インターネットにさまざまな情報が溢れ、大きな混乱が起きているようだ。
福島第一原子力発電所の事故による放射線漏れにかんして、「ヨウ素剤が効く。ヨウ素剤がなければ、ヨウ素が入っているうがい薬を飲めばいい。ヨウ素が多く含まれる昆布や海苔を食べるのもいい」などの説が氾濫している。
ラジオで、チェルノブイリの事故の時に現地支援した医師が、「避難所のおにぎりに海苔を巻いてあげるだけで、子供への放射能被爆被害が軽減される」という趣旨を発言したそうで、生態学関係者のメーリングリストでも「TVに映るおにぎりに海苔が巻かれているか、注目しているところです。もし、避難関係に近い方がこれを読んでおられたら、ぜひ、担当の方にもお伝えしてみてください」という情報が流れている。
とんでもない話だと私は思う。
たしかに、事故で放射性ヨウ素が大量に空中に拡散し体の中に取り込んでしまう恐れがある場合、医師の指示に従ってヨウ素剤を予防的に飲むことに意味はある。放射性ヨウ素は甲状腺に蓄積し甲状腺がんなどのリスクを上げるため、あらかじめ放射線を発しない安定ヨウ素剤を服用し甲状腺に満たしておいて、放射性ヨウ素を取り込む量をできるだけ抑えるのだ。
だがまず、現在は放射性ヨウ素が大量拡散している、という状況にはないし、そうした事態を招かないように関係者の懸命の努力が続いている。それに、安定ヨウ素剤の効果があるのは放射性ヨウ素に対してのみで、ほかの放射性物質には効かない。さらに、40歳以上については、放射性ヨウ素による甲状腺がん等の発生確率が増加しないため、安定ヨウ素剤を服用する必要はない、逆に言うと40歳以上は安定ヨウ素剤を飲んでも意味はない、とされている。
ヨウ素剤を服用する場合も、放射性ヨウ素を体に取り込んでしまう直前、または直後に新生児で12.5mg、13歳以上40歳未満で100mgを1回に摂取するとされている。一方、食品中のヨウ素含有量はそれぞれ100gあたり、「あまのり焼きのり」2.1mg、「まこんぶ素干し」240mg、「カットわかめ」8.5mg(食品成分データベースより)。昆布や海苔などを1度に100gも食べるのは不可能であり、消化吸収に時間もかかり効果を期待できない。
安定ヨウ素剤摂取の意味、食品からの摂取の問題点等については、原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会の「原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について」でも説明されている。
国や県が万一に備えて安定ヨウ素剤を備えることに意味はある。しかし、おにぎりに海苔を巻いても食べても摂取できる量はごくわずかでしかない。「おにぎりに海苔を巻くだけで、子供への放射能被爆被害が軽減される」という言い方を完全否定はできないが、その効果は限りなくゼロに近い。
なのに、避難所で懸命に炊き出しをしている人たちが「おにぎりに海苔を巻けない。子どもたちを救えない」などと思ってしまったら、これほど不幸なことはない。海苔を探して回り、貴重なガソリンを消費したり体力を消耗したり、というような事態もあってはならない。
ヨウ素摂取は、過剰摂取を引き起こしやすい元素でもある。実際に、昆布の摂り過ぎによる不調や健康食品、サプリメントによる健康被害も報告されている。現在、ネット上では健康食品販売会社が「放射能を抑えるサプリ」などと宣伝しているが、惑わされるべきではない。
うがい薬については、説明する必要もないだろう。ヨウ素の含有量は少なく、飲んだ場合の安全性など確認されていない。独立行政法人放射線医学総合研究所が「ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません -インターネット等に流れている根拠のない情報に注意-」を出している。
なぜ、多くの人たちが無責任に情報を流してしまうのだろう。「一歩立ち止まってゆっくり考えること、調べること」を肝に銘じたい、と改めて思う。巨大地震と大津波で多くの人たちの命が奪われ、何十万人もの人々が避難生活を余儀なくされている。原子力発電所の事故が、社会を大きく揺るがしている。身を切られるような辛さを感じるが、でも、私は生きている。私にできることを粛々と実行するしかない。
実効線量係数の情報ありがとうございます。
いただいた情報だけでは算出できませんので、“人間の一日あたりの呼吸気量”等を調べて私なりに計算いたしました。結果、松永さんが仰っている通り“3/15の東京での一日被曝量がWHOが考える若年層へのヨウ素剤投与判断基準の約1/10に至らない”ことが判りました。
この点、納得いたしました。
ありがとうございます。
N/A様へ
> 希釈拡散に関し出来ないのであれば、貴殿こそ
> Shall口調でコメントをされるのは論理的では
> ないかと存じます。
“確たる情報を持たずに断定するべきではない”という普通のことを書いたのです。
これは、私が希釈拡散の計算ができない(或いは、やっていない)こととは関係がありませんし、“すべきでない”とか“してはいけない”という表現(Shall口調って言うんでしょうか?)でしか表せないことです。
希釈率についての言及は、私の非科学的感覚に基づいたものでしかありません。主観でしかありませんから、わざわざ“私には希釈拡散の計算はできませんが”と書いた訳ですし、“とは思えません”と書き、断定をしませんでした。
私は、自分が論理的に考えた結果が松永さんの主張となじまないと判断したので、根拠を示した上で、最初の発言をいたしました。
その上で、「私の計算や考えに間違いがあれば、根拠を示して御指摘下さい」と書いた訳です。
これに対して松永さんからは“内部被ばくに関する実効線量係数”が示され、「計算すればわかるはず」と返信がありました。
その後がこの投稿です。
至極まっとうなやり取りをしているつもりですが、何か問題があるでしょうか?
