歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

恋女房染分手綱 こいにょうぼう そめわけたづな

2008年09月29日 | 歌舞伎
重の井子別れ(しげのい こわかれ)」の副題で親しまれています。
近松門左衛門が書いた「丹波与作 待夜小室節(たんばのよさく まつよのこもろぶし)」という作品の改作なのですが、
下のほうにチラっとそのへんについて書きます。

子役がストーリー展開上大切なセリフをほぼ全てしゃべるお芝居です。
ふつうの現代のお芝居だと、子役のセリフはむしろ聞き取りにくいことがあるかと思いますが、歌舞伎の子役のセリフは
「ゆっくり、はっきり、大きな声で」が基本。棒読みでいいのです。子役に妙なクセを付けると大人になって苦労しますしね。
というわけで、歌舞伎の子役ちゃんのセリフは聞き取りやすいです。子供なのであんまり難しい単語使わないですし。
子役が大事なセリフの殆どをしゃべるこのお芝居は、そういうわけで、わかりやすいです。ふつうに見て大丈夫です。ストーリー単純だし。

基本設定だけ書きます。
東海道の鈴鹿あたりの宿屋が舞台です。お大名が泊まる宿屋なのでセットは豪華です。というかふつうのお屋敷のセットと同じなのですが、設定は「宿屋」です。
お姫様はまだ子供ですが、江戸のお大名とのご結婚が決まって、江戸に行くところです。
名前は調姫(しらべひめ)。別名「いやじゃ姫」です。セリフが「いやじゃ」ばっかりなので。
かなりご幼少でのお輿入れですが、この場合とりあえず同じ敷地内に住んで婚約者として仲良く暮らし、もう少し大人になってから正式に結婚するようなかんじです。この年でオトナのやるような行為をするのではないです。
西鶴の「好色一代女」に、14か15でそんなかんじでお輿入れした主人公(女)が、早々に相手に色事を仕掛けて、見つかって、追い出されたエピソードが載っています。けっこう固かったようです。
ってまあこのへんお芝居に関係ないです。
調姫さまは丹波の国(今の京都の北のあたりね)生まれなので、東国に行くのはイヤじゃとだだをこねています。

お姫様がだだをこねるので乳母の「重の井」と爺(ていうか家老)は困っています。
大きい行列ですから荷物を担ぐ馬もたくさんいます。馬を引く人足である「馬子」(まご)もたくさん雇います。
江戸時代の伝馬制度、宿場の人馬供出制度についての説明は割愛します。
あ、「馬子(まご)」は「子」がつきますがべつに子供じゃないです。、むしろガテン系のゴツいお兄さんたちです。

その中に子供の馬子がいます。 大人に混じって働いているのでこましゃくれた、こ汚いガキですが、なかなか利口そうです。
「自然薯の三吉(じねんじょの さんきち」くんと呼ばれています。いかにも生命力が強そうです。
この子が「道中すごろく」を持っているというので、お姫様の前に呼ばれます。
みんなで遊びます。「道中すごろく」なので京都を出発して江戸が「あがり」で、途中の宿場の名所や名産も書いてあります。楽しいです。
お姫様が一番に「あがり」になって江戸に着きます。わあい!!

道中すごろくが気に入ったお姫様、実際の旅も楽しく思うようになります。そして江戸にも早く行きたくなります。よかったよかった。
出発の準備でひとまず全員退場し、三吉くんと重の井さんが残ります。

三吉くんにご褒美のお菓子をあげた重の井、子供が馬子をしているのを不思議に思って身の上を聞きます。
いろいろ聞き出してみてびっくり、
重の井と、三吉くんは、親子だったのでした。

重の井は、昔お城で腰元として働いていたとき、お小姓の青年と「おいた」をして三吉くんを生みました。
お城勤めは男子禁制、職場恋愛は御法度ですよ。
重の井は追放になり、三吉くんも生めないところだったのを、お殿様のはからいで子供を産ませてもらい、乳母としてお城に残れたのでした。
生まれた子供はおじいさんにあずけたのですが、もう会えません、連絡も取れません。
どこにいるかもわかりませんでした。まさかおじいさんが死んでしまって、息子が馬子をしていようとは!!

とはいえ、お殿様に恩があるの重の井、乳母としてお姫様を守ってりっぱに育てるためにがんばらなくてはならないのです。
今は三吉くんを子供として手元に置くわけにはいかないのです。
なので、心を鬼にして三吉くんを突き放さなくてはなりません。

事情は事情だろうけど、母親に見放された三吉くんの気持ちは治まりませんよ。泣いて母にすがり、なじる三吉くん。

あとはホント見てれば大丈夫だと思います。

子供かわいいですし、泣かせる話ですから楽しんでください。

最後は三吉くんが、いつも元気よく唄う馬子唄(まごうた)を、泣きながら歌って終わります。

さて、この段には出ませんが、
重の井のお相手のお小姓だった男も今は馬子に落ちぶれて「丹波の与作」と呼ばれています。
三吉くんのセリフにも、父親のことがチラっと出ますよ。
今は「関の小万(せきの こまん)」という遊女と恋仲で、いろいろお金に困ってトラブルを起こしています。

もともとはこの与作が主人公の「丹波与作 待夜小室節(たんばのよさく まつよのこもろぶし)」という近松の作品があり、
このお芝居はその一部なのです。

現行上演この作品は「恋女房染分手綱」という本題が付き、三好松洛その他の作、となっています。
近松作品の「改作」とも書かれています。が、
現在全十段のうち、ここしか出さない、まさにこの部分は、まるまる近松が書いた、そのまんまの内容です。
「改作」もへったくれもありません。りっぱな「近松作品」ですよ。じゃなきゃこんなイイせりふ並ぶもんかと思います。

作者: 近松門左衛門 本題:「丹波与作待夜小室節」で出せばいいのにといつも思います…。

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