陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女ドラマCD 5.5話「君の舞う舞台」

2010-10-30 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
二年前に神無月の巫女の主題歌特集(【神無月の巫女のBGM集】参照)をやりましたので、今年はドラマCDのレヴューです。実は、管理人が購入したグッズの二作目がこれ。そして、あのアニメ第一話と最終話と並んで好きな話なのです。

ジャケット表には、仲睦まじげに寄り添っている着飾ったお二方が。
そして裏には、オロチのメンバー「四人」が描かれています。DVD(BOXのほうじゃなくて旧盤)の表紙でもそうでしたが、やっぱり「彼」の扱われ方が不遇であります。

神無月の巫女 ドラマCD
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オロチ襲撃の日から巫女の儀式に追われ慌ただしい生活を送る、来栖川姫子と姫宮千歌音の通う、乙橘学園高等学校は、ただいま秋の学園祭の準備中。
学園祭の目玉は、千歌音と、姫子の幼なじみである大神ソウマが主演するお芝居。裏方としてふたりを応援する心づもりの姫子だったが、寄宿先の姫宮邸で芝居の演習にはげむ千歌音から意外な申し出を受けて…。


副題は「君の舞う舞台」
ここで親愛の情をこめて呼ばれている「君」とは、はたして誰なのか。
親友と幼なじみであるふたりの演劇を外野として仰ぎ見なければならない姫子からすれば、お姫さま役の千歌音と王子さま役のソウマのカップル。しかし、その当人たちからすれば、台本の読み合わせにかこつけて、一編のめでたしめでたしの恋物語の枠にあてはめて、姫子に思いの丈を届けたい、しっかりと受けとめてもらいたいはず。

千歌音もソウマもまったく同じ手法でアプローチするところがミソ。実は万人にそつなく愛されるには十分だが、ただひとりを愛しつくすにはあまりに熱をもちすぎて身を滅ぼすような危うさを秘めた点では、互いに共通していますね。このふたりが姫子に対する態度を巡って口論になる四話を経て、じつはお互いを認めあっていたといえます。
といいますか、映画や音楽などのムードで気持ちを高めておいて、お祭り騒ぎの勢いを借りての告白というのは、なんとも青くささを感じさせます。素面ではいえないような気恥ずかしい空気が臆病にさせる青春時代、彼ら彼女らにはほんのちょっぴりの冒険をさせてくれるイレギュラーなできごとと、理想の仮面が必要だったのです。実際には、姫子たちの日常は異常事態続きだったのですが。

今回は、積極的なアプローチが奏功したのか千歌音のほうがわずかに姫子に近づくものの(そういえば、男が必死に敵と戦ってるのに一話からもう横取りしてましたよね、千歌音ちゃんたら!(爆))、時間軸でいえばこの直後にあたる六話以降の流れでは、ソウマの方にリードを許してしまいます。

けれど、その展開こそが巫女の使命というものを予感してしまった千歌音の用意した筋書きだったとしたら…。
千歌音が姫子に愛の告白をするのは、この回をふくめて三度だけ。二度目は、あのいわくつきの銀月の嵐の夜(第八話)で、そして最後はアメノムラクモの体内で二人だけの時間に。そこで、姫子ははじめて「親友のままの距離でいたかった」千歌音の押し殺していた真意を知らされることになります。二人がほんとうの関係になったそのとき、無情にも残された時間はなく、終幕が迫っているのでした。

八話のあの一件があまりにスキャンダラスなために、好奇にまみれて話題をかっさらいそうなのですが、あの強引なやりかたで姫子がなびいてしまった(特に、色艶ものとして磨きがかかった原作漫画のほうでは(笑))というよりも、漫画に描かれたロマンチックなお話が好きそうな姫子のために千歌音が仕組んだこのエピソードが、姫子にわずかでも訴えるものがあったかと考えたいところ。とはいえ、六話以後八話までのソウマへと傾いていく姫子の恋情を見せられてしまうと、どうもしっくりとしない。こころが張り裂けそうなのにソウマとのデートをお膳立てして応援する千歌音、そんな親友の好意に応えようとして、ソウマのいい恋人であろうとした姫子。実は姫子の方も、無理をして、誰かに必要とされる何者かになりきろうとする演技を続けていたのではないでしょうか。その愛されたいと思う対象が千歌音であったらいいとは思いつつ、それがありえないことだと封じ込めてしまっていたのかもしれませんよね。嫌いなものはすっぱりいくつも挙げられるけれど、いちばん好きなものには手っとり早く気づくことができない。

