陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

アニメ「神無月の巫女」ブックレットについて(八)

2019-07-14 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空

少し前のことですが、歌手KOTOKOさんが、NHKのBS番組「アニソンプレミアム」にて、アニメ「神無月の巫女」の主題歌をふくむアニソンを熱唱されたことが、ツイッター上で話題になっていましたね。私はあいにく未視聴で残念極まりなかったのですが…あの放送局でこのアニメの画像流すんですか、そうですか、と。そもそも「カードキャプターさくら」とか「お兄さまへ…」も放映していたんでしたっけ。腐女子とBLがどうたらのドラマもありましたよね…。日本、どうなってんだ。

さて。
第一巻のブックレットのキャラクター相関図にはいなかったキーパーソンが登場するのが、ここから。そう、表紙にいるオロチの首魁、一の首ことツバサですね。

「あなたと私は二枚貝…たった一つの重なる運命」ではじまる千歌音ポエムの、ブックレット第二巻目。収録話は第三話「秘恋唄」、第四話「思い賜うや」。それにしても、なかなか古風な、和歌のような恋情をつづった詩ですね。しのぶれど色に出にけり我が恋は、とかなんとやらで。千歌音ちゃんのことですから、茶道や華道をたしなむついでに、さらりと俳句でも詠んでいるのでしょう。和歌といえば、千歌音ちゃんが授業中に現代語訳していた古歌がありますね。

「ひともなき くにもあらぬか わぎもこと たづさはりゆきて たぐひてをらむ」

私も調べたことがあるのですが、わからずじまい。ブログ「神無月の虫」さんの指摘によれば、なんと万葉集の編者・大伴家持の和歌だとされています。令和の時代幕開けになんともタイムリーな話題です。しかも、想い人の女性に贈った歌で、その女性からの返歌もある。要するにラブレターですね。現代のSNSだと、好き❤のひとこと(もしくはスタンプ絵)で済むのですが…(笑)。SNS苦手な私めは、このアニメにでてくる青少年たちが携帯電話すらもたない時代設定であることに、とてもとても安堵しています。姫子が叫んだら、千歌音ちゃんが馬で駆け付けたり、ソウマくんの額が光るならSNSいりませんて。

「キャラクター紹介」は、オロチ七人衆。
オロチ衆は終盤であっという間に出番を消去される事態が発生するため、なんとなく、その活躍を軽視されがちですが。意外にもしっかりとした性格造形がなされ、かつロボット神のみならず、個々人の武器もあったりします。そう、下手にね、肉弾戦もできるからロボット要らないでしょとか言われてしまうのですけど。この紹介のイラスト、二の首のシスターミヤコと、五の首レーコ漫画家先生が本編とは違って明るい表情していますよね。アニメ本編ではわかりづらかった、彼らなりのオロチに魅入られた背景も述べられています。

ツバサの児童虐待と親殺し。ミヤコの戦争と宗教不信、戦災孤児だったギロチ。中東イスラム圏からの難民だったのでしょうか。コロナの陥った芸能界の裏側や、レーコの創作者としての絶望。ネココの人体実験は、医療過誤や命の尊厳を顧みない医療現場とも読み取れば、どれも現代社会の闇というべき要素ばかりで、アニメにしてはなかなか辛らつな現実をしゃらっと扱っている事実に驚かされます。しかし、オロチメンバーは楽しそうなので、過酷さが感じられないのですが。

ひるがえって、では、千歌音の苦悩がそれに勝ると言えるのか。
じつは、本編内で「いかに姫子を愛しているか」という恋情は脳内ポエムもしくはふるまいで示されてきたものの、「千歌音が姫子を愛してはいけない裏事情」は最終回までは明かされないので、視聴者は千歌音がなにで苦悩しているか分かりづらい面もあります。これね、今豊富なストーリーのあるアニメを経てから視聴した層からすれば、ひねりがないと思われるかもしれないのですが。

いや、我が身におきかえ、おのが心に沿うてみて、同情できたひともいるんです。2000年そのあたり、当時はまだ、許されぬ愛という意識が強かったわけですが。「女の子同士の愛を正面から描き切った」と原作者先生は言ってみたり、しかし、「同性同士の愛は千歌音の障害のひとつとして用いただけであって、これは古典的純愛ドラマ」と監督は評していたりもする。表現者がある社会的タブーを扱ったからといって、その反差別のイデオロギーの表明者というわけでもないのですが、そういう身勝手な希望を観る側が抱きすぎてもしまうわけです。

察してほしい文化がなせる業といえなくもないですが。
愛情をおおっぴらに口にしてはいけない、忍ぶ愛、耐える恋こそが美しいという日本ならではの叙情が、ロボットバトルとほどよくブレンドされてしまいましたね。

