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松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

毎日新聞福井版のびっくり対談

2009-05-07 11:35:02 | Weblog
 毎日新聞の福井版に、ものすごい対談を発見!

「太鼓持あらいのほやほや対談」26日スタート、毎月最終日曜日 /福井 

 第1回目がこれ。有機農家のインタビューだ。

 「食の安全・安心を脅かす事件や出来事が後を絶たない。化学物質の過剰摂取が原因とみられる疾患も増え続けている。こうした状況の下、注目されているのが、化学肥料を使わず自然との調和を基本にした有機農業だ」という書き出しで始まる。

 化学物質の過剰摂取が原因とみられる疾患も増え続けているって、うーん、根拠はなんだ? 有機質肥料も堆肥も土壌微生物が分解すると、化学肥料と同じ「化学物質」になっちゃうんだけど…。
 で、一番笑ったのが、この問答。

 「安全、安心」はお座敷遊びにも共通しています。安全でないと人は笑いません。作物も横で笑ってやるとよく育つのでは。

 よく育ちます(笑い)。作物の成長過程は人間の成長とよく似ています。どちらも細胞分裂をして育ちますが、作物は2、3日でどんどん姿を変え、上手に栄養を与えると本当によく育ちます。そして作物も子孫を残そうとする生命力が強い。人間も作物も炭水化物でできていますが、一緒なんですね。
 
 うーん、言うべき言葉が見つからない。この問答の後も、月の引力の話とか、楽しめます。
 太鼓持あらいさんと有機農家がなにを語ろうと結構ですが、こういうのを紙面に載せる毎日新聞って……。

津村ゆかりさんの「図解入門 よくわかる最新分析化学 基本と仕組み」はお勧め

2009-05-06 13:58:24 | Weblog
 ○○社の△△が残留基準を超えていることが分かり、○○社が回収を始めたーー。この手の情報が流れてくると、昔はすぐに、健康影響が出るほどの摂取量かどうかなど、検討を始めていた。
 今はちょっと違う。まず、検出したという数字が正しいかどうか検討するための周辺情報を集める。それは、何度か痛い目に遭っているからだ。

 「○○社は悪いヤツ」という前提で取材していくうちにだんだんと、「どうもおかしい。この分析値、怪しくない?」という心証が深まっていく。どの検査機関が分析したか、どんな方法を用いたか、チャートはどんなものだったか、詳しく情報を集めていくと、「うーん、この分析では、何も言えない。○○社が悪いかどうかなんて、何も分からない。しかも、試料がもうないから、分析が正しかったのかどうか、確認のしようがない」という結論になる。「○○社は悪いヤツ」という思い込みに満ちたそれまでの取材は、水の泡である。

 伊藤ハムのシアン問題が起きたとき、発覚直後に会った同社関係者にまず尋ねたことは、「その分析値は正しいのか?」だった。後から振り返ると、私の最初の疑問は間違っていなかった。

 分析をして正しいデータを出すのは、実はものすごく難しいことなのだ。ところが、世間はそんなことを知りもしない。体重計に乗って数字が出てくるように分析値が出てくると錯覚している人が大勢いる。そして、ひとたび数字が公表されると、その数字が本当はどれほど怪しくても、正しいものとして独り歩きしてしまう。

 まあ、素人ならば体重計の数字という勘違いも許されるのかもしれない。しかし、食品関係の仕事をしている人の中にもそんな感覚の人がいて、品質保証部などに大きな迷惑をかけている。間違った政策や経営戦略にもつながっている。
 企業の無駄、社会の支障にならないように、食のプロらしく少しは勉強してもらいたいものだなあ、などと思っていたのだが、うってつけの本が出た。津村ゆかりさんの「図解入門 よくわかる最新分析化学 基本と仕組み」(秀和システム)である。

津村ゆかりさんのブログ「技術系サラリーマンの交差点」
秀和システムの本の紹介ページ
 


 私が分析に関する情報をネットで収集するようになってもっとも役に立ったのが、津村さんの分析化学のページだった。2003年か04年だったと思う。
 分析をよく知らない人も包括的に理解できるように、実に分かりやすく解説されていた。残留農薬分析や試験技能評価の考え方など、いろいろなことを勉強させていただき、それがポジティブリスト制に関する原稿を書くときなどに随分と役立った。
 私はすっかり津村さんのファンになり、一度お目に掛かりたいものだと思っているのだが、なかなか機会がなくまだ会えずにいる。

