散歩と俳句。ときどき料理と映画。

かすがい継ぎ

陶磁器の割れや欠け、ヒビなどの修復は金継ぎ(金繕い)がよく知られている。漆に小麦粉を混ぜ合わせて接着剤として使用し、そこに金粉などの金属粉を蒔いて装飾を施す修復技術である。安土桃山から江戸時代初期生まれたとされる。

高さ47㎜、口径153㎜、高台径95㎜。上から下に二つに割れた傷跡がある。高台に一か所、胴に一か所錆びたかすがいが残っている。右の写真はその反対側の胴の部分のかすがいが抜け落ちた穴。

上の写真は五年ほど前、東京・新井薬師寺の骨董市で見つけたなます皿である。段ボールの箱の中に無造作に入れられていた一枚だが、見込みの土筆の絵柄が面白いなと取り出して裏を見て驚いた。割れがホッチキスの針のような金属で止められている。店の親父にこれはなんですかと尋ねると、ああ、これな、江戸時代にはこういう修復の方法がこの国になかったから、まとめて中国に送って修繕してもらって、戻してもらってたんだと言う。江戸時代といえば、もう金継ぎの技法は誕生しているし、金属粉をつかわなくとも漆による接着はあったはずだ。手間ひまかけて中国に送って修繕してもらうなどということがあったのだろうか。
親父に値段を聞くと、指三本をたてて300円ねとにっこり笑う。帰ってから調べるつもりだったが、ついほかのことに気をとられて忘れていた。

高さ45㎜、口径147㎜、高台径93㎜。胴を一周する割れ跡と、そこから派生したヒビが二か所。かすがいは五か所に施されている。接合面にほんのわずかなズレがある。

昨年の八月、所用で出かけた東京・吉祥寺の骨董屋の前のワゴンの中に、同じように金属の針で割れを止めた染付けのなます皿を見つけた。それが下の写真である。描かれた龍が面白くて手にとったのだが、「明治前期 かすがい継ぎ 500」のラベルが貼ってある。そうかこういう補修のやり方を「かすがい継ぎ」というのか。
調べてみるとかすがい継ぎとは、中国で生まれた陶磁器の修復技術である。割れ目の両側に浅い穴を彫り、比較的柔らかい金属のかすがいを少しづつ打ち込んでいく手技である。これで割れやヒビを止めるわけだが、もちろん接着剤も使われている。いや、修復には接着剤が中心で、金属のかすがいはどちらかというと装飾的な色彩が濃いようだ。

かすがい継ぎについては馬蝗絆(ばこうはん)と呼ばれる茶碗に次のような逸話が残っている。その茶碗は安元初(1175)年に平重盛が中国の仏照禅師から贈られたもので、その後室町時代の将軍足利義政が所持するところとなった。このとき、底にひび割れがあったため、これを中国に送ってこれに代わる茶碗を求めたところ、当時の中国にはこのような優れた青磁茶碗はすでになく、ひび割れをかすがいで止めて日本に送り返してきた。そのかすがいが大きな蝗のように見えることからこの茶碗の評価は一層高まり、馬蝗絆と名付けられた。

馬蝗絆=青磁茶碗 龍泉窯 高96㎜ 口径154㎜ 底径45㎜ 南宋時代13世紀 重文 東京国立博物館収蔵。

骨董屋の親父が言うことにも一理あったわけである。このなます皿が中国に送られて、補修されて戻ってきたのかどうかは怪しい話だが、親父の頭にはこの逸話があったのだろう。なんでも疑って話を聞くという態度は改めなければと思った。

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