陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

メカデザイナー村田護郎氏について

2019-01-23 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

アニメにせよ、ドラマやミュージカル、そして映画にせよ。
おしなべて映像作品には、役者以外にも、多くの人が関わっています。受け手であるわれわれは話題性のある華やかなクリエイターの元締めや演技者ばかりに注目してしまいがちですが。たとえば、いまでも手書きされることもあるアニメーションの美術背景の芸術性の高さは、地味ながら評価されることもあります。衣装や舞台設定や小物のデザインしだいで、作品の出来が変わったりもする。

日本で独自に発達したアニメのジャンルのひとつに、ロボットアニメがあります。
ロボットの等身にもよるでしょうが、巨大ロボットの場合は、メカデザイナーと呼ばれる職種が独自に設計するらしい。「機動戦士ガンダム」シリーズを全制覇したこともなく、子どもの頃の勇者ロボときたら、サンライズアニメぐらいだった私は、べつだん、ロボットバトルというものに深い見識を備えることもなく育ち、アニメにおいて、そうした機械装備が別作されていることに思いをきたしたこともないのでした。

拙ブログでさんざんとりあげている、いわくつきのアニメ「神無月の巫女」は、まぎれもなくロボットアニメです。百合と学園と伝奇とがごっちゃになって、ロボが百合のおまけだとか揶揄されていますが、ロボットアニメなのです。それが証拠に、『スーパーロボット画報2』なる雑誌にも、名うての古典ロボアニメともども特集されたようですから。




ところが、この作品はとてもとても、不幸なロボットアニメでした。
しばしば、ファンにはロボット(と、その搭乗者の男子)が不要だと言われる始末。裏返った褒め言葉ならばよいのですが。なぜ、ロボットが毛嫌いされてしまうかというと、べつにロボットの造形に問題があったわけではなく、ありていにいえば脚本のなせる所業(悪いという意味合いではなく)なのです。




このアニメでは、ロボットは主人公のふたりの少女を苦しめ、追い詰める存在です。
来栖川姫子と姫宮千歌音は、ほんらい正義のロボットを召喚すべきなのですが、その能力を終盤まで発揮できない。代わりに戦うのが、仮面ライダーよろしく悪の組織に叛いて姫子の守護者にならんとする大神ソウマなのですが、なんと彼の駆る機体も初登場では、主人公に襲い掛かります。その後、正義に目覚めた(というよりは、恋情のために)敵機を雄々しく撃破したソウマロボは、第一話のラストを皮切りに、男女三名の愛憎劇に隣り合わせることになります。巨大ロボットの火花散るガチンコバトルが生じているその下で、学友の、兄弟の、敵味方の肉弾戦ないし巧妙な心理劇がくりひろげられ、わたしたち視聴者はロボットがいることすら忘れてしまいます。特撮番組のように最後に合体するのは敵方のロボ。そのロボットも禍々しいが生物めいていて、あえていうならば、怪獣に近い。1990年代後半ぐらいには、ガンダムシリーズや「新世紀ヱヴァンゲリヲン」でスマートな流線形の巨大ロボットが流行り出したわけですから、ガチガチした部分もあって野暮ったくも見えかねない。かっこよく見えるアメノムラクモも、これといった活躍や目を引く必殺技もなく、ただ少女たちに残酷な運命を告げる存在以上のものではありません。ロボットは、あくまで少年少女たちのドラマが進行する「場」でしかないのです。

このようなことを書けば、まったくロボットの存在が報われない。
しかし、自分のなした仕事が不要と呼ばれるのは、その作り手にとってはいかがものだったのでしょうか。

この「神無月の巫女」のロボットを生んだのが、メカデザイナー村田護郎氏でした。
アニメのDVDクレジットに、原作、監督、キャラデザ、脚本と並んで名を連ねています。「神無月の巫女」の原作漫画の巻末資料にもデザイン画がありますし、設定資料集におけるメカデザインは、氏の仕事を紹介するものでした。

ネット上の情報によれば。
村田護郎氏は、福岡県北九州市出身。1966年発足から半世紀以上の歴史を有する老舗同人サークル「アズ漫画研究会」の草創期からのメンバー。メカデザイナーとして携わった作品には、横山光輝原作の「超電動ロボ鉄人28号FX」や「王立宇宙軍 オネアミスの翼」、人気ゲームアニメの「サクラ大戦」、さらには「神無月の巫女」と同原作者・介錯先生の代表作「円盤皇女ワるきゅーレ」、「ストライクウィッチーズ」などがあります。2005年には「鉄腕アトム」の新作にも関わり、ロボットだけではなく、プロフと呼ばれる小物や美少女キャラのデザイン、ミニチュア制作も請け負っていたのだそうです。いま、自分の知っていそうな範囲の作品名しか出さなかったのですが、ウィキペディア(https://ja.wikipedia.org/wiki/村田護郎)で確かめると、多くの作品にクレジットされています。作品の一部は個人サイト「無限機関 - Eternal Engine : 村田護郎 - Goro Murata」でも閲覧できますが、この公式サイトは以前リニューアルされた折、過去の掲載作品が消されたとのこと。いまとなっては、多くが見られないのが残念ですね。