 それはさておき、今回の本も、やっぱり分かりやすい。平易な文章で図やイラストも駆使して、1項目2ページで簡潔に解説してある。それに楽しい。独特のユーモアがあるのだ。
 でも、その項目は、単位や機器の原理の説明、「不確かさ」の定義や品質保証の枠組みの解説、廃棄物の処理、コンタミネーション(汚染)の避け方まで、実に幅広い。有効数字と数値のまるめ方など、「ほう」と思う人が多いだろう。私も大学や大学院でHPLCや原子吸光光度計を使っていたけれど、知らなかったことが山ほどあって、読んでいくうちに恥ずかしくなった。

 単に細かく解説されているだけではなく、分析の理念や価値、分析者の責任まで考えさせるような内容になっている。こうした初心者向けの図解本は軽く見られがちなのだが、これはよく考えて文章が練られ章立てが作られている。とてもいい本になっている、と私は思う。

 分析の初学者はもちろん、検査データに関わる仕事をしなければならない人に読んでもらいたい。例えば、生協や企業で品質保証の事務仕事をしなければならない人、企画や広報担当者などである。分析には直接は関わらず、でもデータと無縁ではいられない人にこそ読んでもらって、データの意味を考えながら仕事をしてほしい。

 とりあえずは、興味のあるところを拾い読み、でよいのだ。ざっと目を通した後は棚に置いておいて、その後の仕事の中でちょっとひっかかることがあった時に、さっと広げる、という使い方が良い。例えば、「この数値の誤差は…」と聞いた時に、その項目を探してみる。そうすると、分析化学における誤差には二通りあって、きちんと区別して考えなければならないことが分かってくる。
 そういうことの積み重ねが、数字に振り回されるのではなく、検査データを活かした主体的な仕事につながっていくのではないか。
 とりあえず、私はそうやってフル活用して、数値ときちんと向き合い判断して原稿を書いていこうと思う。津村さん、ありがとう。

(追加)
 6月1日に、「津村さんの誠実」を書きましたので、こちらも読んでください

シンジェンタCEOの、遺伝子組み換え小麦についての発言

2009-02-27 19:43:49 | Weblog
  米農務省(USDA)恒例の「アウトルックフォーラム2009」が26、27日の予定が開催されている。
 このプログラムに登場するシンジェンタCEOのマイケル・マック氏が、ロイターの26日付インタビューで遺伝子組み換え小麦について触れているので、紹介しておきたい。

 マック氏は、「遺伝子組み換え小麦については、積極的な開発を行っていない。消費者の抵抗が大きいからだ」と言っている。しかし、「将来はトウモロコシやダイズと同じように受け入れられると確信している。10年の間には、組み換え小麦の利点に気づき始めるだろう」と付け加えている。

 詳細は、記事をご覧いただきたいが、このあたりが、アメリカの雰囲気なのだろう。研究は行われている。生産者団体も生産者にアンケートを行うなど、関心が高まっている。しかし、民間企業が積極的に商用化を目指して詰めの研究、作業をするほどでは、まだない、という状況だ。
 ロイターは記事中で、世界的に見ても組み換え小麦がないことを伝え、トウモロコシやダイズは主に飼料として使われており、食用である小麦には依然として市民や消費者団体の抵抗が根強いと説明している。マック氏の言葉から、スイスに本社のあるシンジェンタが、冷徹にアメリカの消費者の動向を見つめていることが伺える。

 もう一つ、マック氏がインタビューで非常にいいことを言っているので、触れておきたい。「穀物が高騰し食糧危機が来るのだから、遺伝子組み換えを推進すべきだ」という論調に釘を刺し、規制のフレームワークを変えてはいけないと主張しているのだ。
 遺伝子組み換えは安全なテクノロジーであり、数多くある品種改良技術の一つであって特効薬ではないのだから、科学的に適正に評価され認められるべきだ、というのが彼の持論だ。
 
