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《注目意見》かんぽの宿売却問題は大疑獄事件の一端である 森永 卓郎氏

2009年03月03日 16時58分24秒 | 政治・社会
■ かんぽの宿売却問題は大疑獄事件の一端である 経済アナリスト 森永 卓郎氏

「日経ビジネスオンライン」 2009年3月02日

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/174/index.html

かんぽの宿売却が大きな問題になっている。1月6日に鳩山邦夫総務大臣が、70施設をオリックス不動産に一括売却する案件に対してストップをかけた。

オリックスグループといえば、そのトップである宮内義彦氏は総合規制改革会議議長を務めており、小泉内閣の民営化推進路線のまさに旗振り役だった。そうしたグループ企業に準国有財産を売却することには「疑念がある」というのが鳩山総務相の主張である。

これに対して、マスメディアは当初、鳩山総務相に批判的だった。「公正な入札を通じてオリックス不動産が取得したのだから、そこに一大臣の疑念だけで横やりを入れるのはおかしい」というのがその批判の趣旨だった。

しかし、その後、次々と疑念が噴出するにしたがって、マスメディアの論調が変わってくる。

売却問題にまつわる事実関係が徐々に明らかになり、そのインチキぶりが白日のもとにさらされつつある。

わたしはこの問題を、ロッキード事件やリクルート事件と同じような、非常に大規模な疑獄事件の一端であると考えている。かんぽの宿問題は徹底的に事実究明すべきである。だが、国会議員もメディアの報道も「麻生降ろし」「中川大臣辞任」に目を奪われてしまっているのは気がかりだ。

問題は宮内氏が構造改革の「仲間」であるということにある

かんぽの宿売却問題は、見れば見るほど不可解なことばかりである。まず、簡単にここまでの事実関係を中心に整理していくことにしよう。まず、鳩山大臣に待ったをかけられたときの日本郵政とオリックスの言い分である。

日本郵政側は、売却を急いだ理由を次のように説明する。「売却対象の70施設が、全体で年間40億円台の赤字を出していることから、早期売却を行いたい。早く売らなければ赤字が累積するだけだ」というわけだ。

オリックス側は、宮内氏に職務権限がないことをアピールした。宮内氏が関与した総合規制改革会議や規制改革・民間開放推進会議では、郵政民営化を採り上げた事実はないというのである。

だが、問題はそうしたレベルのことではない。宮内氏に職務権限があるかどうかではないのだ。最大のポイントは、宮内氏は誰がどうみても小泉・竹中改革の同志であるという点にある。つまり、仲間うちで取引しているのではないかということが一番の疑惑なのだ。

そういう疑念をもってみると、さまざまな問題が見えてくる。そもそも、かんぽの宿の108億円という異常に安い落札価格自体が不可解である。わたしは、売却リストにある「ラフレさいたま」という施設にしばしば足を向ける機会があるのだが、さいたま副都心にあるこの施設だけでも100億円はするとされている。

確かに、かんぽの宿の従業員の雇用を維持するという条件はついている。だが、それは2年限りであって、それほど大きな損失にはならないはずだ。全体で108億円というのは、あまりに安いと考えるのが常識だろう。

こんな安い価格がついた理由として、入札の過程が問題になっているのはご承知の通りだ。

日本郵政が売却先を公募したのは昨年4月のこと。それに対して、応募は27杜。2度の競争入札を経て、昨年末にオリックスへの一括譲渡が決まったということになっている。そう聞けば、誰だって一番高い価格で入札したオリックスが競り勝ったと思うところだが、事実はそうではないようだ。

日本郵政は不公正な入札をチェックできない仕組みに変えられていた

それにしても、これを入札というのだろうか。応募した27杜のうち予備審査で5社が脱落し、その後も16杜が入札を辞退している。だが一般論でいって、応募しながらそう簡単に入札辞退するものだろうか。

たとえあったとしても、それが16社も同時というのは考えられない。

百歩も千歩も譲って、それが事実だとしても、残る6社による競争が行われたはずである。

だが、最終的に明らかになったのはオリックス不動産1社しか入札していないという事実である。

こんなものを入札といえるはずがない。

報道によると、日本郵政の担当者はこの入札について「企画提案コンペのようなもの」と述べて、一般競争入札とは異なることを認めたという。それにしても、企画提案という言い訳もいったいなんなのか。かんぽの宿を売り飛ばすだけなのに、企画提案なんてあるのだろうか。これまた不可思議である。