さて、この主要な男女の三角関係にも増して、大活躍だったのがつごう四名の女性陣たち。
その筆頭格は、時間数は少ないけれど強烈な印象を残した如月乙羽。主君である千歌音嬢が華々しく舞うであろう舞台を喜びつつも、固い信頼で築かれてきた主従のその間柄に、姫子という、主人には似つかわしくない存在がぶらさがってくるのですから、ひたすら気を揉んでばかり。本編以上にかなりエスカレートした行動に出てくれます。とはいえ姫子の恋敵となることもなく、彼女は九話以降、遠い闇へと旅立ってしまった千歌音を救うためにあえて姫子に後を託すという、良心的な役回りを得ているのが乙羽さんのいいところ。「風と共に去りぬ」に出てくる女中なみに包容力があって、アカデミー助演女優賞級のめざましい活躍といえましょう。

その他、三名はコロナ・レーコ・ネココのオロチかしまし三人娘。
本編ではあいにくセットで扱われてしまったのですが、ここでは、かなり小憎らしいぐらいの悪役ぶりをいかんなく発揮。レーコとネココは、姫子を陽の巫女と知ってか知らずなのか(漫画版では正体を知られていたようなので姫子ばかり命を狙われていた気がしますが…)、その甘ったれたお人好しの気持ちを削ぐような言葉を遠慮なしに投げつけ、コロナはといえば売れない歌手人生の憂さ晴らしに学園祭をめちゃめちゃにしてやろうと画策。暴れん坊ギロチも加わって、姫子たちがのんびりと戦いのあいまに息を抜くはずだった楽しい休日が、たいへんなことに。
このコロナの幻術というのが、巡り巡って千歌音が姫子を王子様然として救うシーンを用意してくれるのですが、狼藉者とはいえども自分の歌って踊れるステージを奪われた悲哀がしみじみと語り尽くされていて、なかなか憎めないキャラクターです。といっても、人生不遇だからといって何をしても許されはしないのですが。汚れ役ではありますが、まさに彼女こそ、姫子・千歌音につづく、このドラマでの三人目の主役であるといっても過言ではないでしょう。

以上の番外編に加え、ボーナストラックとして「オロチ愛のひと言劇場」「愛のオロチ懺悔室」「私のブレーメンラヴ・午後の初級講座」のおまけがついています。制作者たちの遊び心がたっぷりと感じられるショートコーナーで、(某アニメを意識したツバサ兄さんの雄叫びとか、雄叫びとか、雄叫びとか)ファンにはひたすら笑いが止まらないでしょう。
オロチ衆の発言が際だってあまり目立ちはしないですが、この学園祭あたりには姫子との距離が隔たれていた、早乙女真琴ことマコちゃんが姫子を心配していることを匂わせる台詞が、手短ながらありましてひそかにこころ和みます。心憎い演出ですね。

誰かが幸せになるために、知らないところでその愛にあぶれた誰かが悲しみをそっと噛みしめている。百合作品で最後にふたりが合意して結ばれるからのみならず、舞台袖にひっこんだ者の寂しさにも優しいまなざしを感じさせるこのドラマが、大好きなのです。

作画の良しあしの影響をうけないドラマCDなので、細かい息づかいや間の取り方に気を配った声優さんの演技が、人物の真に迫った心のうちを表していているのも魅力です。

附録で声優さんの熱いコメントが寄せられた小冊子とハガキイラスト一枚がついてきます。
ちなみに発売当時(2004年11月)は、旧盤DVD一巻との連動購入キャンペーンで、姫子・千歌音・ソウマのメッセージが吹き込まれたお喋りCDがプレゼントという、おいしい企画だったようです。管理人は時機を逸したために、貰えずじまいでしたが。



【アニメ「神無月の巫女」 レヴュー一覧】
【漫画「神無月の巫女」レヴュー一覧】

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