 マック氏の言葉は、ある意味では、遺伝子組み換え推進に水をかけるとも見える。でも、研究開発を着実に行いトウモロコシなどでよい組み換え品種をたくさん出している大企業のトップとして、堂々と発言している。さすが、と思う。
 
 日本でも、「食糧が足りなくなるというのに、遺伝子組み換えを認めないなんて、とんでもない」という論法が推進派から聞こえてくる。だが、エモーショナルな推進策は、非科学的な反対論と同じで、長続きしない。そのことを、日本の推進派は分かっていないのではないか、と思うことがしばしばある。「ヒステリックな反対派」を批判する推進派が、同じくらい感情的になっているのだ。
 やっぱり、地道にその時点での科学的知見を基に、功罪をきちんと評価していく姿勢が必要だ。私も、ばかげた反対派に引きずられて感情的になることがある。自戒せねば……。

遺伝子組換え作物の作付面積が、昨年も増加

2009-02-16 01:27:32 | Weblog
 先日、飼料米を利用している畜産農家の講演を聞いて驚いた。いわく、遺伝子組換え小麦が開発されず、トウモロコシやダイズに組み換え技術が利用されているのは、米国人にとって小麦が主食でトウモロコシやダイズは飼料だからだ。そのトウモロコシやダイズを輸入している日本はつまり、米国にとって家畜並みだということ。こんなひどい話はない。だから、飼料を米国に依存せず国産化を目指さなければならないーー。

 飼料の国産化を目指すのは私も賛成だけれど、生協やGM反対派の市民団体などに古い情報を吹き込まれて、こんな「恨み」に基づいて張り切るのも、なんだかなあ、と思う。
 米モンサントが、遺伝子組換え(GM)小麦の開発に躊躇したのは事実だし、消費者が受容してくれるかどうかを懸念してのことだったと私も思うけれど、それはかなり昔の話。モンサントの動きは目立たないし、GM小麦の商用化はまだだが、ほかの多くの研究機関で開発が進んでおり、米国でもこれまでに400件以上の圃場試験が行われている。オーストラリアも、干ばつ耐性小麦の開発に意欲まんまんに見える。
 それに、米国人はGMトウモロコシで作られたチップスやコーンブレッドも食べている。

 日本の農家が、古い偏った情報で動いてしまう要因の一つは、やっぱり報道のゆがみだろう。
 以下も、その例の一つ。世界のGMの栽培状況などを毎年調べている非営利団体、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が2008年の調査結果を調べて11日に発表したのだが、日本のマスメディアで取り上げたところはないようだ。ほかの国のメディアはちゃんと取り上げているのに…。
 
 ISAAAによれば、2008年の世界の作付面積は1億2500万ha。07年に比べて1070万ha増加。作付した国の数も増えて25カ国になった。
 ISAAAのウェブサイトで資料が読めるし、バイテク情報普及会が、日本語に翻訳したものを既にウェブサイトにアップしている。
 
 というわけで、情報はある程度は自分で収集しましょうね。古い情報やバイアスのかかった情報に振り回されて、事業に暗雲が……。なんてことのないように。
 例えば、英国の首相や環境大臣は昨年相次いで、「組換え作物は食料生産性を高め、価格抑制に重要な役割を果たす」などと推進姿勢を明確にした。また、「インドの農家がGMワタを栽培したために自殺に追い込まれている」という話も、否定されている。(BBCのこういう記事やNew Scientistのこんな記事参照)
 でも、日本では、日経BPのFood Scienceを除き、ほとんど報道されていない。したがって、識者と呼ばれる人たちの中にも、「インドでは~」なんて口走ってしまう人たちが未だにいるのだ。
 

有機農家の久松達央さん

2009-02-12 01:25:21 | Weblog
 月刊誌「栄養と料理」で連載中の『飽食ニッポン 「食」の安全をよみとく』。3月号では「有機農業ってよいことばかり?」と題して、有機農産物の安全性や環境影響について取り上げている。
 きっと面白いと思うので、ぜひ読んでいただきたい。多くの人たちが持っている有機農家のイメージを突き崩すに違いない、茨城の久松達央さんの話を中心に紹介している。

