民事裁判の記録(国賠)・自衛隊車とバイクの交通事故の民事裁判

1・訟務検事の証拠資料のねつ造など不法な弁論。
2・玖珠署の違法な交通犯罪の捜査,虚偽の実況見分調書の作成

18:判決書 平成21年5月14日

2009-05-14 12:50:21 | 第4訴訟 第1審 被告大分県
平成21年5月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成20年(ワ)第3371号国家賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成21年3月12日
              判       決
   横浜市旭区白根2丁日31番2-101号
       原       告           出 羽 やるか
   大分市大手町3丁日1番1号 
       被       告           大  分  県
       同 代 表 者 知 事          広 瀬 勝 貞
       同訴訟代理人弁護士        富 川 盛 郎
       同 指 定 代 理 人          小 代 義 之
       同                    中津留 三 次
       同                    生 野   敏
       同                    江 藤 鉄 夫
             主         文
     1 原告の請求を棄却する。
     2 訴訟費用は原告の負担とする。
             事 実 及 び 理 由
第1 請求
   被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成20年9月6日から支
  払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,大分県玖珠郡で交通事故に遭った原告が,大分県警玖珠警察署の警
  察官には交通事件の捜査に当たり実況見分調書の作成を放置するなどの違法行
  為があったと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,交通事故
  による損害等合計3000万円の損害のうちの一部である10万円の損害賠償
                  1
  及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求めた事案で
  ある。
 2 前提事実(証拠を掲記するもの以外は,当事者間に争いがない。)
  (1) 被告が所轄する大分県公安委員会は,大分県警察を管理している。
                             (弁論の全趣旨)
  (2) 原告が,平成11年10月 7日午前10時55分ころ,大分県玖珠郡九重
   町大字湯坪の県道別府一の宮線水分起点34.9km先付近道路を普通自動二
   輪車(原告車)で走行中,原告車と小野寺秀和(小野寺)が運転する国(陸
   上自衛隊)所有の大型貨物自動車(自衛隊車)に牽引されたフルトレーラー
   が衝突ないし接触する事故(本件事故)が生じ,原告は,右肘脱臼開放骨折,
   右第3・4指中節骨骨折等の傷害を負った。
    原告は,本件事故後,熊本市にある熊本赤十字病院に搬送され,同月30
   日まで開病院に入院した。
                       (原告の傷害につき,甲23)
  (3) 玖珠警察署は,平成13年11月20日,原告に対する道路交通法違反被
   疑事件(同法70条,119条1項9号違反)を日田区検察庁に送致し,同
   検察庁副検事は,同年12月25日,原告を起訴猶予処分とした。
                   (起訴猶予処分につき,弁論の全趣旨)
  (4)原告は,従前,次の各訴訟を提起した。
   ア 原告は,国を被告として,横浜地方裁判所に対し,平成13年7月23
    日,小野寺の制限速度違反等の過失によって本件事故が生じたと主張して,
    国家賠償法1条1項及び自動車損害賠償保障法3条に基づき2557万8
    457円の損害賠償の支払を求める訴え(第1訴訟)を提起した。同裁判
    所は,平成14年8月30日,原告の請求を棄却するとの判決を言い渡し,
    原告は控訴したが,東京高等裁判所は,平成15年2月4日,控訴を棄却
    するとの判決を言い渡した。その後,同年9月12日の上告棄却決定等に
                 2
    よって,1審判決が確定した。
   イ 原告は,神奈川県公安委員会を被告として,横浜地方裁判所に対し,平
    成16年6月14日,原告には安全運転義務違反の事実がないと主張して,
    同年4月20日に運転免許更新処分を受けた際,原告を一般運転者と認定
    した処分の取消しを求める訴え(第2訴訟)を提起した。同裁判所は,平
    成17年4月20日,原告の請求を棄却するとの判決を言い渡し,原告は
