陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

本屋から出版社を変えていく

2018-05-26 | 読書論・出版・本と雑誌の感想

日本の産業は、とかく、売り手よりも作り手を重視するきらいがあります。
本ひとつとってみても、ベストセラーになったとしたら、その名声はまず一番に著者とその出版社に与えられます。実際、本の売価のうち、印税として作家さんの懐に入るのは一割程度であるのですが、著作権という法律保護がある以上、生みの親への尊厳が損なわれることはありません。

2018年5月15日の読売新聞朝刊紙面で、「出版社買収 企画力生かす」と題された記事が目に付きました。CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)エンタテインメントの中西一雄社長へのインタビューです。今回はその要約を紹介します。

CCCは、レンタルビデオ店で知られるTSUTAYAや、蔦屋書店などを展開する文化産業企業。近年、老舗の出版社をあいついで買収し、書籍関連の事業強化を進めている。その傘下には、「風の谷のナウシカ」で知られるあの徳間書店、主婦の友社、さらには『美術手帖』の版元である美術出版社までが名を連ねる。

CCCが欲しているのは、出版社のブランドネームではなく、雑誌の編集長や編集者たちの企画力。書籍本体のみならず、書面で紹介された商品まで自社サイトで販売するという、企画会社としての立ち位置を求めている。CCCは出版取次を介さずに、グループ内で出版社と小売りの拠点を直接つなぐことができる。

目下のライバルは、ネット通販のアマゾンジャパン。
とはいえ、本を買うスピードで競うつもりはない。読みたい一冊をカフェで楽しめるような書店づくりを目指し、顧客満足度を高めるための出版社運営が目標になる。地元書店が潰れ、蔦屋書店が残った地域では、文化拠点としての存在感も高まっているので、地域貢献も果たしたいと、最後には締めくくられていた。

この蔦屋書店だけある地方自治体は、私の居住地の隣町です。
既にその町の老舗の個人書店は壊滅したといっていい。私の地元書店は品ぞろえが冴えないので、そこの蔦屋書店に出かけることしばしばで、書店員さんの愛想がよく、とても重宝しています。この蔦屋書店は、文房具や雑貨品なども販売されています。もはや本屋さんは本だけ置いているのではない。まさに文化のコンビニエンスストアとはよく言ったものですよね。

しかしながら、書籍大手が出版社を囲い込むことには一抹の不安がないわけではないでしょう。
自社傘下の出版社の書籍ばかりを大々的に販売することになりかねないのではないか。現に、CCCが指定管理者をつとめる公共図書館では、CCC傘下の中古書店ネットオフの在庫(かなり古くて価値のない資格本など)を売りつけていたのではないかとの疑念も指摘されています。いっぽうで、民間運営に切り替えたおかげで夜間開館がかない、利便性が増したという声もあります。私がよく通う図書館も、すでにNPO法人によって運営されていますが、開館時間が午後7時まで延びたし、データーベース化されてネット予約もでき、時間短縮できて助かっています。

行きつけの蔦屋書店で、特定出版社の書籍ばかりプッシュして売り出されている…というような陳列は見かけませんが。最近、この書店内で誰でも触れる検索システムではここ二、三年の出版物が探せないことが多く、入力されていない模様。レジにいる書店員に尋ねれば探してもらえるのですが、万引きや立ち読み対策なのかもしれませんね。


読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。





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