 久松さんは「有機農産物が安全だなんて言えない。慣行農産物の残留農薬なんてマイナーな問題」と言い切っている。久松さんが目指すのは、健康でおいしい野菜作りだ。
 そして、儲かる手段としての「有機農業」をどうビジネス展開していくか、という視点をちゃんと持っている。これからの有機農家は、こうでなくっちゃ。

 私は久松さん同様、有機農産物が安全だなんて思っていない。そして、久松さんは「生物多様性を守れる」というけれど、「そこになんの意味がある?」と思わないでもない。
 だって、農業はある意味、ものすごく人工的なもの。今ある作物は、長い歴史をかけて人が改変してきたもので、それだけを地面に植えてまとめて栽培するというのは、とても不自然な行為だ。
 その中で「生物多様性を守る」というのがなにを意味するのか、生物多様性を守ることとトレードオフで生じる「収量が低い、生産コストが高い」という現象をどう考えたらよいのか? 

 疑問は多い。ただ、久松さんとは議論できる。意見を聞き、「そこ、違うんじゃないの?」と述べることができる。当然、久松さんからも反論が返ってくる。
 宗教、思想としての有機農業ではなく、ちゃんと科学的な裏付けをもった有機農業を進めていこうと努力している久松さんからは、教えられることがたくさんある。

 ちなみに、久松さんの野菜、やっぱりおいしい。それに、宅配セットに入れる品目や包装の仕方など、とても細かく気を配ってある。作るプロ、というだけでなく、売るプロでもあるのだ。
 就農して10年目。進化し続けるその姿、尊敬します。

 久松さんのblog「畑からの風だより」。野菜セットの申し込みもできます。

伊藤ハムと不二家の違い

2009-01-17 15:47:46 | Weblog
 実は、引き続き伊藤ハムのシアン問題の取材をしている。社内の事情を聞いて見えてきたことは、同社が今回の問題を企業の教訓として活かせていないのではないか、ということだ。東京工場の過失、一部の社員の判断ミスに問題を矮小化しようとしているように見える。背景には同族経営の問題点や、科学技術に裏打ちされたリスク管理体制に移行し切れていない企業体質があると私は思うのだが…。

 細かいことを挙げればきりがないし、原稿に仕立てても伊藤ハムという名門企業の「ヘンなところ」をのぞき見するという週刊誌的興味は満たせても、ほかの企業の人たちにとって役には立たない。なので、書かない。気になったことは、同社の関係者に直接話すつもりだ。
 ただ一つ、象徴的な事実、ほかの食品企業にとっても意味があるであろう事実を、この場で記しておきたい。

 それは、伊藤ハムの調査対策委員会の位置づけである。私には到底、納得の行かないものだった。委員たちは、地下水の浄化処理などを担当していた当事者である社員から、直接事情を聞き取りできなかったのだ。
 担当者から事情を聞いたのは社員。社員が事情を聞いてまとめ、それを調査対策委員会に報告して検討する、という形をとった。だからだと思うが、追及が甘い。極めて重要な事実、検査時だけ次亜塩素酸ナトリウムの添加量を減らしていたという事実が、中間報告が出た後で明るみに出て、最終報告書で報告内容が大きく変わっていたりする。中間報告で書いた内容の一部を最終報告書で否定する、というような迷走が、ほかにもあった。
 結局、非常に物足りない最終報告書になった。

 私は、最終報告書が出た後、委員会で唯一の水の専門家であった伊与亨・北里大学医療衛生学部講師に話を聞いた。伊与先生は一個人として、最初からもっと積極的に伊藤ハムの調査や再現試験に参画すべきだった、と深く悔やんでおられた。
 だが、私の見るところ、これはなかなか難しい。企業がこの手の第三者委員会を設置して社内調査をすることなど滅多にない。委員にとって、調査は初めてである。最初から、ここは口出しすべきだ、などと意識して振る舞える人はいない。
 やはり、企業の姿勢が、調査結果の質を決めてしまう。

