陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「オペラ座の怪人」(2004)

2010-12-19 | 映画──社会派・青春・恋愛
能や歌舞伎のように、繰り返し演ぜられる物語というものは、いわばその演じ手の個性を楽しむためにあるのでしょう。過去幾多に渡ってミュージカルとなり、劇場で封切られてきたという「オペラ座の怪人」(原題 : The Phantom of the Opera)も、役者の際だつ個性や演出を堪能するために野心的な製作者によって複製されてきたシラブルだといえます。基本は美しい歌姫を巡る、青年と醜い仮面の男との三角関係。しかし2004年作イギリス・アメリカ合作の最新版「オペラ座の怪人」には驚きました。

私めは無声映画の「オペラ座の怪人」(1925)でしか、この物語を知り得なかったのですから、まず、魅了されたのはミュージカル仕立てであったこと。とにかくうまい。聞き惚れる。あたりまえですよね、なんと劇団四季「オペラ座の怪人」のオールキャストが声をあてているんです。つまり、映画と劇団四季のミュージカルが同時に楽しめちゃうわけです。これは凄い。

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物語は1919年からはじまります。
オペラ座の遺品の数々がオークションにかけられ競り落とされる。主に買い落としていくのは老紳士と老貴婦人。このふたりはどうやら旧知の仲のようです。最後に競売にかけられたのは、いわくつきの巨大なシャンデリア。そのシャンデリアにまつわる忌まわしい記憶が紐解かれていくのです。それは哀しくも切ない恋物語でした。

時は1870年代へと遡り、世界は鮮やかに色づきはじめます。
高慢ちきな歌姫カルロッタが幅を利かせる歌劇「ドン・ファン」の上演中に、不審な事故が相次ぎ、カルロッタはご機嫌斜め。急きょ、舞台袖のコーラスガールの一人にすぎなかった娘クリスティーヌが主演に抜擢されます。上演にはつねに、「オペラ座の怪人」を名乗る人物から封書が届き、客席の予約と演出のギャラの要求までがあるのです。応じなければ不審な事故が続き、客入りが悪くなる。オペラ座の経営者たちも頭を悩ませていました。ところが,代役を務めたクリスティーヌの美声が届いてか大盛況。

舞台の花形になったクリスティーヌ。幼友達でありながら身分違いのために遠ざかっていた、オペラ座の有力なパトロンである子爵のラウルと近づくことができたのです。
しかし、一人になったクリスティーヌの楽屋には、魅惑的な男の歌声がどこからともなく響く。その歌声に惹かれてクリスティーヌが好奇心で近づいた地下室には、仮面で顔を半分隠した謎の紳士ファントムが待ち構えていました。

1925年版ではモノクロでサイレントであったためか、ずいぶんと退屈に、さらにえいば陰気に感じられた筋書きも、ここではかなり明るいムードに書き換えられております。とにかく歌唱シーンがふんだんに盛り込まれ、それが今回特別に抜群の歌唱力を誇るミュージカル俳優たちによって吹き替えられているわけですから、これで飽きないわけがありません。

ファントムの幻想的な声に魅入られてか虜になってしまったクリスティーヌも、舞台に出演するために地上に戻れば、またラウルのほうになびいてしまう。当然、ファントムはその心移りを激しく怒ってしまう。絶対に人目に姿を現さないはずのファントムが、愛する人をさらうために仮面舞踏会にすら顔出しし、舞台に鳴り物入りで参加してくるわけです。

このあと、はたしてファントムとクリスティーヌの運命は…。
シャンデリアの落下事故から考えて悲劇を匂わせますが、ラストは意外にもハートフルな方向に流れて、きれいに結ばれています。どんでん返しや時間軸のつぎはぎで複雑な構成で視聴者の予想をくらまそうとする昨今の映画に比べれば、かなりあっさりとした終わり方といえます。

本作のファントムは、オペラ座の怪人と化した過去の経緯が語られ、かなり同情的に描かれています。「エレファントマン」のようなヒューマニズムを感じさせますが、人とは違ったものを生まれもって持ったために愛情に恵まれなかった人間に対する製作者の優しさを感じさせる内容ですね。

主演は「300 <スリーハンドレッド>」「トゥームレイダー2」のジェラルド・バトラー、「デイ・アフター・トゥモロー」「「ポセイドン」」のエミー・ロッサム。
監督は「評決のとき」のジョエル・シュマッカー。

吹き替えはファントム役高井治、クリスティーヌ役沼尾みゆき、ラウル役佐野正幸。劇団四季公式サイトのこちらで吹き替えPVをご覧になれます。現在、名古屋で公演されているようですが、そのタイアップキャンペーンなのですね。最近は、劇場や音楽ホールの運営がどことも大変ですから、こういう企画は喜ばしいものです。舞台劇と聞くと、どうしても監督や演出家、脚本家ばかりが目立って、俳優が目立たないので。これはオーケストラの指揮者ばかりが目立って、個性的な楽団員の顔が見えないのと似ていますね。じっさいに物語を演じて動かしているのは演じ手なのに。どうして能や歌舞伎のように、ミュージカル俳優が尊重されないのか。ミュージカルの俳優さん吹き替えの、名作ミュージカル映画をもっと放映してもらいたいですね。

ド迫力の舞台設定や豪華な衣装にも圧倒されますが、やはり、魅了されるのは力強く深い、しかし危険な香りのするファントムの歌声と、繊細で伸びやかなクリスティーヌの歌声。クリスティーヌはファントムに身を預けるや否や、大胆なことを口走って、観ているこちらが胸がどきどきします。
時間があればDVDを借りて、吹き替えなしの生の歌声を聞きたいものです。

(2010年12月17日)

オペラ座の怪人(2004) - goo 映画

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