『万葉集』にある山上憶良の秋の七草を詠んだ和歌。
「萩の花 尾花葛花 瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなえし) また藤袴 朝顔の花」
さて、この中で食べることが出来るのはどれか?
葛湯・葛餅・葛切りでおなじみの葛。
食べているのは葛の根っこ。細かく砕いて水に晒し、沈殿したデンプンが葛粉。
どこにでもある雑草だが、ツルは「葛布」という布になる。
花は「葛花(かっか)」という二日酔いの漢方薬になる。
根は食用だけでなく「葛根湯」の材料になる。
詩集『道程』の中の高村光太郎の「葛根湯」という詩。
かれこれ今日も午(ひる)といふのに
何処とない家(うち)の中(うち)の暗さは眼さめず
格子戸の鈴(りん)は濡れそぼち
衣紋竹はきのふのままにて
窓の外には雨が降る、あちら向いて雨がふる
すげない心持に絶間もなく---
町ぢゃちらほら出水のうはさ
狸ばやしのやうなもののひびきが
耳の底をそそつて花やかな昔を語る
膝をくづして
だんまりの
銀杏返しが煎(に)る薬
ふるい、悲しい、そこはかとない雨の香(か)に
壁もなげいて息をつく
何か不思議な
何か未練な湯気の立つ
葛根湯の浮かぬ味
「7月7日」という添え書きがある。梅雨末期で「出水(=洪水)」するほど雨が続いたのだろう。
おまけに風邪ひき。
「膝をくづして/だんまりの/銀杏返し」の「銀杏返し」は女性の日本髪。
一年後に妻になる千恵子さん。ケンカでもしたのだろうか。
※下の絵は『諸国物産絵図・吉野の葛根堀り』(国立国会図書館デジタルコレクション)