 伊与先生は、大学で追加試験を行い学術論文にまとめたいと考え、検討中だという。それが、科学者としての責任のとり方だ、と考えているのだろう。

 伊藤ハムは、と言えば、とにかく早く委員会に最終報告書を出させて結着をつけたかったに違いない。幹部の記者会見の内容や広報担当者の対応などの端々に、その気持ちが伺えた。有り体に言えば、調査の科学的な内容などどうでもいい、という感じに見えた。
  ふと思いついて、洋菓子メーカー「不二家」の不祥事の後に同社が設置した「信頼回復対策会議」のメンバーに連絡をとってみた。同社では2007年1月、期限切れ原材料の使用などが明るみに出て、第三者の専門家を集めた同会議を設置し、原因究明や再発防止の検討などを行った。委員長が弁護士の郷原信郎さんで、TBSの報道の問題点など指摘したことが印象深い。
 その会議の調査はどのようなものだったのか? 委員の一人であった森田満樹さんに尋ねたところ、次のようなメールをいただいた。

……森田 満樹さんのお返事…………………………

 不二家では問題を起こした職員の聞き取りはもちろん、問題となった期限切れ牛乳の供給元の乳業メーカー担当者の聞き取りも、私が望めば、自由にできました。食品衛生上の問題は、直接工場に出向いて、担当者や非常勤職員も含めて一人一人呼んで、聞き取りをしました。報告書作成前の2月、3月には、工場に自由に出入りさせてもらい、検査室の記録等も見せてもらいましたので、ずいぶんといろいろなことがわかりました。やはり第三者を通してだとフィルターがかかりますので。
 法律家のチームは新聞社に内部告発をした職員が誰だったのか、犯人探しに熱心な委員もいましたが、それについての聞き取りも自由でした(結局犯人は本当にわかりませんでしたが)。前社長も副社長も委員が直接連絡をとって、弁護士事務所に呼び出して、コメントをとっていました。その結果、問題の根っこがどこにあるのかが明らかになりましたが、報告書の内容は不二家にとってはずいぶんとしんどいものだったと思います。
 しかし第三者委員会は、そのくらいの権限を持たせてもらえないと、どこに問題があるのかわかりません。

……………………………………………………………

 同じように、第三者委員会を設置しても、企業によってこれだけ違う。同族経営だった不二家は結局、山崎製パンの子会社になった。そこまで変わらざるを得なかった。
 別に、同族企業がだめだ、などと言うつもりはない。しかし、伊藤ハムは今回、食品企業としてリスク管理がきちんとできて、社員が闊達に意見を出し合い一緒に向上する風通しのよい企業に生まれ変わるよいチャンスを、逸しつつあるのではないか。

今年もよろしくお願いいたします

2009-01-05 16:42:42 | Weblog
 とうとう、2009年になり仕事始めとなってしまった。
 実は2008年は絶不調。原稿が書けず、本の締め切りを何度も延ばしてもらい、とうとう年末締め切りに。だが、相変わらず書けない。大掃除もおせち料理もすっ飛ばし、ずっと原稿を書いていたが、まだ終わらない。
 編集者の佐藤さん、ごめんなさい。あと少しです。

 原稿が書けない、というのはなんとも恥ずかしい。私は創造的な仕事をする作家、ではなくて、取材して論文を読んできちんと読み手に伝えてゆく職人さんなのだ。職人には「できない」という甘えは許されない。引き受けた仕事は、期日にしっかり仕上げないと、次の仕事は来ない。
 頭では分かっていても、できないこの辛さ。しかも、原稿に気をとられて、メールですぐに出すべきお返事などが後回し。本当に恥ずかしいです。

 今年は心機一転、頑張ろうっと。夫と娘には「年が替わったからといって、急に仕事がスルスル進むようになるわけない!」と笑われてしまったけれど。家庭を持って初めて、黒豆を煮なかったお正月。文句一つ言わず、ニコニコ過ごしてくれた2人に感謝、です。

 ともあれ皆様、今年もよろしくお願いいたします。

伊藤ハムのシアン問題4~これほど悪質だったとは

2008-12-26 12:23:07 | Weblog
 伊藤ハムの調査対策委員会が25日、最終報告書を公表した。詳細は、ウェブサイトにある報告書をお読みいただきたいが、私は正直に言って驚いた。極めて悪質なことが行われていた。