相手の命を奪えば、自分の身は保全される。ソウマはそれを知っていて、巫女である姫子を護って呪いにむしばまれる。実の兄貴とですら死闘を演じねばならない。なのに、千歌音の苦悩とは…? それまでの作品だったら、けっして前面に押し出すことのなかった、脇役の感情をめいっぱい最大化してしまったのが本作。闘わないことで、言わないことで、かえってふくれてしまう苦悩を描いたもの。…このあたり語り過ぎると長くなるので、いずれ。

この回のブックレット、笑覧すべきは「乙羽さん、姫宮千歌音を語る」。
いや、なにが楽しいかと言ってこのブックレット、本編では掘り下げ薄い脇役に焦点があたること。ドラマCDでも大活躍だった、あの姫宮家の栄えあるメイド長・如月乙羽さんによる、お嬢さま解剖図。千歌音お嬢さまのティータイム、お嬢さまのお召し物、愛馬サンジュスト、お食事、そしてバスタイム。姫宮千歌音をおはようからおやすみまで見つめつづけ支え続けた乙羽さんだからこそ語れる、千歌音ちゃん像。そこそこに来栖川姫子許すまじオーラが発揮されているのがおかしい。乙羽さんは、いわば、姫宮家の歴史の語り部でもあるので続編があったら、わりとキーパーソンになっていた可能性もありますね。このブックレットのカット絵で確認したら、朝食の紅鮭がなかなか大きい。ひとの胴体ぐらいあるでしょ、これ。それにしても、ウェブノベル「姫神の巫女」のアロマのくだりとか、植竹さんの女の子趣味の詳しさには、驚きます。

今回の「各話解説」は、第三話の二枚貝エピソード誕生秘話。
第二話の夜の駅舎エピソードも捨てがたいですけれど、この海の場面も名場面。神無月の巫女のアニメやりたいシーンが多すぎて選択に苦労したそうですが、このシーンは柳沢監督のイチ押しで決定。千歌音の秘めたる想いが二枚貝に託されて語られる。しかし、姫子の持つ貝とは別の貝。直接に好きだとも告げられず、護るための強力な手もなく、その後に襲う事件が勝利の凱歌、ただひとりだけ酔えない。ロボットバトルが出るのに、千歌音の懊悩の前ではすべて否定的に描かれてしまいます。この作品のなんともいえない微妙なアンビバレントですね。
 
なお、この二枚貝エピソードは、原作漫画では姫子がすでに千歌音から受け売りの話をソウマに語る…というかたちになっていて、アニメファンからすると、やや肩を落としたくなるかもしれません。でも、姫子は無邪気で千歌音の言葉を誤解していて、自分が誰からも愛されるはずがない、千歌音にもソウマにもふさわしくない、と思い込んでいるからこそのふるまいなんですね。漫画版の姫子はややおつむが鈍そうに見えるきらいもあるのですが、実は彼女なりに精いっぱいの行動をしているんですね。だからこそ、最後にあれほど大胆な行動がとれたのかもしれませんが…。姫子は、ひたすら待っているだけの女になるのをやめたのですね。

アニメ四話では、姫子とソウマとの過去が語られています。
百合好きさんにはスルーされそうな回ですが(笑)。人付き合いに臆したがる姫子、好きだというよりも護ってやるが先に出がちなソウマの本質への解説。ソウマと姫子が幼馴染であって、しかも苦界を共有しあった同胞であるという過去。恵まれた千歌音にはけっして理解しえない領域です。姫子とソウマが性格は違えど傷口は同じの似た者同士である、姫子がソウマに惹かれていくという事実は、千歌音にとってはやがて二重の苦しみとなって追いかけてきます。

たぶん、姫子は宮様がまぶしすぎて、あまり自分の身の上のことを話していないのかもしれないし、千歌音も姫子との経済格差にはやや無頓着な面もありますよね。女であることのみならず、自分のアイデンティティを揺るがしてしまうくらいの好きな相手が現れてしまったら、自分の全存在をかけて相手を生かしたいとも思う。ロボット云々よりも、その底知れぬ愛情こそが千歌音にとっては地獄になってしまう。それは、ソウマにとって、愛情ゆえに魔に落ちたというべき悲運の人物が現れたことによって、さらに加速していくのです。


アニメ「神無月の巫女」ブックレットについて(まとめ)
月には誰も知らない朽ち果てた社があるの。全ては其処からはじまりました──。感動の全十二話を堪能したあと、再観賞用に、保存用にオススメのDVD。今回はその旧版DVD付録のオールカラーブックレットで、作品をふりかえります。

★★神無月の巫女&京四郎と永遠の空レビュー記事一覧★★
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