今でこそ無作為抽出という手法が浸透して世論調査の精度は格段に高まった。
などと書くと、
「おいおい待ってくれ。アメリカ大統領選@2016で大番狂わせが起こったばかりではないか。
世論調査はあまりあてにならないのではないか」
といった正鵠を射た意見が飛んできてしまう。
まさにその通りなのだ(笑)。
だが、
まさにそのアメリカ大統領選において、
80年も前にトランプ勝利をはるかに上回るジャイアントキリングが起こった。
1936年アメリカの大統領選は現職の大統領ルーズベルトに共和党候補が挑むこととなった。
1936年と言えばルーズベルト大統領がニューディール政策という鳴り物入りの大規模公共事業政策を実行にうつし、景気浮揚に邁進していた。だがその効果は未だ限定的といった案配である。
そんな中で行われる大統領選において、下馬評は「ルーズベルト落選」「共和党新大統領誕生」予想が支配的だった。
わけても当時名の通った政治雑誌であったリテラシー・ジャーナルの世論調査は圧巻だった。
なんとリテラシー・ジャーナルはアメリカ市民「300万人」を対象に聞き取り調査を行い、ルーズベルト大惨敗を予想したのだ。
当時アメリカの有権者数は5000万人前後であるから、全有権者数の1/20に直接当たった計算になる。
ネットなどあるはずもない時代であるから、途方もない人的資源を動員してリテラシーは世論調査を行ったことになる。
ところがところが、リテラシー・ジャーナルはものの見事に予想を外した。
大統領選の蓋を開けてみれば、現職候補ルーズベルトがなんなく快勝したのだった。
なぜか?
リテラシー大失態のポイントは「サンプルの選び方」にあった。
リテラシーは自動車購読者や住宅所有者のリストを片っ端から当たり虱潰しに調査をかけていたのだ。
これを裏返せば、自動車や住宅を持たない貧困層の民意は全く反映されないということになる。
このご時世のアメリカは失業率が3割にも達し貧困層の割合が5割を超えていた。
これは後知恵だからわかる訳だが、貧困層はルーズベルトのニューディール政策に大きな期待と支持を寄せていたのだ。
そんな状況下で貧困層を無視して中間層以上限定で世論調査を行えばどうなるだろうか。
当然精度は低くなり、予想を外す確率が高くなる。
リテラシー・ジャーナルはこれを見事にトレースしてしまったのだ。
しかしながらリテラシーにも擁護の余地はある。
その当時有権者の個人情報を集める手段は自動車購買者リストか住宅所有者リストのどちらかに限られていた。
つまり大々的な世論調査を行うためのリストがほかに存在しなかったのだ。
このリテラシー・ジャーナル大失態の裏で、ギャラップというそれまで鳴かず飛ばずだった政治雑誌が台頭した。
ギャラップはルーズベルト再選を同調圧力に負けずものの見事に言い当てていたのだ。
しかも2000人という極めて少ないサンプルによる世論調査であるにもかかわらずだ。
1936年アメリカ大統領選世論調査において、
数にものを言わせたリテラシージャーナルの蹉跌。
少数に絞ったギャラップの雄飛。
ここから正確な世論調査のためには、
「分母数の大きさ」ではなく「なんらかの偏りがない調査、つまり無作為抽出こそが勘所だ」という機運が強くなり始めた。
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