 調査委員会は中間報告で、シアンが基準を超過した原因として、原水汚染が原因ではなく塩素処理過程で次亜塩素酸ナトリウムの注入量が足りなかった可能性を指摘した。これについては、12月5日付の伊藤ハムのシアン問題2~やっぱり塩素処理不十分が原因?をお読みいただきたい。

 今回の最終報告書ではさらに、公定法に問題があった可能性を明らかにした。公定法では、試薬として酒石酸緩衝液を添加することになっている。だが添加して長時間放置することで、酒石酸緩衝液由来の有機物と結合塩素が反応し、シアン化物イオン及び塩化シアンが生成する反応が起きている可能性があるという。検査機関は、酒石酸緩衝液をサンプルが到着した時に添加していた。値が測定された時にはかなりの時間がたっていたと推測される。

 調査対策委員会は、酒石酸の添加の有無や放置時間の変更など、条件をいくつも変えて測定した再現試験の結果を解析した。そして、原水由来の有機物の影響と酒石酸由来の有機物の影響の両方に、基準超過の原因があると判断した。酒石酸添加後の正確な放置時間などが不明なため、どちらの影響の割合の方が大きかったかについては分からないという。

 このブログのコメント欄で、「委員会が公定法の問題を隠蔽している」などと書き込んでいる人がいるが、最終報告書では、再現試験のデータに基づいて公定法の問題点が明確に指摘されていることを、あえて付け加えておきたい。

 さて、今回明らかになった衝撃の事実は、次亜塩素酸ナトリウムの注入量に関するものだった。中間報告段階では、「塩素酸の基準超過を心配するあまり、次亜塩素酸ナトリウムの注入量を絞っていた」と報告され、調査対策委員会は「恒常的に注入量を抑えていた」と受け止めていた。ところが、さらに詳しく調べたところ、伊藤ハムの担当課が9月以降、定期的な水質検査日には、塩素酸の上昇を抑えるために従来の半分程度の次亜塩素酸ナトリウムしか注入していなかったことが分かったという。特に、2号井戸では、採水当日の9時から11時までの2時間のみ、減らしていた。

 塩素酸は、今年度から基準値(0.6mg/L)が設けられ、同社は2月から処理水の塩素酸を測定し始めた。ところが、6~9月に三つの井戸で計6回、基準を超過したという。だから、検査の時だけ次亜塩素酸ナトリウムの注入量を減らす“操作”をしたのだ。
 結局のところ担当課は、塩素酸が基準を超えた水を食品製造に使うこと自体はまったく問題視していなかった。ひたすら、「検査結果が基準を超えるのはまずいから、その時だけ注入量を減らしてとりつくろう」という態度だったのだ。これでは、何のための検査か分からない。

 しかも驚くべきことに、担当課は注入する次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度と塩素酸濃度を日常的に把握しておらず、いわばどんぶり勘定、勘で注入量を決めていた。
 その結果、塩素添加量が減り、知らず知らずのうちにシアンを生成しやすい条件を作り出してしまい、そのうえに検査段階での酒石酸添加と放置が重なって基準超過をした、というのが調査対策委員会の「見立て」である。

 担当課は、6~9月に塩素酸の基準超過が起きた時も、保健所に相談することなく課内でうやむやに処理し、基準超過の水の使用をストップしなかった。その挙げ句が、都合の良い検査データ作りだ。これほど悪質なことを、組織として自ら見つけ改善する仕組みが、伊藤ハムにはなかった。
 同社は22日、担当者や幹部の処分を発表しているが、その時には、この悪質さを公表していない。25日の記者会見でも、幹部からは担当者をかばうような言葉が出た。また、今でも「調査対策委員会により、製品に使う水の安全性が確認されました」というCMをウェブサイトで流し続けている。(このCMの問題点は、12月13日付伊藤ハムのシアン問題4~CMに対する違和感で指摘しているので、お読みいただきたい)
 同社の一連の姿勢に怒りを感じる私は、感情的だろうか? これまでの体質が変わっていないのでは、と疑うのは私だけだろうか?