2016年3月には北九州市漫画ミュージアムで催された企画展「アズ50年展~マンガ同人の半世紀~」にも出展。

2012年には、大好評だった備前長船刀剣博物館の『ヱヴァンゲリヲンと日本刀』展にて、造形家と連名で、真希波マリのプラグスーツ仕様短刀をデザインしています。ケーキナイフのようで、柄の部分が女の子らしくてキュートな雰囲気ですね。この展覧会、写真撮影が自由だったようで、SNSでは大人気に。(コチラ参照)この日本刀とアニメ「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」のコラボレーション企画展は、現在の刀剣アニメブームにのっとった美術展における先駆けのようなものでして、2018年まで全国を巡回しました。展観じたいは聞き及んでいたものの、デザインで関わっていたことを今更になって知り、驚くとともに、氏の仕事の広さや意匠の意外性に感服するばかりです。ロボットデザインではなかったので、あまり知られていなかったのでしょうか。

ネット上では親交のあったひとびとから、その気さくな人柄とロボットデザインへの情熱を愛されたことが伺えます。

村田氏がかつて個人ツイッター(@GOROFX)で発表した創作物で、こんなものがあります。




なんと、3Dモデリングされた剣神アメノムラクモが、神々しく月から降臨してくるという動画!!
2012年から2013年ごろ制作された模様。惜しくも完成版ではなかったようですが、なかなかの力作です。弦楽器のそそりたつ響きを活かした、ソウマの熱血戦闘BGMつき。この動画、かなり好きでよく再生していました。

このほか、氏のツイッターには、設定資料集の一部にあるオロチロボなどのデザイン画が公開されています。ロボットものは変形したり、武器を収納したり、スケールが大きすぎて線が複雑だったり、普通のキャラクターを描くのとはまた違った画力が要求されることが伺えます。金属らしい質感や重量感が大事ですし、アニメの中とは言いつつ、立体感のあるものとして動かさねばならず、このデザインをもとに映像にくみこむために、かなりの折衝があったものと推察されます。ロボットアニメはがんらいお子様向けジャンルだと目されがちですが、メカデザインそれ自体は玩具として売り出されることもあって、工業デザインに等しいと言えますね。

「神無月の巫女」のカラーブックレット紹介記事で、いずれ書こうと思っていたのですが。
ブックレットに寄せたコメントでは、合体オロチとアメノムラクモをかなり気に入っていたこと、手書き作画のロボットアニメが乏しくなる情勢のなか、これに抗うように迫力ある作画で魅せてくれたこの作品への賛辞を送ってくださっています。ストーリーの都合上、アイデア溢れるギミックを持ちつつも埋もれてしまったオロチロボもあり、その活劇もいずれありえたはずではなかったか。







村田護郎氏は、昨年12月末、急逝されました。
眼を患われていて、数年前から体調を崩しがちであったという証言もあります。ここ数年、アニメ業界関係者の訃報はよく耳にします。まさか、自分がいちばん好きなこの作品の関係者が世を去られたなんて。多くの人がショックを隠せない様子。私も呆然自失で、まことに失礼ながら、フェイクニュースかと疑ったくらい。いまだに信じられません。まだまだ手掛けたい作品もあったでしょうし、とても残念です。あの作品の続編だかリメイクだかがあったとしたら、新しいデザインのロボットが生まれたかもしれないですね。

私自身の個人的な事情ではありますが、絵を描かれる人が亡くなられるのは、とても胸が痛みます。まだまだご存命で、これからもっといい作品をつくってくれるだろうと構えてしまって、創作者の苦しみなど露知らず、それまでの作品から頂いた感激を伝えることを怠って、失ってしまってから、とても後悔することがあるからです。

じつに惜しい人を亡くしました。
御霊(みたま)のご平安をお祈り申し上げます。

【関連記事】
訃報:村田護郎先生が急逝されました(北九州市漫画ミュージアム 2019年1月4日)
3月にお別れ会が予定されているそうです。


★★神無月の巫女&京四郎と永遠の空レビュー記事一覧★★
「神無月の巫女」と「京四郎と永遠の空」に関するレビュー記事の入口です。媒体ごとにジャンル分けしています。妄言多し。



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