私の親戚に、キャリアウーマンの先駆け的なオバーがいる。
80を過ぎた今でも独身な彼女。もちろん内縁の夫や子供はいない。
彼女は、高校を卒業後から軍雇用員や
沖縄じゃ羨望の眼差しで見られがちなある電力関係の会社や、
バブルへまっしぐらの羽振りのいい大手金融関係など、
当時の沖縄女性としては華やかなキャリアを持っている。
当時の彼女の白黒写真を見ると、オードリーヘップバーンのような髪型とファッションで、
アメリカ人と肩を並べている写真や、若かりし頃の皇后美智子さまが那須でお召になっていそうなファッションで、
どこかへ休暇を楽しんでいる写真など、見ているだけで実に楽しい。
私は、彼女のその経歴は、単に時代が良かったから・・・という言い訳にも似た決まり文句は使おうと思わない。
逆に、結婚したら家庭におさまるのが常識だった時代に、
あれだけ仕事に打ち込めた彼女を、私は、沖縄のキャリウーマンの先駆けとして、心で密かに崇拝している。
そんな彼女だが、頂けない事が一点。
”お金”への執着心だ。
彼女の口癖は昔から「お金は大切。お金は裏切らない」である。
まー確かにそうだろう。しかし、彼女の執着心は揺るぎがない。
以前、彼女は緑内障の手術を受けた。
独りで生きてきた彼女に、家族として付き添うのは、唯一の妹さんとその娘さんだけだ。
手術を受ける日、準備が整い、手術室へ徒歩で向かう。
妹さんは、患者である姉に配慮し、彼女の手荷物を一時的に預かろうとバックに手を差し伸べた。
すると、患者である彼女は、「触ーらんけ~(触らないでの意)」と妹が自分のハンドバックに
触れることを頑なに拒否した。
不愉快な思いをしている妹さんをよそに、彼女は自身のハンドバックをいつもように抱えながら
手術室へと向かった。
手術室の手前、もうここから、家族は中へ入れませんという所、
皆は彼女がここでハンドバックを渡してくれるものだと思っていた。
しかし、何と彼女はハンドバックを抱えたまま進んで行ったのだ。
もー、これには関係者も呆れ果てた。
一部始終を見ていた看護師さんが、
「比嘉さん、はい、妹さんにハンドバック預かってもらいましょうね~」と促す。
しかし、彼女は、ハンドバックを渡さんぱぁ~して(渡したくないよーと渋ること)、
渋々妹にそのハンドバックを預かってもらったとさ。
血の繋がった唯一の妹でさえも、信じられないのか・・・。
因みに、その妹さんは欲張りだったり、人からお金を毟りとるようなことは決してしない、
信頼が置ける人だ。
信じられるのはお金だという彼女。
長い間、独りで生きる中で、何か悟らずにはいられないことがあったのかもしれない。
それにしても、かつて写真で見たオードリーファッションを着こなした美しい人が、
半世紀後には、ハンドバックに預金通帳等を詰め込み、手術台まで肌身離さず抱えるとは、誰が想像し得ただろう。
泥棒のような扱いを受けた妹さんが気の毒でならない。