 東京工場は現在、水質常時監視体制システムを整えている。調査対策委員会の最終報告書は、この監視システムについて、こう書いている。「ただし、そのシステムを運用するのは人間であり、塩素酸の基準値を遵守している結果を出すために、水試料採取の際だけに、塩素注入量を減少させるようなことを実施するのは、検査のための検査となり、本末転倒な作業である。したがって、水質の常時監視の元となる水試料が、通常の運転条件下で得られたものであるかについて、十分に留意する必要がある」。

 調査対策委員会が、今後について釘を刺すこの厳しさが、同社に伝わっているのかどうか、私には疑問に思えた。
 繰り返し書く。都合の良い検査結果を操作によって出すことは、データの捏造と同じだ。伊藤ハムは、そんなことをしながら食品を作り続けていた。私はこれは、社長の進退さえ検討しなければならない非常に深刻な事態だと考える。そして、同社ほどの大企業、名門企業がこうした操作を行っていたという事実は、食品業界全体の信頼を揺るがしかねない。
 興味深いことに、会見に来た記者たちも、この悪質さにそれほど気付いていなかったように私には思えた。私の判断は厳しすぎるのか? 皆さんはどう思われるだろうか。

市民が科学者を見分ける法ー追加

2008-12-23 01:47:47 | Weblog
 市民は、どのようにして科学者を見分けたらよいか? で、次のように書いた。「科学者が同業者である科学者をきちんと批判するとか、市民団体がおかしな科学者の問題点を指摘する、というような動きがもっと活発になってよいのでは。現実には、日本の科学者は同業者を批判してもなんの得にもならないので、しない場合がほとんど……」。ちょっとどぎつい書き方だったかもしれない。金銭的な損得の話と誤解されている部分もあるようなので、ちょっと追加します。

 もちろん、科学者の使命として、同業者批判をきちんとしている人はいる。「食の安全」の分野なら、長村洋一・鈴鹿医療科学大教授、高橋久仁子・群馬大教授。ニセ科学批判は、天羽優子・山形大准教授、田崎晴明・学習院大教授ら。ほかにも、中西準子先生や安井至先生などいらっしゃるし、ネットでは、Natromさん食品安全情報blogの活動が光る。思い浮かぶ人は、ほかにも何人もいる。

 が、彼らが真摯な批判をすればするほど、誹謗中傷も増えるように私には思える。彼らが、その活動に対して向けられる感情的な反発や軋轢への対応に時間をとられている実態もある。中西先生が、京都大学教授から名誉毀損で訴えられ、一審で棄却され判決確定したのが典型例だ。そして、彼らの社会的な役割は極めて大きいにもかかわらず、同業者からの評価は不十分だ。

 問題のある科学者を批判するということはある意味、その科学者に自らかかわるということでもある。「そんなことに時間を費やすよりも、無視し黙殺して、自分の研究を進めて論文をたくさん書く方がはるかにマシ。はるかに有意義」と考える科学者がいる。私は、こちらのタイプの方が数は圧倒的に多い、と思う。

 こういう現象を、「なんの得にもならないので、批判しない場合がほとんど」というふうに書いた。決して、「金にならないから批判しない」という意味ではありません。
 私は、「すべての科学者が社会的な活動をすべきだ。問題のある同業者を批判すべきだ」などとは言わない。だけど、同業者批判も厭わず「科学的に適正なこと」を一般市民に伝えようと努力している科学者たちは、学術界でもっと尊重されるべきだし業績として評価されるべきだし、社会からも尊敬されていい、と思います。

(注:天羽優子准教授を、助教授と書いてしまいました。これはとても恥ずかしい間違いですね。すみません。訂正しました。2008,12,24)

市民は、どのようにして科学者を見分けたらよいか?

2008-12-22 05:51:50 | Weblog
 朝バナナダイエットの話を書いた時に、コメント欄でkさんに質問されて回答し忘れていたことがあった。
 おおまかに言うと、「一般市民はどうやって、まともな科学者とナンチャッテさんを見分けたらいいの?」という質問である。うーん、とても大事なこと。回答を考えてみた。
(学会や論文に関する説明がまったく足りないのは百も承知。皆さん、コメント欄でもっと上手な回答を!)

…………………………………………………………
まずは学者が一般に発表する説についてです。
質問①
たとえば、こういった研究成果(○○は△△の効果があるとか)は、学会の論文で発表されるのが常識なんでしょうか?まず論文ありきなんですか?