    控訴したが,東京高等裁判所は,同年11月16日,控訴を棄却するとの
    判決を言い渡し,平成19年7月5日の上告棄却決定によって,1審判決
    が確定した。
   ウ 原告は,国を被告として,横浜地方裁判所に対し,平成17年10月1
    8日,第1訴訟で国の指定代理人らに証拠資料を隠ぺい破棄し提出しない
    などの違法行為があったと主張して,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料
    等3000方円の損害賠償の支払を求める訴え(第3訴訟)を提起した。
     同裁判所は,平成18年11月10日,原告の請求を棄却するとの判決を
    言い渡し,原告は控訴したが,東京高等裁判所は,平成20年3月25日,
    控訴を棄却するとの判決を言い渡し,同年7月11日の上告棄却決定によ
    って,1審判決が確定した。          (甲58から60まで)
 3 原告の請求原因
  (1) 玖珠警察署警察官の違法行為
   ア 玖珠警察署の警察官は,平成11年10月7日に実況見分を行ったが,
    その作成を平成13年9月27日まで放置した。
   イ 玖珠警察署の警察官は,実況見分調書に真実でない記載をした。
     すなわち,堀部警部補や間ノ瀬巡査部長は実況見分を行っていないにも
    かかわらず,見分官,補助者と記載し,実況見分の時間も不実である。
   ウ 玖珠警察署の警察官は,実況見分調書に実況見分時に撮影したものでな
    い写真を添付した。
                  3
     荷台から外されたはずの原告の荷物が荷台にあること,原告車でない自
    動二輪車が写っていること,当時なかった徐行の道路標示があること,道
    路に停まっていたはずの自衛隊車が草地に移動されていること,当時なか
    った里程標かおること,実況見分調書にはタイヤ痕,擦過痕があると記載
    されているが写真には写っていないことなどから,実況見分調書に添付さ
    れた写真が実況見分時に撮影されていないことが判明する。
   エ 小野寺は,フルトレーラーを牽引した自衛隊車を運転して,雑草等があ
    り双方からの見通しが不良な半径25mのカーブを通過する場合,カーブ
    の手前でスピードを落とし他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運
    転しなければならない義務があったのに,最高速度と指定された毎時40
    kmのまま本件道路のヘヤピンカーブに進入した過失があった。この結果本
    件事故が生じたのであり,原告は約3か月の加療を要する傷害を負ったの
    であるから,小野寺は人身事故の加害者である。
     しかるに,玖珠警察署の警察官は,小野寺を業務上過失致傷等事件の披
    疑者として検察官に送致しなかった。
  (2) 原告の損害
   ア 玖珠警察署の警察官の違法行為により,本件事故に開する公判が開かれ
    ず,原告は公正な裁判を受ける権利を侵害された。
     また,本件事故による原告の損害を回復できず,長期間の訴訟を強いら
    れた。
   イ 原告に生じた損害は,次のとおりである。
    (ア)第1訴訟の敗訴による損害(本件事故により生じた損害)
     ① 治療関係費                85万1440円
     ② 休業損害                791万5578円
     ③ 後遺障害による逸失利益         903万3693円
        右手指の関節可動域制限(拘縮)及び右手の握力の低下がある。
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     ④ 慰謝料 傷害慰謝料           231万円
           後遺障害慰謝料         510万円
     ⑤ 文書料                   2万2260円
     ⑥ 警察への出頭旅費              2万2360円
     ⑦ 物損等                  32万3126円
     ⑧ 合計                 2557万8457円
   (イ) 玖珠警察署の違法行為に基づく慰謝料    442万1543円
 4 請求原因に対する認否    
  (1) 請求原因(1)について
   ア 実況見分調書の作成が平成13年となったのは,次の経過による。
     玖珠警察署では,実況見分の結果,本件事故は原告が対向車線に原告車
    を進出させたことによって発生したと判断し,原告が平成11年10月2
    9日に玖珠警察署を訪れた際,その旨説明した。それに対し,原告は,自
    衛隊車が中央線を越えて来たと聞いていると言って上記説明に納得しなか
    った。そのため,玖珠警察署の警察官は原告に対し,実況見分及び調書
