陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

僕たちも、「少年ジャンプ」で育ちました

2018-08-07 | 読書論・出版・本と雑誌の感想

子どもの頃、好きだった少年漫画の名を挙げたら、日本人のおそらく七割ぐらいは、あの少年漫画誌連載作品を語るのではないでしょうか。集英社の少年漫画誌「週刊少年ジャンプ」が今月に創刊50周年を迎えたそうです。少し前に、ネットニュースで歴代の雑誌が読み放題という少年ジャンプ図書館なるものが報じられていましたね。

この少年ジャンプ50周年について、読売新聞朝刊2018年7月17日に、現在の編集長へのインタヴュー記事がありましたので、以下要約。


「週刊少年ジャンプ」の新人作家の発掘という伝統は、創刊時の事情にさかのぼる。
「サンデー」や「マガジン」に遅れ1968年7月スタートしたとき、人気作家はすでに他誌に囲い込まれている。そこで、新人作家を起用し、読者アンケートで作品評価し、競争させることで作家を鍛え、ヒット作を生み出してきた。

1994年には発行部数653万部という漫画誌の最高記録を樹立。しかし、近年は人気作の終了が相次いでおりいささか苦しい。現在、単行本初版が100万部を超えるのは『ONE PIECE』のみ。「友情・努力・勝利」が王道テーマとみなされているが、最近はそれを逸脱するような女の子主人公の人気作もあるという。編集長氏は、有望な新人を見つけるためデジタル投稿に特化したアプリも開発、常に新しさと変化を追及し、日本一面白い漫画誌である姿勢は崩さない、と語り終えている。


私は「少年ジャンプ」そのものは、ほとんど買ったことがなかったですね。
コミックスでまとめて読むのがいい。ジャンプの単行本は、巻末に読者のお便りコーナーがあって、読者の住所・氏名・年齢・写真が丸まる掲載されています。個人情報保護厳守の現代からは考えられないのですが(笑)。

「週刊少年ジャンプ」が面白くなくなった(?)と言われているのは、「友情・努力・勝利」が王道テーマとみなされていると、読者も、作家も、そして編集者たちも信じすぎていたから、ではないでしょうか。『スラムダンク』や『ドラゴンボール』という巨星に隠れがちなのですが、90年代前後ってけっこうバラエティに富んだ中堅作品が揃っていたのではないでしょうか。北条司の『キャッツ・アイ』に続く『シティハンター』は、今度、フランスで実写映画化されるそうですけれど、大人の映画通の人でも楽しめるウィットとおしゃれさがありますし。『花の慶次』とか『影武者徳川家康』みたいな歴史ものもありましたよね。この編集長氏は「『ONE PIECE』の存在が、今の漫画のレベルと地位を上げた」とおっしゃっていますけれど、黄金期のときの群雄割拠時代のほうがラインナップは豪華でしたよね。むしろ、ワンピだけが独り勝ちしているのは、他作品が育っていないこともあるでしょうけれど、単に「ジャンプ本誌を買わずに」「友だちとの話題作りのために」単行本だけ単品買いする読者が増えただけではないでしょうか。

この読者アンケート至上主義にも、弊害があります。
そもそも、単行本買いしかしないなら、新人作品に触れる機会なく応援されなくなります。わずか短期間で打ち切りされて、作家が続編をどこかで発表したくてもできない契約にされていたら、作家生命が断たれてしまうわけですよね。「ジャンプ」だけの問題ではないけれど、文筆業も声優俳優歌手などのタレント業も、新人を次々にデヴューさせて過当競争させ、若いうちに才能を食いつぶして使い捨てしているスタイルがまかりとおっています。デビューして巨万の富を稼いだら楽できるという夢を見させて、クリエイター志望者を集めて金儲けにしているわけです。私は「ワンピ」を読んだことはないですけれど、たしかにギネスブック記録樹立は素晴らしいことだけれど、あの漫画が日本の漫画の代表格だと称されたら、それは違うんじゃないかと。過労自殺者を出してブラック労働の代表格とされたワタミの社長が愛読して、経済雑誌などで絶賛していますけれど、なんだかな…。名漫画家と呼ばれる人は長篇短編問わずに、様々なジャンルに挑戦して多様な作品群を形成しているじゃないかと思いますし、そういう挑戦の機会を奪っていいものか。週刊誌で20年以上も連載を続けた精神力は評価できます、もちろん。

雑誌の売り上げが落ちているのは、子どもの人口が減少傾向に転じたから当然であるにしても、少年漫画誌に関わらず、一つの雑誌が幅広い年代の興味を捉えることが難しくなったからではないでしょうかね。「少年ジャンプ」の作家の絵柄って独特でしたけど、今の作家陣はのきなみアニメ絵っぽいわかりやすい絵が多いですし、昔のあの名作漫画の二番煎じかなというパターンもありますし。「ジャンプ」って00年代前後から、絵がものすごく下手な漫画家さんが増えたような気がするんですよね…。

過去の国民的人気作の復活や続編を掲載すると、その漫画雑誌が爆売れするという現象があるそうですが、新人ばかりに頼るのではなくて、多少ネームバリューのある往年の名作家に活躍の場を与えていって、新旧世代が紙面で刺激しあうのもいいじゃんないかなと思うのですが、この方針、変えないのでしょうね。あと、武内直子先生の旦那様の作品は、いいかげん、ご本人が原作者に退いて、誰か別の人に作画してもらってさっさと終わらせたほうがいいかもしれません(笑)。『ガラスの仮面』の作者さんもそうですが、好奇心が強すぎて、まとまらないのだろうなあと推察いたしますが。


読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。




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