陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画『忍─SHINOBI─』

2008-11-15 | 映画──ファンタジー・コメディ
先週の金曜ロードショー『インビジブル』(レヴューはこちら)の合間に予告されていたので、観てみました。主演が仲間由紀恵とオダギリジョー、そして時代劇ものということで、すごく楽しみにしていたのですが、ひどく裏切られました。

なにが一番ひどいかといえば、やはり脚本でしょうか。伊賀と甲賀の敵対するグループの頭領の孫でありながら恋に落ちた男女が、政治の陰謀によって引き裂かれ、殺しあわなければいけない運命を背負わされるという筋書きなのですが。主役の弦之介と朧が惚れあって結ばれた恋仲というよりは、ただ格別好きでもないのに許嫁にされた男女ていどの関係。なにか、もっとこう、熱い展開があってもいいと思うのですが、このふたり淡白すぎる。本編の大部分が忍術格闘シーンに割かれるので、あまりふたりの心情のひずみに視聴者がふみこむことができずじまい。
映像も美しく、忍者の里のセットも凝っていたと思うのですが、いつものテレビの時代劇のセットを大きくした程度。アクションも香港のワイヤーアクションにならったものと思われますが、「LOVERS」を観たあととしてはやはりすごく見劣りがしてしまいます。へたにCGに頼ると人間のもつ生々しい動きが縛られてしまってかえって映えないのではないでしょうか。

仲間由紀恵とオダギリジョーのふたりは好きな俳優なのですが、オダギリはなんとなく仲間さんの引き立て役に終わってしまったふしが見受けられますね。朧に比べると、弦之介の見せ場って一箇所しかないし。「さだめは自分でつくるもの」と男らしく宣言したわりには、血気に逸る部下の暴走をとめられなかったり。しかも、最期あっさり逝くなんて。存在に重みがありません。

対する朧演じる由紀恵嬢は、あまり恋する乙女の表情というわけでもなし。冷静に宿命を受け入れようとするあたり、かなり達観していたのでしょうね。仲間由紀恵さんは『トリック』や『ごくせん』がいい例ですが、見かけはとても女性らしいのに、男にかしづく脆さがないので、あまりこういう悲劇の恋愛ものには向かないような気がしました。なんとなく、沢尻エリカ演じる蛍火に向ける顔のほうが妙に色っぽくて(艶笑)あと、この方、声がいいですよね。透明感があるけど、腰がある。伸びやかなトーンの薄墨もあるが、どっしりした点もいれて画面を緩くさせないようにしている水墨画みたいな感じで(どんなたとえだ、それは)
大河ドラマの出演を重ねているだけ合って古語の言い回しもうまい。公式にはされてないですが、アニメ声優もやってたらしいです。

その点、オダジョーは着物は似合うけれど、喋りがぼそぼそしていて、叫び方も張りがないのでだめですね。話題づくりのためにキャストを組んだ感じが否めません。

男性陣では椎名桔平とか石橋連司とか、声も演技も渋い男優が出ていましたし。凛とした仲間由紀恵さんもよくて。個々の演技者の魅力でカヴァーはできているとは思うのですが、やはり全体的に単調なところが惜しい。

仲間由紀恵さんといえば、〇六年のお正月特番で『里見八犬伝』の伏姫役もよかったですね。この映画もあれぐらいの尺があれば、もっとしっかり人物の内面に迫れたような気がします。来年の正月特番ドラマで太閤秀吉の妻、寧々を主演されるそうですね。

ところで、これって山田風太郎の大衆小説『甲賀忍法帖』を原作としているらしいですが、漫画化もされたりアニメになったようですね。アニメのほうは観た限り、オダジョーみたいな優男ではなかったのですが。朧役は水樹奈々さんで、結末も違うらしい。しかし、公式サイト観た限り、キャラの造形が濃ゆいです(苦笑)このアニメ『バジリスク─甲賀忍法帖─』のOPを歌ってるヘヴィメタルバンドがまんま映画の忍者のヴィジュアルと似ていて笑ってしまいました。

公開後の評判も芳しくなかったらしく、とくに原作ファンからは非難轟々だったようで、〇五年のきいちご賞まで頂いたぐらい駄作認定された本作ですが、あえて地上波放映したのは話題性があるからなのでしょうか?