    の作成のため再度来署することを求めたが,原告は横浜市に帰ってしまい,
    その後,玖珠警察署からの出頭要請に応じなかった。そこで,玖珠警察署
    では,自衛隊車の被害が物損のみで軽微であること,原告の側が出頭に応
    じないこと,自衛隊は原告の処罰を望んでいないこと等から,本件交通事
    故の処理を一時保留扱いとした。
     平成13年になって,原告が第1訴訟を提起したことを自衛隊から知ら
    された玖珠警察署は,本件交通事故を検察官に送致することとし,原告に
    対し再度出頭を求めたが,原告は応じなかった。そのため,玖珠警察署は,
    従前のメモ等をもとに実況見分調書を作成し(間ノ瀬巡査部長が転勤して
    いたため,堀部警部補が作成した。),警察官が横浜市へ出向き原告の供述
    調書を作成するなどし,関係書類を日田区検察庁に送致した。
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     以上のとおりであって,実況見分調書の作成が遅れたとしても違法性は
    ない。
   イ 原告の(1)イの主張は否認する。
     間ノ瀬巡査部長が見分官,堀部警部補が補助者として,平成11年10
    月7日午後0時34分から午後1時20分まで実況見分を行っている。
   ウ 原告の(1)ウの主張は否認する。
     堀部警部補が事故当日の実況見分時に撮影した写真を添付している。
   エ 本件事故は,原告が見通しの悪い下り坂の左カーブを進行するに当たり,
    ハンドル及びブレーキの的確な操作を怠って原告車を対向車線に進出させ
    たため,対向方面から進行してきた自衛隊車に牽引されたフルトレーラー
    の右側面に原告車の右前部を接触させたものであり,原告の過失による。
     小野寺には,本件事故につき過失はないから,被疑者として送致するこ
    とはあり得ない。
  (2) 同(2)は争う。
第3 判断
 1 原告の請求原因(1)について
  (1) 証拠(甲59)によれば,第3訴訟の控訴審裁判所は,実況見分調書が作
   成されるに至る経過について,次のとおり認定したことが認められる。すな
   わち,堀部警部補らは,平成11年10月7日午後0時34分から午後1時
   20分まで本件事故現場の実況見分を実施し,本件道路に残された痕跡等か
   ら,加害者は本件道路の中央線を越えた原告であり,被害者は小野寺である
   と判断した,堀部警部補らは,原告立会いの下で本件事故の実況見分を実施
   しようとしたが,原告は,退院後には玖珠警察署に出頭して実況見分に立ち
   会う旨約していたにもかかわらず,退院後神奈川県の自宅に帰ってしまい,
   堀部警部補らは原告に対し郵便で玖珠警察署に出頭するよう要請したが,原
   告はこれに応じなかった,この間,自衛隊等が,自衛隊車等に実質的な損害
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   がないことなどから,原告の処罰を望まない旨申し立てたので,堀部警部補
   らは,平成12年2月10日,後日紛議が生じた場合には,捜査を再開して
   送致することを条件に本件事故捜査を一時保留処分とすることとした,堀部
   警部補らは,平成13年8月,原告が国に対して第1訴訟を提起したことが
   判明したので,上記保留処分を解除し,送致準備を進めることとしたが,原
   告は,高齢と経済的な問題を理由に玖珠警察署への出頭に応じることができ
   ない旨主張し続けた,堀部警部補らは,日田区検察庁の指示を受け,堀部警
   部補が,本件事故当時に作成していた現場メモに基づいて同年9月27日付
   けて実況見分調書を作成し,神奈川県まで赴き,原告の取調べを実施し,上
   記実況見分調書を示しながら被疑者供述調書を作成し,同年11月20日,
   原告を被疑者として日田区検察庁に送致した。
    上記の第3訴訟の控訴審裁判所の認定を覆すに足りる証拠はなく,証拠(甲
   10の1・2,59)によれば,上記のとおり認定することができる。
    これによれば,玖珠警察署の警察官が実況見分後直ちに実況見分調書の作
   成をしなかったことには,合理的理由があるというべきであり,実況見分調
   書の作成を放置していたということはできない。
  (2) 証拠(甲50,55,58,59)によれば,第1訴訟の控訴審裁判所は,
   実況見分調書の作成について,道路の車道幅員は,現場の状況において自動
   車が走行可能な最大幅を計測した結果として誤りはない,自衛隊車は,いっ
   たん,本件事故地点付近の道路外の草地に移動され,警察官の到着後に開始
   された実況見分に際して,道路上に移動されたなどと認定した上で,実況見
   分調書の内容に不自然不合理なところはなく,本件事故当日に警察官により
   実施された実況見分の内容を記載したものと認定し,現場事故写真について
   も,本件事故当時の里程標の存在を認めたこと,第2訴訟の第1審裁判所は,
   間ノ瀬巡査部長を見分官,堀部警部補及び早水巡査長を補助者として平成1
   1年10月7日午後0時34分から午後1時20分まで本件事故現場の実況
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   見分が実施されたと認め,間ノ瀬巡査部長らが当日実況見分を行わなかった
   のではないかと疑うべき事情は存在しないと判断し,実況見分調書添付の写
   真についても,同一機会に撮影された一連のもので,本件事故直後の状況を
   撮影したものと理解するのが自然であるとし,「原告の荷物」,「徐行」の道
   路標示,「里程標」が実況見分当時存在したことを疑うべき事情はないと判
   断したこと,第3訴訟の第1審裁判所は,第2訴訟の第1審裁判所と同様に
   間ノ瀬巡査部長らが上記日時に実況見分を実施したと認め,添付の写真も実
   況見分の際に撮影されたと認めたこと,とりわけ,「原告の荷物」,「里程標」
   にねつ造・改ざんはないと判断したこと,第3訴訟の控訴審裁判所も,(1)の
   とおり,間ノ瀬巡査部長らが上記日時に実況見分を実施したと認め,実況見
   分調書に添付された写真についても,本件全証拠によっても,この写真がね
   つ造・改ざんされたと認めることはできないと判断したこと(第3訴訟の第
   1審裁判所は,当該訴訟において,原告が実況見分調書に添付された写真が
   本件事故当日に撮影されたものでなくねつ速・改ざんされたものであると主
   張し,それに沿う証拠を提出しだのに対し,原告が挙げる種々の事情の大半
   は写真画面上の単なるコントラストの問題や個人の主観に基づいて不自然と
   論難しているにすぎず,ねつ造・改ざんがあったことを疑わせるような客観
   的な根拠となるものはないとも判示していること。)が認められる。
    これらの度重なる裁判所の認定,判断の事実及び当裁判所に提出された乙
   2の写真のネガによれば,実況見分調書には実況見分当時の状況が偽りなく
   記載され,実況見分時に撮影された写真が添付されたものと認めることがで
   き,本件訴訟においても,これを疑わせるに足りる客観的証拠はない。
  (3) 証拠(甲49,50,55,58)によれば,第1訴訟の第1審裁判所は,
   本件事故につき,自衛隊車が毎時40kmの速度で進行車線をはみ出すことな
   く走行していたところ,原告車が急にコントロールを失って対向車徐に入り
   込み,小野寺がブレーキをかける間もなくフルトレーラーに衝突して発生し
                   8
   たものと認定し,小野寺には,本件事故の原因となる速度違反や対向車線ヘ
   のはみ出しその他何らの過失もなかったと認定したこと,第1訴訟の控訴審
   裁判所も同様の認定をし,本件事故は原告の過失に基づく結果であり,小野
   寺には何ら過失がないとの判断を示したこと,第2訴訟の第1審裁判所は,
   本件事故につき,小野寺は時速約40kmの速度で本件道路を自衛隊車進行車
   線を進行して本件事故現場手前の右カーブに入ったが,原告車がコントロー
   ルを失って左右に大きく振れ,自衛隊車の運転席の横を通り過ぎてフルトレ
   ーラーに衝突ないし接触したと認定したこと,第2訴訟の控訴審裁判所も,
   原告は原告車のハンドル・ブレーキの操作を誤り,バランスを崩して中央線
   を越え対向車線に進出させたためフルトレーラーに衝突したと認定したこ
   と,第3訴訟の第1審裁判所は,本件事故の態様につき,第2訴訟の第1審
   裁判所の上記認定と同様の認定をしたことが認められる。
    上記の各裁判所の認定及び証拠(甲16 ,17,19 ,乙3)によれば,
   本件事故の原因は,原告車のハンドル・ブレーキの的確な操作を怠った原告
   の過失にあると認められるのであって,小野寺の過失は認めることができな
   い。したがって,小野寺を業務上過失致傷等事件の被疑者として送致しない
   ことは何ら違法ではない。
  (4) 以上のとおり,原告が主張する玖珠警察署の警察官の違法行為はいずれも
   これを認めることができない。
    原告の請求は,その内容において,すでに提起された3件の訴訟の蒸返し
   にすぎないといわざるを得ない。このことは,原告が提出する甲号証は,今
   回新たに作成された陳述書(甲74)を除き,その大部分が,作成日,体裁
   からみて,従前の3件の訴訟に提出されたものと認めることができることか
   らもいうことができる。
 3 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
  り判決する。
                     9
      横浜地方裁判所第9民事部
            
               裁判官 江口とし子

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