、そのスキルがいつか廃れてしまうことを踏まえて、会社に対抗できるように組合の充実した企業を選べ、などのアドバイスはなるほどと思えるものです。


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楽してお金を稼ぐ方法を教えてくれるものではなく、お金との付き合いかたを学ぶための指南書と言うべき書。





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