さて、ここからが重要なポイントだ。日本郵政がこの入札を「正当なものだ」と主張したければ、入札の詳細を公表すればいい。そうすれば、出来レースではないかという憶測を呼ぶこともないはずだ。

だが、ここで問題なのは、日本郵政には法律上情報公開の義務がないということである。

郵政公社時代には、購買委員会というものがあり、それが公正な入札を監視する役割を果たしていた。

ところが、民営化後の入札は、その役割をすべて経営会議が負うことになる。事実上、チェックがほとんどかからない不透明な仕組み変わってしまったわけだ。だから、不公正な入札を誰も止めることができなかったのである。

民営化されたからいいのではないかというかもしれないが、同様に民営化されたJRやJTの場合、3億円以上の資産売却は政府の許認可とされた。しかも、日本郵政は現時点でまだ政府が全株式を保有しているのだ。

そうしたことを考え合わせると、郵政民営化の時点で、こうした不透明な取引が可能なよう、あらかじめ仕組まれていたのは明らかである。

なぜ構造改革の「仲間」がみなうまい仕事にありついているのか

かんぽの宿に似た「出来レース」はまだある。いや、これはもっとひどい例かもしれない。やはり宮内氏と同じく、小泉・竹中構造改革の同志である奥谷禮子氏の場合だ。

奥谷氏といえば、厚生労働省の労働条件分科会委員という立場で、「過労死は自己管理の問題」と発言して物議を醸した人物である。

今から約2年前になるが、彼女が代表取締役社長を務める人材派遣会社ザ・アールが、2003~2007年の4年間に、郵政公社時代から研修の仕事を7億円近く受注していたことが「しんぶん赤旗」(2007年3月18日付)で報じられた。

日本共産党の吉井英勝衆院議員の資料要求に対して、日本郵政公社が明らかにしたものだ。「マナー向上プログラム」「営業スペシャリスト要請研修」「電話応対スキル向上研修」といった研修に対して、郵政公社から年間1億数千万円の巨費が支払われていたのである。

もちろん、ザ・アールは入札を経てこの仕事を獲得している。だが、誰もが疑問に思うだろう。なぜこうも改革の仲間たちばかりが、うまい仕事にありついているのか。

しかも現在、奥谷禮子氏は日本郵政株式会社の社外取締役なのである。これでは仲間うちの取引だと疑念を持たれても仕方がないのではないか。

また、郵政公社では業務の効率化を図るとして「トヨタ方式」を導入したことが知られているが、その際に2002~2007年度の5年間に3億円近くのコンサルティング委託費用を、トヨタ自動車に支払っていることが、やはり同紙で指摘されている。

そしてまた、トヨタ自動車取締役相談役の奥田碩氏も、小泉・竹中改革の同志であり、日本郵政株式会社の社外取締役なのである。

西川社長を外してかんぽの宿問題を徹底追及すべし

まだまだおかしなことがある。かんぽの宿売却の際に、最終的には全額は払われなかったものの、メリルリンチに対して成功報酬を含めて6億円以上のコンサルティング費を支払う予定になっていたという。

だが、コンサルティングといっても、ちょっと入札の仕組みをつくって相談に乗ってやるだけのことではないか。

わたしもコンサルティングの会社にいたことがあるが、その経験から考えれば、そんな巨額の費用がかかるはずがない。

どんなに高く見積もったとしても、せいぜい数千万円どまりではないか。

要するに、非常におかしなことが、郵政公社と日本郵政株式会社を舞台にして起きていたのだ。そして、その頂点にいるのが日本郵政株式会社初代社長の西川善文氏である。

西川氏は、三井住友銀行の頭取時代から天皇と呼ばれていて、強力なリーダーシップで会社を動かしてきた人だ。

日本郵政株式会社でも西川チームを中心とした独裁政権がつくられていたのは想像に難くない。

三井住友銀行の行員に話を聞くと、西川氏を「裏切り者」と悪しざまにいう人が少なくない。なぜなら、銀行時代には「郵政は民業圧迫だ。あんなものを野放しにするのはけしからん」と述べていたにもかかわらず、さっさとそちらに転身してしまったからだ。

それでも国や国民のために役に立つことをしたのならともかく、結局やったことは仲間たちが儲かるための「改革」を推進しただけではないのか。

だからこそ、わたしは、これを大規模な疑獄事件だと考えるのだ。かんぽの宿問題は、その入口なのである。

そこを徹底追及しないといけない。さすがに野党からは徹底追及の声が上がっているが、これほどの事件にもかかわらず、与党の中から「西川を外せ、徹底的に真相を究明せよ」という声が出てこないのはおかしいと思うのだ。

(終わり)





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