陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「どろろ」

2009-01-12 | 映画──ファンタジー・コメディ


そのタイトルを聞いたことがある。俳優も原作も有名人、なのになぜかつまらないものと決めつけていて、見ることを惜しんでいたという作品があります。今作もそんな作品。強いていえば、名前負けというべきなのでしょうか。パラドキシカルな意味で。
この映画は、むかし勤め先で仲が良かった女の子が、べた褒めしていたもので、いつか観たいなと思っていたものでありました。で、ひと言でいいますと、わりとよかったです。

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映画「どろろ」は、そのタイトルからはやはり美しいものは連想させません。なんだか、怪奇なものを思わせる。じっさい、手足が千切れたり、からだが畸形であったり、ゆうに五回は血しぶきが飛ぶという、チャンバラ物。
これまでいくどか申し上げてきたように、このテの代物は苦手であったのですが、この作品は観れました。ええ、ほんとに。さいきん映画をみなれてるので、耐性できちゃったのかもしれませんね。というか、からだが重くて感覚が鈍っていたので、感じなかったのかも。
でてくる魔物がいちぶ水木しげるタイプでユーモラスだったし。だからすぐ倒される(笑)

主人公は百鬼丸という男のほうで、どろろはその同伴で盗人あがりの気っぷのいい娘の名前。
百鬼丸の生い立ち、医師に拾われ義肢をあたえられるというくだりは、手塚治虫の名作ブラックジャックのピノコと重なりますね。魔物との契約のために奪われたからだを取り戻すため旅に出る、育ての家を焼き払うエピソードは、「鋼の錬金術師」に踏襲されたのでしょうか。

人間ではないものが超人能力を発揮して人間らしさを取り戻す。その対比として、人間を超える力、国を統べる力を得たい者は人間を捨てようとする。生き別れの母との再会、エディプスコンプレックス(父親殺し)、兄と弟の確執、男になりきろうとする少女…と、古典的物語のピースをはめこんだものであるが、さほど、たいくつには思えません。
紫咲コウの早口なので舌ったらずに聞こえるどろろが、テンション高くて。しかし意外にぬきさしならぬ事情をかかえているために、いっぱし子捨ての村人に説教したり、百鬼丸に諭したりするのも、ほろりとします。あと、現在、「天地人」で優男を演じてる妻夫木くんが、意外にこんなダークヒーローを好演しているのも、びっくり。

ただの忍者妖怪ものかと思っていたけれど、原作とは趣きをかえて、史実によらない徹底したファンジー色をつよめています。その最たる例が、醍醐景光のエキセントリックな居城でしょう。映画「忍─SHINOBI─」(レヴューはこちら)のような、東映太秦時代村の既存のセットを借りたようなありきたりの背景でなく、しかもロケ地のニュージーランドの乾いた土のだだっ広い草原と軽くさわやかな空、ラストにでてくる珊瑚礁の海とのとりあわせが、奇妙な和洋折衷を生んでおりました。中国人アクション監督の指導のもとで大成された殺陣シーンも、おおげさなワイヤーアクションはなく、ほんらいの時代劇の等身大の剣戟に近くて自然な感じはします。

いちばんの好印象なのは、この映画の底に流れるテーマが、親子愛ということでしょうね。どろろと百鬼丸、妖怪退治で諸国行脚をつづけるうちに親近感をつよめていくけれど、恋仲になるわけではありません。
終盤の父親との対決の展開は早急な感じがしますが、中井貴一という配役をかんがえれば致し方ないのでしょう。

好評に味をしめて、〇九年公開予定の続編が制作されているとのこと。
しかし、主要人物の出自を初作で明かしてしまった以上、どういうふうにさらに料理するのか楽しみですね。



【画像】
フランシスコ・デ・ゴヤ(b.1746 - d.1828)『我が子を食らうサトゥルヌス』(部分)1819-23年、プラド美術館蔵



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2 Comments

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どろろん (Ms gekkouinn)
2009-01-14 04:28:19
映画「どろろ」は先日、娘が「見たい」と言って見始めたものの、途中で見るのをやめてしまった映画でした。万葉樹さんがおっしゃったように、途中で「これ、鋼錬のぱくりじゃん」とか「ブラックジャックだァ~」とか「妻夫木だあ、これにも出てたんだ」と笑い転げていたのですが、いきなりスイッチを切ってしまいました。
理由を聞いたのですが、「もう、見なくていい」でしたので、途中でやめた理由はわかりませんが、目先にオリジナルなものがないと刺激を感じないのかもしれませんね。
映画館で見たならそういうことは少ないのでしょうけれど、TVで見る映画は、その点、「ながら族」と「即〇〇族」を生み出すような気がいたしますので、やはり若い子には、映画館で映画を観て欲しいなあと。

ちなみに、わたくしが「どろろ」を見たのは昨年ですが、「どろろ」というより、「どろろん」という印象でした。
ハガレンが卵かも (万葉樹)
2009-01-14 22:29:32
>途中で「これ、鋼錬のぱくりじゃん」とか「ブラックジャックだァ~」とか

よくよく考えてみれば、鋼錬のぱくりというよりは、手塚が鶏で、ハガレンほか後続作品のほうが卵なんですよね(笑)でも、観る順番が違うとそう思ってしまう。健康なからだを手に入れるため旅に出るふたり組という定型は、銀河鉄道999にもあったりして。
生家を焼くシーンが原作漫画にあったのかはわからないですが。

>目先にオリジナルなものがないと刺激を感じないのかもしれませんね。

いまは映像作品があふれていますからね。似たり寄ったりで。素人でもソフトがあればこぎれいな映像がつくれてしまいますから。でも、映像で育った世代なので、その演出がやはりどこかで見たイメージの二番煎じになってしまうのかも。
この映画はまえの「忍びーSHINOBI─」に比べたらアクションシーンが見られて、オトコがさほどヘタレでないぶんマシかと思われます。あれはひとつひとつの止め絵は凝っていて見目麗しいけれど動きにリズムがなくて紙芝居みたいな現代アニメを観ているようでしたから。

>映画館で見たならそういうことは少ないのでしょうけれど、TVで見る映画は、その点、「ながら族」と「即〇〇族」を生み出すような気がいたしますので、やはり若い子には、映画館で映画を観て欲しいなあと。

たぶんそれはあると思います。音楽ホールで聞くのと、家でCDで聞くクラシック音楽との違いみたいなもので。TVですから、カットもされてしまったでしょうし。
でも映画館のチケットも若い子のおこづかいではバカになりませんね。ゲームや携帯やネットに奪われていますし。

>「どろろ」というより、「どろろん」という印象でした。

どろろん閻魔くんとかいう懐かしのアニメがあったような。
妖怪ものでしたよね。敵は着ぐるみっぽくて。

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