A.「○○は△△の効果がある」タイプの研究は、学会や研究会等で大量に発表されますが、論文としてはまとめられないものも多いです。
 発表は事実上、事前審査がないので研究者にとっては楽だし、宣伝効果もあります。新聞やテレビが取り上げてくれる場合も。
 一方、論文は多くの場合、審査のうえで掲載されますし、いくつかの実験をしたうえで結果・考察をまとめなければならないので、書き上げるのは大変です。さらに、発表した論文はその後、第三者による評価・検証の対象になります。

質問②
もしそうだとすると、論文のない研究成果は、まず根拠がないと考えていいんですか?

A.論文として掲載される前に学会で発表する場合も多いですから、そうとは限りません。が、「どこかで発表したっきり、論文は何年も出ていません」というタイプの研究は、もう忘れてよいのではないか、と……。論文発表しないと、科学者の世界では業績として認められないですし。

質問③
しかし、論文がない、つまり学会では認められていない研究が、実は正しい発見だったなんてことにはならないものですか?

A.まず、論文と学会は切り離して考えた方がいいですね。学会はたいてい学会誌を持っていますが、学会とは関係がない学術誌もたくさんあります。また、一人の研究者がいくつもの学会に所属しているのが普通です。
 つまり、一人の研究者から見た場合、論文として発表できる場は結構たくさんあるということ。そのいずれでも相手にされない、ということはどういうことか? 考えてみてください。
 論文を書いていない方が、「反体制派として真実を追究する科学者」として市民団体やマスメディアにもてはやされるケースがありますが、私の見る限り、研究者としての能力が???の人がほとんどです。

それからテレビについての質問です。

質問④
テレビというのは、もう本当にデタラメのオンパレードで、もはや誇張なんてレベルではなく、嘘、捏造だらけと考えていいのでしょうか?
70を100にするどころか、0を100にする、いや、-100を+100にしているようなものなんでしょうか?

A.そんなことはないですよ。まじめに作っている人もいます。テレビ局も制作会社もたくさんあるわけですから、十把一絡げの「テレビというのは」という判断は、しないほうがいいと思います。良質のテレビ番組もある、ひどいものもある、ということ。


学者についての質問です。

質問⑤
テレビに出てくる学者、専門家は、あまり信用のできない人たちが多いと考えていいのですか?
 
A.これも、そんなことはないでしょう。信用できる人もいる、できない人もいる。

質問⑥
そうだとすると、我々はテレビに出てる学者みんなが信じられなくなってしまいますが、中にはちゃんとした人もいると思います。しかし我々には見分けがつかない。我々がその人たちを見分けるにはどうしたらいいでしょうか?
 
A.これは難しい。視聴者よりその学者の方が、語っている事柄についてははるかに詳しいわけですから、見分けるのは容易ではありません。
 私はまずは簡便な手段として、「単純な話は疑おう」がいいのではないか、と思っています。食の製造システムや安全・品質管理はこんなに複雑になっているのに、「こうすれば、ダイエットできる」とか「○○は危険」というような単純明快な話があるわけない! ごくごく常識的な感覚として、そう思うのが大事では?

質問⑦
そして、そんないい加減な学者やメディアに対する何らかの法的な制裁や懲罰はないのでしょうか?テレビで当たり前のようにデタラメな情報が流されているのはおおいに問題があり、どう考えてももっと厳しく取り締まらなくてはいけないと思うのですがどうでしょう?
 
A.なにが正しくて、何がでたらめかを判断するのは、実はとても難しいです。法的な制裁や懲罰は、言論や報道の自由の侵害にも簡単につながる恐れがあるので、私は慎重であっていい、と思います。それよりも、科学者が同業者である科学者をきちんと批判するとか、市民団体がおかしな科学者の問題点を指摘する、というような動きがもっと活発になってよいのでは。
 現実には、日本の科学者は同業者を批判してもなんの得にもならないので、しない場合がほとんど。消費者団体も、ともするとナンチャッテさんと一緒に行動してしまうので……。ただ、最近は「食の信頼向上をめざす会」などが出てきたので、これから少しずつ変わってくるのかもしれませんね。