台風19号、間を置かず訪れた台風21号で中秋の東日本各地は暴風雨にさらされ、崖崩れが頻発、堤防の決壊等による大洪水が襲った。「想定外」、「今まで経験したことのない」、「特別警戒警報」などの絶望的なことばが繰り返された。このような天災は今後列島各地を日常的に襲うに違いない、と人々は恐れおののいている。だから国土強靱化に本当に真剣に取り組まねばならないという世論となっている。昔から治山・治水は政治の最優先課題だったが、昨今は忘れがちであったという反省と共に。治山とは端的に地滑り・崖崩れ防止、治水は洪水防止だ。国土強靱化は治山治水とすればまずは地域社会の強靱化(地方への投資)に他ならないだろう。消防、警察、自衛隊をいくら増員し動員しても、地滑り・崖崩れ、洪水はこれらの人数が足りないから起こるのではない。緊急事態なにがしとかいい、憲法まで変えようとする宣伝がなされているがとんでもない見当外れだ。
ある土木学者は洪水防止のために必要な日本国土の貯水容量は650億トンであると算出している。そして貯水の担い手は、森林(440億トン・・68%)、人工ダム(111億トン・・17%)、水田(81億トン・・12%)、畑(14億トン・・2%)、原野等(1億トン・・1.5%)と推定した。これによれば国土強靱化の本命は、森林の強靱化であることを示している。今一次産業・・農林水産業がどういう危機にあるかは国民は気づいているだろう。地方の衰退、過疎化となっているからだ。洪水や崖崩れの発生源は、農林業を衰退させた地方の過疎山村である。上記の水田の貯水機能は81億トン・・12%は、300万ヘクタールに及ぶ水田が管理されていること、すなわち農業が営まれていることが前提で計算されている。森林(440億トン・・68%)についても江戸時代のように樹木が健全に営林(経済的利用)されていることが前提である。人工ダムは洪水位調節目的のものが全国に200程度あるが、一時的にも保水する能力は20-30億トンにすぎず、大雨の時は緊急放流が強いられ、これが都市洪水を起こす可能性があることはニュースで知るところとなったであろう。作付けされている水田・畑は人工ダムの2.7倍の保水量を持つ。農山村・過疎地域の農業(林業も)は、衰退一途である。日本経済は森林、田畑の生態系の持つ力を資源として活用していない。国土強靱化は必要だが、強大な暴風雨が列島を襲い始めた日本では、生態系の水管理の力を使う産業(一次産業)の強靱化こそ最優先されるべき「緊急事態」だ。水田と田畑の活力を評価する、そして資源化する、これは大変なニーズ(需要)であるので、政治の発想転換を期待している。以上のデータは、「水田・畑の治水機能評価」(志村博康・農業土木試験場、1982)によっている。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます