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松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

ベニズワイガニの悲劇

2009-06-18 02:43:45 | Weblog
 食品安全委員会の委員人事を参議院が不同意した件については、今、調べているところ。おそらく、明日書きます。

………………………………………………………………………………………………

 今日は、日本水産(ニッスイ)の景品表示法違反(優良誤認)の件。「ずわいがにコロッケ」と表示しながら、ズワイガニではなくベニズワイガニを使っていたとして、公正取引委員会が15日、再発防止を求める排除命令を出した。

 毎日新聞は記事で、『ズワイガニは「松葉ガニ」や「越前ガニ」などとも呼ばれる高級品。漁獲量は年間5300トンとベニズワイガニの3割弱ほどで、1キロ当たりの卸売価格は約1995円と、ベニズワイガニ(約253円)の約8倍』と報じた。
 さらに、『ニッスイは「どちらもズワイガニ属に入るので、属を表示すれば問題ないと思った」と釈明。「ご迷惑をお掛けしました。管理態勢を徹底したい」とコメントした』と書いている。釈明という言葉をわざわざ使ったところに、記者の大きな悪意を感じる。

 ほかの新聞社も似たようなもの。でも、かなりピントを外していないか?

 この商品は生協向け。ニッスイがウェブサイトで公開している文書や、生協に送った説明文書などに沿って流れを追っていくと、次のようになる

(1)1996年ごろに生協向け商品として企画し販売開始。この時には、ズワイガニとベニズワイガニは、いずれもクモガニ科ズワイガニ属であったことから、「ずわいがに」と表示しても問題ないと判断した
(2)2007年に水産庁が「魚介類の名称のガイドライン」を公表。この時に、ズワイガニとベニズワイガニは区別するべきもの、とされた。しかし、このガイドラインは生鮮魚介類にかんするものであり、加工食品の名称を規定するJAS法では、かにを属名で表示するのか、種名で表示するのか、規定されていなかった。このため、ニッスイはそのまま、「ずわいがにコロッケ」の名称を使用し続けた
(3)一部生協で「名称はこれでよいのか」と問題となり、ニッスイが09年2月、優良誤認の有無を公正取引委員会に問い合わせ。公取委に、これまでの経緯を説明
(4)公取委が、同年4月に景品表示法被疑事件として取り扱う旨を通知
(5)公取委が同年6月15日に排除命令

 この流れをみる限り、ニッスイにさほどの意図はなかったように思える。
 さらに重要なのは、ズワイガニとベニズワイガニの品質や価格の問題だ。どの新聞も、水産物流通統計年報に基づいて、価格差8倍と報じている。しかし、この価格は、境や香住など国内の漁港でのカニそのものの取引価格。ズワイガニの調査は、越前や三国、香住など高級産地がずらりと並ぶ。

 そんな漁港で水揚げされた立派なズワイガニやベニズワイガニでコロッケを語るなんて、どうかしている。コロッケに使うのは、加工用輸入冷凍品か国産の同等品。殻から出されて棒状やフレーク状で流通しているものだ。
 ニッスイは、原料は季節や部位、取引量等で変動するため正確な比較は困難としているが、参考データとして、同社ブランドの缶詰製造を委託している企業が、缶詰用原材料として仕入れたズワイガニやベニズワイガニの価格を生協に提示して説明している。

缶詰原料1kg当り仕入価格
              平成19年度   平成20年度
フレーク肉ベニズワイガニ   1,149円    1,141円
フレーク肉ズワイガニ     1,201円    1,666円
棒肉ベニズワイガニ      3,112円    3,141円
棒肉ズワイガニ        3,663円    3.654円

 価格差は、最大でも1.46倍しかない。
 さらに、品質においても、 ズワイガニとベニズワイガニは、味の根幹をなすグルタミン酸やグリシン、アラニンなどの組成に大きな違いはないという。

 ニッスイはこうしたデータも公取委に提出したようだ。だが、公取委は「ズワイガニ及びベニズワイガニは、東京都中央卸売市場築地市場において、区別して取引されており、ズワイガニは、ベニズワイガニに比べ水揚げ量が少なく、かつ高級なものとされていることから、流通段階においては、ズワイガニの方がベニズワイガニよりも高値で取引されている」とした。
 ニッスイにしてみれば、到底納得できる理屈ではなかったようだ。たしかに、築地ではズワイガニの扱い量は少ないが、輸入量まで含めた国内供給量で比較すると、ズワイガニがベニズワイガニの約2.5倍も供給されている。

 以上、書いたことはすべて、ニッスイと商品を扱った生協の文書を基にした。そのことを考慮に入れたとしても、公取委の優良誤認と認定しての排除命令が、かなりの問題を含むものであることは分かる。
 ただし、ニッスイの甘さも否めない。「魚介類の名称のガイドライン」の位置付けは、「生鮮魚介類の小売り販売を行う事業者等に対し、JAS法に基づき魚介類の名称を表示し、又は情報として伝達する際に参考となる考え方や事例を示すものである」となっている。この時に、JAS法に照らし合わせるとどうなるか、検討し監督官庁に相談していればよかった。

 これにより、ニッスイは「ずわいがにコロッケ」を「紅ずわいがにコロッケ」に名称変更。誤出荷を防止するため、既に作ってしまった商品(約2000万円相当)は廃棄したという。これは、杓子定規な表示を巡る悲喜劇、貴重な食料資源の無駄ではないか?

 こんなことを消費者が望んでいるとは思えない。マスメディアのお手軽な「企業たたき」にも、辟易する。ああ、いやな時代です。

食品安全委員会のクローン牛審議

2009-06-12 03:38:51 | Weblog
 食品安全委員会でクローン牛の評価をしてきた新開発食品専門調査会が、8日に開いた会合で、2月にまとめた「評価書案」を大筋変更しないことを決めたようだ。今後は、専門調査会から出てきた評価書案を本委員会で検討後、「評価書」として厚労省に答申することになる。

 毎日新聞その他各紙が伝えている。

 私は、このニュースを聞いて、ほっとした。なぜなら、産経新聞の5月27日付記事『クローン牛は安全か 消費者の7割「気持ち悪い」で再審議へ』を読み、気をもんでいたから。

 食品安全委員会は、評価書案について3月から1カ月間、パブリックコメントを実施した。産経新聞はそのことを報じ、『約7割が「気持ち悪い」などの批判的意見だったことに配慮して、安全性評価について再審議を行うことを検討している』と書いた。
 もしそれが本当なら、感情論によって科学的な「リスク評価」が左右されることになる。それをしたら、食品安全委員会のリスク評価結果はもう、信頼されない。
 リスク管理の方法は、感情にも配慮しなければならないだろうが、リスク評価は「気持ち悪い」というような感情によって変わるものであってはならない。

 産経新聞の記事を読んで、「まさか」という思いと、「今の食品安全委員会には、なにがあっても不思議ではない」という恐れの両方があり、たまたま5月末に講演会場で会った本委員会の委員に尋ねたところ、「専門調査会で再審議なんて、私は聞いてない」というお答えだった。
 産経新聞の記事は、誤報の可能性がある。そのため、私は専門調査会で公表されるパブコメの結果と審議を待って考えようと思った。

 結局、専門調査会の傍聴には行けず、議事録もまだ公表されていないので、審議の詳細はよくわからない。だが、各紙の報道によれば、パブコメで批判的な意見が大勢であったことが事務局から説明され、でも、大筋の結論は変わらなかったようだ。毎日新聞の記事は『専門調査会はこれらの意見に対し、「健全に発育したクローン牛や豚は、従来の繁殖技術による牛や豚と食品としての安全性は変わらない」などとの回答案を作成、近く公表する』と伝えている。

 当たり前だ。私は、評価書案は科学的には妥当だと思った。生命倫理や動物福祉、感情的な検討はまた別の次元で行わなければならないことであり、いくら批判を受けたとしても、食品安全委員会とは関係がない。


 ただし、気になることがある。中日新聞によれば、専門調査会で委員から、『消費者の不安などの意見が多いことを「厚労省や農林水産省にきちんと伝えるべきだ」として、食品安全委でその方法を検討するよう求める意見が出た』という。
 だが、それはしてはならないだろう。リスク管理の方法になんらかの影響を与えかねないことをするのは、リスク評価という「仕事」を逸脱する。

 BSE問題の時に、農水省がリスク評価と管理の両方をやっていたから、大きな問題となった。そして、管理のための評価ではなく、公正なリスク評価をするために、食品安全委員会は生まれたはずだ。
 管理機関が評価機関に影響を与えてはならないならば、評価機関も、管理機関に「きちんと管理に責任を持て」ということ以外は、なにも伝えるべきでないだろう。そうでないと、両者の独立性は保ち得ない。
 食品安全委員会のパブコメに批判的意見が殺到したという事実は、公表されている。その事実を、厚労省や農水省が情報収集して、管理の検討の時に考慮したらいいだけだ。

 専門調査会の委員自体が、組織の独立性を損ないかねない意見を平然と出しているように私には思える。非常に興味深い。
 この先は蛇足だが、実は、私は個人的には最近、リスク評価と管理をそれぞれ別組織で独立してやっていくのはもう無理、現実の問題に適応できない、と考えている。まだ論考中。また別の機会に書こうと思う。
 だが、無理であり将来的には統合を目指すべきであるとしても、うやむやにまた評価と管理が一体化、というのはごめんだ。

 食品安全委員会には現状では、しっかりと独立性を保ってもらわなければならない。そうでないと、「食の安全」への世間の信頼感はまた、大きく損なわれてしまう。その一方で、現在の形が本当に機能しているのか、リスク評価機関と管理機関の関係に別の形はないのか、次のステップの議論を始めてもよいのではないか。

池田さんの花だより~タチアオイ

2009-06-12 03:16:36 | Weblog
 虫だより(オオキンカメムシなど)を送ってくださる静岡の池田二三高さんからは、花だよりも届きます。最近いただいた便りを紹介します。なんだか、とても懐かしい花です。私が子どもの頃は、いろいろなところに植えられていたのに、最近はあまり見ないような…。

…………池田さんの花だより……………………
 タチアオイの開花が始まりました。この花の開花期間は長く8月まで咲き続けます。徐々に小さな花になってくるので今が見頃でしょう。名前のごとく、花茎がま真っ直ぐに勢いよく伸びて咲きます。一年草と宿根草の2タイプがあり、宿根草タイプは大株になるので花茎は背丈以上に伸びます。赤、黄、白と花色は豊富で大輪の数がまとまって咲くと実に壮観です。
 多くの種類のムシ達が訪花しますが、花粉が非常に多いので、花粉を好むハナバチの種類が好んで訪花します。八重咲きの品種もありますが、こちらの花には蜜や花粉はほとんどありません。

 


オールゼロのオールってなんだ?

2009-06-03 02:54:23 | Weblog
 今、食品添加物に関する原稿を書いている。「無添加がいい、とか言われているけれど、根拠がない。添加物は、気付きにくいさまざまな場面で使われているし、リスクを小さくする場合もあって、恩恵は大きい。思い込むのではなく、もっといろいろ知ってから添加物について語ろうね」という内容。

 そこで、最近非常に気になっているのがこれ。三ツ矢サイダー オールゼロ
 なにがオールやねん? 
 CMで、カロリーゼロ、糖質ゼロ、保存料ゼロと盛んにうたうが、カロリーと糖質については小さく、「栄養表示基準による」と書いてある。
 栄養表示基準では、カロリーは5キロカロリー未満/100mlなら、ゼロと表示していい。糖質は0.5%未満ならゼロとしていい。つまりは、厳密には「三ツ矢サイダー オールゼロ」のカロリー、糖質はゼロではないかもしれない、ってことですね。
 
 表示を見ると、原材料名として書いてあるのは食物繊維(ポリデキストロース)、果糖、香料、酸味料、甘味料(アセスルファムK、スクラロース)。添加物もいろいろと使われているけれど、こういうのはゼロでなくていいのかしらん?

 オールというから、てっきり全部ゼロかと思った。なんて、ウソです。全部ゼロなら、食品添加物である二酸化炭素も使っちゃだめ。炭酸水になりませんね。いや、水もゼロなら飲料になりません。
 これで、オールゼロと名付ける感覚が、私にはよく理解できない。

 しかも、広告が悪どい。特に、5月26日付の朝日新聞の広告特集にはびっくりした。社長と女性アナウンサーの対談という形式で、社長が「健康志向の高まりもあり、『サイダーを飲みたいけれど、カロリーが気になる』という声も寄せられていました。ならば、カロリーも、糖質も、保存料も、すべてゼロの三ツ矢サイダーをつくろうと。もちろん、着色料、カフェインもゼロです」と語る。これに対して、アナウンサーが「うれしいですね。子どもの口にいれるものは特に気をつけたいですから、私のような母親世代には保存料ゼロというのもうれしいです」と応えているのだ。

 保存料は、適正に使えば健康には影響しない。そのことは、食品安全委員会や厚労省やFDAやEFSAやいろいろな機関が、明確に示している。でも、商品開発の動機として「健康志向の高まりを受けて」とさりげなく説明し、アナウンサーの発言でしっかりとリンクさせている。「賢いお母さんは、保存料が入っているような飲料なんて子どもに飲ませちゃだめ」と読者に思わせる。「保存料=危険」という誤解を利用した高等テクニックだ。

 大企業も、こんなことをするんだなあ。
 どの企業も、商品を売りたいという気持ちと、科学的に妥当な説明をしなければ、という思いの間で、苦労しながらネーミングを考え宣伝している。この不景気にその苦しさはよく分かるので、私は個々の商品の売り方にはあんまり目くじらを立てることはない。だけど、オールゼロはあまりにもあからさまなので、さすがに驚いた。
 「非科学的だ」「消費者を騙すのか」という怒りは湧かない。そうではなく、「126年の歴史を持つ飲み物なのに、なんと品のないことを」と思う。嘆息する。

津村さんの誠実

2009-05-31 23:52:44 | Weblog
 5月6日付で、「津村ゆかりさんの著書はお勧め」と紹介した。
 その津村さんから、ご連絡いただいた。正誤表を作ったとのこと。

津村さんのウェブサイトの正誤表掲載のお知らせとお詫び

 原稿と図版がそろってからの制作期間が短すぎ、十分な精査ができないまま最終版組みとなってしまったとのこと。津村さんにとってこれが初の単著。最初の本は、いろいろと勝手がわからず、やっぱり大変なのだ。

 お詫びの文面から、津村さんが正誤表を出さねばならなくなった事態に対して、とても苦しんでいることがうかがえる。津村さんが住んでいる「分析化学」の世界は、出したデータが関係者の運命を大きく変えることもあり、世の中でもっとも、間違いが許されない世界かもしれない。そんな日常を送っているが故に、苦しさも人一倍、ではないか。

 でも、世の中の本は意外に間違い、誤植が多い。知らん顔して大幅改訂、増刷することなど日常茶飯事である。私も最初の増刷の時に、大幅ではないけれどちょこちょこ間違いを直してもらう。十分気をつけて目を通し、その分野の専門家に査読もお願いするけれど、どうしてもチェック漏れは出てしまう。完璧はやっぱり無理なのだ。

 だから私は、津村さんの姿勢にむしろ、誠実さを感じた。普通は、「恥ずかしい」とか「ミスを表面化させたくない」という感情が先にたつし、「みんな知らん顔して直しているじゃないか」という言い訳もあって、わざわざウェブサイトで公表することなどしない。
 でも、津村さんは「正しい情報を、読者に届けなければ」という思いで正誤表を出し、私にも「ブログで取り上げて」と連絡してきてくれた。私はますます、津村さんのファンになった。

 正誤表を見る限り、致命的な問題ではないように思う。本の価値が落ちることはない。やっぱり、いい本だ。近々改訂、増刷になるでしょう。

 

遺伝子組み換えサル誕生で、妙に気になったこと

2009-05-29 02:55:04 | Weblog
 小型のサル「コモンマーモセット」の受精卵に、クラゲから抽出した緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を導入して、組み換えサルを作出することに、日本の「実験動物中央研究所」や慶應義塾大学などの研究グループが成功し、Natureで論文発表された(459号、p523~)。しかも、組み換えサルの精子と非組み換え卵子の試験管受精により産まれた第二世代でも、GFP遺伝子は受け継がれ発現していたとのこと。

 これまで、遺伝子組み換えマウスなどを利用して人の病気の治療法研究が行われていたが、より人に近い霊長類で遺伝子組み換えの手法が確立されたことで、治療法研究などが進展すると期待されている。
 コモンマーモセットは小さく、生後1年で性的に成熟して子どもを作れるようになる。妊娠期間も短く双子をよく産む。実験動物としてとても扱いやすい。人の病気の遺伝子を導入したこのサルを用いて、さまざまな研究ができそうだ。

 もっとも、マーモセットは新世界サルで、旧世界サルよりは種としてヒトから遠いので、実験材料としての限界はあるよ、というようなことも、Natureは掲載号の論文紹介記事の中で解説している。
 それに、日本では動物福祉の観点から怒る人はそれほど多くないだろうが、海外では問題視する人も多そうで、Natureはこのあたりのことも少し丹念に説明している。

 と、科学ライターらしく書いてみたものの、私がどうも気になったのは、ちょっと別のこと。
 論文のFirst Auther(第一著者)は、実験動物中央研究所の佐々木えりかさんで、佐々木さんの貢献が最大であるはず。なのに、どういうわけか日本の多くの新聞は、佐々木さんの名前を出さずに、「慶大が~」「慶大の岡野栄之教授らが~」と書いている。産経新聞も読売新聞も時事通信社もそう。毎日新聞だけ、佐々木さんの名前を出している。

 可哀想ではないか? First Autherの価値はとても大きい。私が新聞記者だったら、佐々木さんの名前を出してあげたい。世間に「この人が、実際に手を動かして頭を使って、論文も書いたんですよ」と教えてあげたい。
 佐々木さんは、実験動物中央研究所マーモセット研究部・応用発生生物研究室・室長だが、慶大ヒト代謝システム生物学研究センターの特別研究准教授も兼務している。だから、新聞記者たちは「岡野教授の方が偉い人で、コメントとしてとりあげるべき」と判断したのかなあ?
 いずれにせよ、日本の新聞記者って、やっぱり研究者に対する愛がないのよねえ、と思ってしまった。

 ちなみに、Natureの論文掲載号の解説記事や、ウェブサイトNatureNewsの紹介記事では、岡野教授の名前なんて登場しない。ひたすら、佐々木さんのコメントが並んでいる。それが当たり前だろう。

 ウェブサイトの記事では、佐々木さんを中心に実験動物中央研究所の5人の研究者がそれぞれ、組み換えマーモセットを抱いて並んでいる写真が掲載されている(この記事は、有料会員しか読めない)。
 5人は大きなマスクをつけて表情はよく読み取れないのだけれど、小さいサルを抱えて胸を張っているのがいい感じ。抱えている5匹の名前はHisui,Banko,Wakaba,Kei and Kou。Natureはやっぱり、頑張っている研究者を愛してますね。だから、研究者が格好良く見える。科学雑誌だから、当たり前か。
 
(追加)
 JSTのサイトに、研究内容を比較的詳しく説明したプレスリリースが出ていました。

科学ライターのお金の話1

2009-05-24 00:55:18 | Weblog
 面白い話を聞いた。日本科学技術ジャーナリスト会議が5月14日に開いた「科学ジャーナリスト賞2009」授賞式でのこと。「『ダーウィン『種の起源』を読む』(化学同人)で大賞を受賞した北村雄一さんがスピーチの中で「年収は200万円だ」と話し、会場がどよめいたというのだ。
 会場にいる人たちは、そんなに少ないとは思っていなかったのだろう。でも、私は深くうなずける。まじめに科学ライターをしていたら、そういうことになる。

 私は会場で直接スピーチを聞けたわけではないので、不躾ながら北村さんにメールを送って「本当ですか? ブログに書いていいですか?」と尋ねてみた。
 やっぱり、私のまた聞きエピソードは、少し違っていた。より正確には、北村さんはこう言ったそうだ。「年収200万を越えるには本を4冊書く必要があり、年収300万を越えることは原理的に不可能である、というか年収はぶっちゃけ200万円台でしてねーあははははー」
 本代や資料代などの必要経費を差し引かない「収入」の話である。ということは、書籍代や学術論文のダウンロード代や電話代や交通費など諸経費を引いた「所得」は……。
 
 北村さんのウェブサイト「サイエンスライターという仕事と展望」でも、がっちりと科学ライターという特殊な仕事について考察してある。
 北村さんは書く。「事実をそのまま伝えるよりも、むしろ人間が受け入れやすいように情報をねじ曲げる/あるいは改ざんした方がよく伝わる」と。その結果は、こうだ。
「サイエンスライターというのは
 余計な仮定をそぎ落し、仮説を選び、その検証を果てしなくくり返す科学という営みと
 効率的に繁殖する噂を作る作業との
 ありうべからざる結婚をとりおこなう職業なのです。」
 
 でも、フリーのライターは文章を売って食って行かなきゃならない。科学を適正に伝えることと売れる文章を書くことが両立できないとなると、次のような可能性が出てくる。
「フリーランスなサイエンスライターは生活をする上で噂の方を優先させ、正確さを犠牲にする
 これは強力な圧力であると言えるでしょう。生か死か?そうなったらそりゃあ噂をとるよなあ」

 科学を適正に伝えるフリーのサイエンスライターが存在しえない、ということになれば、どうしたらいいか? 北村さんはこう提案する。
「国家官僚がサイエンスライターをやればいいじゃないか」

 以上は抜粋なので、ぜひぜひ北村さんのお書きになったものを読んでください。
 北村さんが、ありうべからざる結婚に真摯に取り組んでいる証しが、科学ジャーナリスト大賞受賞であり、年収200万円台なのだろう。本当におめでとうございます。心からお祝いします。

科学ライターのお金の話2

2009-05-24 00:50:38 | Weblog
 北村雄一さんの話だけ書いて自分のことを書かないのは、なんだか卑怯な気がする。それに、「国家官僚がサイエンスライターになればいい」で思い出したことがあったので、ちょっと書いてみる。

 私の収入が新聞記者時代の年収を初めて超えたのは、フリーライターになって9年目の昨年だ。ということは、同期で新聞記者になっている人たち(多くがデスクになっている)と現時点で比較すると、やっぱり収入は大幅に少ない。
 念のため言っておきますが、私は安給料で有名な毎日新聞の出身。朝日新聞の記者と比べたら、うーん、惨めすぎる。
 
 でも、北村さんよりは楽だ。得意分野が「食」なので、原稿や講演依頼が多い。世の中は「食の安全」バブルだったので、ライターも少し恩恵にあずかれた。ちなみに、今年の年収はおそらく昨年よりも下がる。食の安全バブルもはじけたようだ。

 で、私も「国家官僚がサイエンスライターになって科学コミュニケーションもやればいい」と思ったことがあった。
 昨年、○○省系の社団法人から連絡があった。「○○省の地方機関がリスクコミュニケーションを開く計画をしている。講師として紹介したい」とのこと。2時間でギャラは22000円という。