でも、私、こういう伝奇物でバトルをCGに頼るのならもうゲームかアニメのほうがいっそ面白いと思うのですよね。俳優のイメージにとらわれなくてすむので、思い切ったキャラの動かし方ができるでしょうし。むかしの真田広之・薬師丸ひろ子の「里見八犬伝」や「魔界転生」のほうが舞台セットはちゃっちくてもおもしろかったのはどうしてなんでしょう。へたに映像美に拘るせいで絵画的なしあがりを優先させてしまい、人間の生動感を削っている気がします。

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2 Comments

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TB有難うございます。 (Ms gekkouinn)
2008-11-26 13:47:30
お若い方たちが前評判で楽しみにして映画館でご覧になって、あまりのつまらなさに「お金を返せ」と言いたくなった映画だと聞きました。なので、拙ブログでも取り上げてみましたが・・・、コメントする気持ちにもなれなかったです。往年の忍者映画ファンを馬鹿にしてますもの。
前評判はあてにならない? (万葉樹)
2008-11-26 17:54:49


ごきげんよう、月光院様。
コメントおよびTBのご報告ありがとうございます。

>お若い方たちが前評判で楽しみにして映画館でご覧になって、あまりのつまらなさに「お金を返せ」と言いたくなった映画

なるほど、TVでみる前になるたけむだな偏見をもたずに視聴してみたんですが、やっぱり皆さん似た感想をお持ちなのですね。仲間由紀恵ファンにはいいのでしょうけれど、オダジョー目当ての観客はがっかりしたと思われます。

ただ、これひと昔まえでしたら、あんがい許されていたレベル(映画通ではなくてふつうの観客だったら)であったように感じられます。いまの若い人(自分もそうなのかな?)金銭感覚シビアですし安価な娯楽はいっぱいありますから、中途半端におもしろくない映画には、非難轟々ですね。

>往年の忍者映画ファンを馬鹿にしてますもの。

往年の名作忍者映画というのを思いつけない私ですが、原作小説の映画化というよりは、古典をベースにして現代人が二次創作したみたいなできばえだったような。
忍者というよりは、和風テイストのゲームファンタジーみたいなつくりでしたね。原作を読んでいないのでわからないのですが、あんな幻術ばっかりで手裏剣もでてこない忍者ってどうかとも。

映像のつくりこみは美しいのですが、それに頼りすぎたきらいがあります。映画なのに絵画のような効果をもとめすぎているというか。
最近、話題性のあるキャスティングや大々的なプロモで動員してみせるが、内容はつまらないという大作映画が多いような気がします。『レッドクリフ』もあまりいい噂を聞かないので、劇場に行くのを迷っていますし。

『甲賀忍法帖』はアニメ版のほうは主役男女は意外な決着をみせていて、ほろりとくる内容だったのですが。CGでの戦闘や不自然なくらい凝った太陽光などの演出があざとすぎるので、いっそのこと映画ではなく舞台劇にすればよかったのではないでしょうか。
俳優さんたちは(全員が全員ではないですが)演技力のある方を揃えていたし、衣装も派手はでしいので、そのほうが映えたかも。もしくは1クール物のTV時代劇にすれば、もっと人物の内面に迫れたかもしれません。弦之助がすごく考えの浅い青二才にみえたのが残念ですね。

映画をたくさんご覧になっている月光院様のご意見とても参考になりました。では。

ところで前のコメで言い忘れましたが、私がみた百貨店のラファエル前派展といいますのは、数年前のことです。誤解させてしまったようですみません(汗)


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