この時期、週にニ、三回、総会屋やら会議やら行事やらがあって、畑仕事もままならない。
それでも、夕方には畑へ行く。
作業をしにいくのではなく、日に日にあふれていく緑を見に行くのだ。
見に行くといっても、なんらかの意思がはたらいているのではなく、なんとなく出かけて、なんとなく眺めて、ぼぉーっとしているだけ。
殊にこの季節の緑は気持ちが安らぐ。
黄緑、萌黄、ライムグリーン。
夏の濃い緑とは違って明るい緑。
調和・平和・自然・安息・新鮮・健康・生命力……。
心も体もポジティブにしてくれる。
まだ四月だというのに、周りで田植えが始まった。
例年より十日ほど早い。
八月の下旬に稲刈りをして、刈り取った株から出た穂をもう一度刈り取って、二回採りするのだという。
これも温暖化の影響なのだろう。
春が短くなり、夏が長くなった。
近くを通りかかった百姓仲間に「夏野菜の苗を露地植えしていけるかなあ?」と尋ねた。
「そんなん、一週間前に植えたで!」
「保温をしてか?」
「この暑いのに、保温はいらんやろ!」
「八十八夜(5/2)の別れ霜」という諺も過去のものになりつつある。
6600万年前の6月ある日、直径10㎞の隕石が地球に落下した。
衝撃による熱波、山林火災、津波が地球全体を襲う。
やがて、まきあげられた噴煙によって地球は暗黒の世界となり、生体系が狂い、恐竜や多くの生物は絶滅した。
そんな大量絶滅の中で、かろうじて生き残ったのがネズミやイヌ、サルどの小さな哺乳類。
地上から恐竜がいなくなったお陰で、一気に勢力を広げていく。
◇
その後の温暖化で、6000万年ほど経った約700万年前。
一匹のサルが木の上から地上に降りて二本脚で立った。
それを見ていた仲間のサルが「おいおい、われ、何にしてんねん?」
「立ってねん!」
「そんなんしたら親に怒られるで!」
「かまうかい! 少し背が高くなっただけで眺めがええがな」
「ほんで、立って、どないするねん?」
「歩くのやないかい! ほれよいよい。手(前脚)が自由に使えるやないかい。おまえもやってみ!」
それを見ていた積極的なサルたちも真似をしだす。
現生人類(ホモ・サピエンス)の誕生である。
二足歩行は頭を支えるのに有利なので、どんどん進化する。
しかし、真似をしなかったサルたちは今もサルのままである。
畑の椅子にどっかりと座って、いい気持でライムグリーンを見つめる。
ジャガイモの葉っぱってこんなに鮮やかだったんだ。
地球環境の変化の中で、野菜たちも必死で適応していこうとしている。
タマネギの葉はあんなに長いのに、よくもすっくりと立っているものだ。
ヒトもまた、いつまても八十八夜の別れ霜を守らずに適応、進化していかなければ。
よし、夏野菜の苗を植えてやろう。