「あ、千歌ねえちゃん!!」
シスター服の姫子が喜色あふれてふりむくと、そこにいたのは。
これまた、黒い服が似合う、凛然とした美しい少女だった。
千歌音よりもすこし年上ぐらいだろうか。仮面をかぶっていて、前髪をふたつ分けにしている。しかし、もう声からしてわかろうというもの。彼女もきっと、姫宮千歌音のいわば同位体なのだろう。いったい、何人目やねん。そろそろ、読者書子も飽きた頃かと。正直、作画にしたら漫画家が地獄を見る構図だが、これはたかが二次小説なのでいくらでも出し放題である。てへぺろ。
それにしても、このきりりとした少女。
どう考えても、これまでの登場人物よりはあきらかに悪の女幹部といったいで立ちなのだが。ほんとうに味方なのか? 事態をややこしくしにきた、さらなるトラブルメーカーでは? これ以上、自分の顔の疫病神は増えてほしくはないのだが。鈴虫がころりと鳴けば、キワモノどもが大集合。宮様、心のポエム。どうでもいいが、またしてもノーマスクである。いまさら驚かない。ぴえん。
「あの忌み神も、あの天使とやらも、私の千星剣(アンフィニティ・ソード)で打ち滅ぼすことができる。でもね、もっとうまいやり方があるの」
「千歌ねえちゃん、もしかして、アレをやるの…?」
「そうよ、姫子。アレなら、誰も傷つかないの。世界のどこも壊れない」
「でも、でも、わたし…恥ずかしい」
なぜか、胸もとを隠そうとする妹である。
おいおい、いったいどんな恥ずかしい戦略なのか。詳しくは『絶対少女聖域アムネシアン』第四巻を参照あれ。姫子史上、あんな戦法見たことないっつうの。全千歌音しか喜ばないでしょ、あれは(爆)。
「だいじょうぶよ、姫子。お姉ちゃんもいっしょだから。恥ずかしくなんかないわ」
「そうだね、千歌ねえちゃんが言うんだから間違いない」
「そうよ、では、皆さん。ここは私たちにお任せを。さあ、後ろにさがって」
「来栖守姉妹がやります、やらせてください!」
どうやら、この二人は血のつながった姉妹であるらしい。
姫宮千歌音とひみこがポカンとしたまま成り行きを見守るなか、この姉妹ふたりには、ふたりだけに通じた秘密の作戦があるらしい。それにしても、あまり似てない姉妹だ。だいいち、姫子と私が姉妹だなんて、そんな設定だったら、近親相姦…、いやなんでもありません。姫宮千歌音よ、お前は原作漫画の双子転生ラストを全否定するのか。
「いくわよ、姫子」
「うん、いいよ、千歌ねえちゃん」
その掛け声とともに、なぜかしら、その空間の背景が黄金一色になった。
ちょっと待って、こんなギンギラギンギンパラダイスな派手はで内装、頼んでないわ。金箔一枚でいくらかかると思っているのよ。そんな、算盤はじいた姫宮千歌音の焦りも気にもせず。
ふたりの乙女はなぜか、なぜかしら、生まれながらの姿になっていた。
天使と神様とやらの戦いはそこでいったん中断する。神様こと水着すがたの千歌音のほうが、そちらに釘付けになっているようである。鼻の下を伸ばして情けない。自分の顔とはいいながら、殴りたくなってくる痴態である。姫宮千歌音はがっくり首を垂れた。姫子が起きていないのが、もっけの幸いであろう。
「「どんな運命にだって、神様にだって負けっこない! 二人の気持ちは繋がっているもの!!」」
「おお、そなた達はチカネとヒメコ!! 久しいではないか、探しておったのだぞ。妾(わらわ)に近う寄れ」
女神(なぜか、変化してしまったらしい)は嬉々として、まばゆい光に包まれた姉妹に近づこうとする。
なお、ここは田中敦子ボイスで脳内再生してほしい。両手をひろげ、抱きしめ、大歓迎なポーズ。さて、その一瞬を、絶対天使ムラクモのかおんが見逃すはずもなく。凶剣の左腕をかざし一刀両断せんと襲い掛かる──!!
────が、その刃先がぴたりと止まる。
パぁあぁあん。軽い平手打ちの音が、静まり返った室内に響く。
頬を腫らして横ざまに倒れた女神は、無様に鼻血を出している。なぜか嬉しそうだ、Mなのかもしれない。神様らしくない間抜け顔である。
そして、赤リボンの少女、私立乙橘学園高等学部一年生にして姫宮千歌音の想い人そして、世界を救った伝説の陽の巫女の生まれかわり──そう、来栖川姫子は手をおさえて、泣きながら突っ立っていた。
「わたしと千歌音ちゃんの、大事なだいじな夜の時間。ひさびさのふたりきりの時間なのに…台無しにしないで!」
側にはカップ焼きそばが埃まみれで転がっている。
すでに麺のかたちをなしておらず、床におしつけた粘土のようだった。
しめて、三組の少女たちが唖然としているなかで──ただひとり、姫宮千歌音だけは、なぜか腕を組んで嬉しそうに微笑んでいた。やはり、この事態をまとめあげるのは、神無月の巫女の私たちなのだと。
【目次】神無月の巫女×姫神の巫女二次創作小説「召しませ、絶愛!」