河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

100 / 老いの小文2

2023年11月20日 | よもやま話

そろそろ紅葉が綺麗だろう、というので、高校時代の友人が毎週田舎暮らしに通っている備前の国へ。
道が混むので昼過ぎに、友人の車で大阪を出発。
まだ体が本調子ではないので、一時間おきに休憩をとって、備前の国に入ったのは4時。
少し道をはずれた所に閑谷学校が在り、二本の「楷の木」の大木の紅葉が、さぞかし見事であろうというので寄り道。
受付で拝観料を払って敷地内に入れば、儒学の祖、孔子の徳を称える孔子廟が在って、その前に見事な紅葉があるはずなのだが、無い。

訊けば11月の上旬に紅葉を迎えたということで、今はわずかばかりの名残の黄葉が残るだけ。
「十日ほど前あったら見事あったんやけどなあ」と友人。
春の備前の花見の旅もそうだった。
「一週間前は桜が満開あったんやけどなあ」と友人。
備前の旅はどうも過去形が多い。
いたしかたなく国宝の講堂を観て資料館を見学して敷地を出る。
出口で「論語みくじ」なるものを売っていたので土産にと買って、後でゆっくり読もうとポケットに入れ友人宅へ。
途中で酒の肴を買って、山あいの友人宅に到着した時はすでに夜。
友人は玄関を開けに裏から、吾は重いバッグを持って玄関へ。
街灯も無い真っ暗な道を勘を頼りに何歩か歩いた時、突然、体が地面に吸い込まれた。

まったく身動きがとれない。真っ暗な中で、何が何だか、訳が解らない。
このまんま備前のド田舎で果てるのか・・・と不吉な考えがよぎる・・・。
一分か五分なのか、思い出せないほどの時間が過ぎて、少し眼が闇に慣れてきた。
眼の前にコンクリートらしきもの、ということは横向き、しかも、右腕を下にした気をつけ状態!
あっ! 確か! 家の横に幅30㎝、深さ40㎝ほどの溝があった!
溝に、右腕を下に、横向きにスッポリと、落ちた! ようやく状況が判断できた。
ということは、左腕は自由が効くということで、動かせないのは重いバッグが乗っかっているのだ。
バッグをおもいっきり跳ね除けた。そして、左手一本で溝につかまり這い出ようとしたが、そんな堅強な身体ではない。
何度も挑戦しているうちに、右腕がスッポリと抜けた。
その右腕を突っ張って身体を持ち上げると、ようやく世の中が見えた。
今度は左腕を突っ張ってその状態を維持し、右手で溝につかまり、渾身の力で身体を持ち上げると、やっと上半身が溝から出た。
「おーい、どないしたんや? 早く入って来いよ!」と友人が出て来た。
「遅いわ! もっと早うに救けに来んかい!」

家の中に入って事の次第を話すと、「えっ、大丈夫か?」。
「今になって、心配かいな?」
しかし、頭の一つも打って、骨の二、三本を折っていても不思議ではないのに、なんともない。左手の中指を何かで擦りむいただけだ。
実に見事にスッポリと落ちたものだと思ったとき、ポケットに入れた「論語みくじ」を思い出した。
おみくじの封を切って書いてあることを読んだ。
 君子は諸(こ)れを己れに求む。小人は諸れを人に求む。
 (立派な人は事の責任・原因を自分自身に求めるが、つまらない人間は他人に求める)
なるほど、すべては自分自身が悪かったのか、と納得。
「傷に貼るカットバン有るか?」
「そんなん有ったかなあ?」と戸棚の中を探して、持って来たのが前の住人が残していった傷テープ。
「おい、これ、いつのやつや?」
「30年前やなあ!」
「エーッ! 逆に悪化するがな!」
いやいや、文句は言うまい。
君子は諸れを己れに求む・・・なのだ!


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