それはともかく、N/A様は希釈拡散を理解されている(或いは理解できる)ようですので、計算される希釈率範囲を示していただけないでしょうか? 私には仮定条件もまともに置けませんし、難しくて計算できません。
(できない人は発言しないように、などとは仰らないで下さい。)
既に、希釈拡散に関して、論文等も発表されておりますので、下記法医研のURLより、データベース化されておりますので、検索し、熟読された方がよろしいかと存じます。
http://www.nirs.go.jp/search/?q=%25E5%25B8%258C%25E9%2587%2588%25E6%258B%25A1%25E6%2595%25A3
http://remnet.webcdn.stream.ne.jp/www09/remnet/lecture/b05_01/4_1.html
計算していただけると、「WHOが考える若年層へのヨウ素剤投与判断基準の約1/10」ということにはならないことをご理解いただけると思うのですが。
この点、同感ですが、それとは別に。
> 現在は放射性ヨウ素が大量拡散している、
> という状況にはないし、
とありますが、そうなのでしょうか?
> 避難所で懸命に炊き出しをしている人たちが
と書かれていますので、少なくとも現地周辺も念頭においた発言と判断いたします。
現地周辺を含め、放射性ヨウ素レベルが充分に低いことを知らせる確たる情報をお持ちでなければ、この様な発言をするべきではありません。
お持ちなのですか? 私から見れば、ほとんど誰も発表していないだけです。情報が無いだけです。
下記の情報は東京都区部での貴重な測定結果です。
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/whats-new/keisoku-0315.pdf
15日はこれまでの中で特別な高値を記録した日ですが、この日一日分で、WHOが考える若年層へのヨウ素剤投与判断基準の約1/10に相当するものです。
私の算出根拠は以下の2点です。
・WHOの若年者向け投与判断基準は“10 mSv≒420 Bq/m^3の環境に24時間暴露相当”
・上記データによる3月15日の24時間平均値は42 Bq/m^3
私には希釈拡散の計算はできませんが、東京での実測値から考え、15日の朝、現地が2-3倍の濃度だったとは思えません。
これは今後のことではなく、既に起きた出来事です。
いかがお考えでしょうか?
私の計算や考えに間違いがあれば、根拠を示して御指摘下さい。
<参考>
http://www.nsc.go.jp/bousai/page3/houkoku02.pdf
http://www.nuketext.org/manual.html
Jeconetのメーリングリストは私も見ています。
下記はkappaさま宛てです。おにぎりに海苔をとおっしゃって
いた方は、下記のメールを送られています。
この時期に何を論争しているのかとも思いましたが、
争いにはならず、見ていた私は結果とても勉強になりました。
ありがとうございました。
-----------------------------------------
安定ヨウソ剤 は 、十分な量が備蓄されていました。
すでに、三春町では予防服用のために15日に配布された、という記事も見つかりました。
避難所の子供にも、すでに予防服用が済んでいるか、その準備は整っているようです。
おにぎりの海苔は、やはり、お楽しみにということのようです。
おさわがせのきっかけをつくった点、改めて、もうしわけありません。
最悪の場合、すなわち大量に被爆している状況下において避難所に行くまで時間がかかる、または避難所に行ってもヨウ素剤がないといった時に、そこにイソジンがある。その場合ただ子どもが不能になるのを見て過ごすよりも、イソジン中毒になるのを受容しても飲ませたほうが被爆を防ぐことができるのか。リスク管理の観点から議論が必要なのではないでしょうか。
“被爆”のくだりは、メーリングリストに流された情報をそのままコピーしましたので、間違っていますが、そのままにしています。
なお、当該メーリングリストでは現在、私のブログが紹介され、原子力安全委員会の資料も紹介され、科学者の情報発信についての建設的な議論が交わされています。
昨晩テレビで池上彰さんが説明していました。
被爆ではなく、被曝。
上のコメント欄の鎌田實氏は、すでに訂正し、記述を削除しています。
http://kamata-minoru.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/25-9310.html
「このブログで、放射性ヨウ素を体内から排出するための方法として、ヨウ素剤の服用や、ヨウ素のうがい剤の代用、ワカメ・昆布などの食品からヨウ素を摂取することについて言及しましたが、これらの記述は削除いたしました。
混乱を与えたことをおわびし、訂正いたします。」