 私の家から会場まで3時間くらいかかる。往復6時間+リスコミ2時間+講演内容を考えパワーポイントファイルを作る時間が少なくとも2~3時間か。テーマは結構手強いものだし、とても割に合うギャラではない。開催者が私のことをよく知っていて、松永でないとだめ、と言っているわけでもない。
 が、社団法人とはこれまでもいろいろと付き合いがあるし、リスコミは消費者の情報収集においては大切なものだ。引き受けた。

 大学の先生が30分話して私が30分話して、1時間が意見交換。普通にやって終わって、講師としては可もなく不可もなく、だっただろう。しばらくしてから、銀行口座にギャラが振り込まれた。驚いた。源泉徴収で1割を引かれた後の額は8370円だった。担当者によれば、「○○省の謝金単価表に基づいています」だそうだ。

 費やした10時間で割ってみて欲しい。私の仕事は、コンビニのパートの仕事より安かった。
 振り返れば、私もずさんだった。その地方機関に事前にギャラを確認しなかった。だから仕方がない。

 安かったことに対する怒りもあったが、この金額、予算で人を使えると考えた組織の体質に仰天した。自分たちは出ずだれかに任せて、それで「リスコミをやりました」と報告書を出して終わり。それは、無責任だ。
 いや、予算額が少なければ、いいかげんな講師しか呼べないはずだ。そして、私がしゃべった。それではだめだ。いいかげんな講師を呼んでいいかげんな情報を流されるリスクを、○○省は考えた方がいい。予算額が少ないなら、自分たちが責任を持って正しい情報を市民に提供し、意見交換すべきだ。

 これが、私が国家官僚に対して感じたこと。北村さんの高尚な話とはまったく違う。恥ずかしい。でも、科学ライターの社会での位置づけの程度を物語るエピソードではあるだろう。
 ちなみに、同じ省の別の地方機関でリスコミに出た時は、もう少し多い額をくれた。でも、大学の先生なら、独立行政法人の研究者なら、給料を得ているから、講演料が1万円や2万円でも平気かも知れないが、フリーではやっていけない。
 科学ライターとしての情報の収集量や市民に提供するスキルが、公にこれほど軽んじられる状況では、科学ライターは食えない。したがって、日本の社会に科学ライターは育たない。

 そんな中でもがきつづける私、である。
 もう一つちなみに。今、私は講演依頼があった時には、科学ライターとして持続可能な生産ができる額がほしい、と説明している。給料という定まった収入がある大学の先生などと同じように扱わないでほしい、とお願いしている。
 ギャラ交渉は、私にとってはかなり大きなストレス。でも、秘書を雇えるはずもなく、自分でやるしかないっ。
 同じ公でも、自治体はちゃんと理解してくれて、呼んでくれたり「予算がないので、今回は見送ります」となったり。本当は、「こんなライター、そんな額出す価値無し」という結論かもしれない。それでもいい。いずれにせよ、すっきり決まる。

 ちょっと感情的になったかな。北村さんに刺激を受けて、妙な方向に暴走してしまいました。うーん、やっぱり恥ずかしいな。
 

米、加、豪の小麦生産者団体が、遺伝子組換え小麦の商業化を求め団結

2009-05-19 01:08:05 | Weblog
 遺伝子組換え小麦を巡る情勢については、遺伝子組換え作物の作付面積が、昨年も増加シンジェンタCEOの、遺伝子組み換え小麦についての発言で触れた。
 そしてまた、動きがあった。今度は、アメリカ、カナダ、オーストラリア三国の小麦生産者団体が、組換え小麦の商業化に向けて共同戦線を張っていくことを明らかにしたという。5月14日付ロイターなどが伝えている。
 「トウモロコシやダイズ農家は、ずいぶんいい目を見てるじゃないか。組換え小麦も同様に商業化してくれないと!」ということのようだ。「生産量は上がるし、殺虫剤への依存度は軽減できるし、よりすぐれた品質の小麦ができる」と、期待は高い。
 耐干ばつ性小麦や窒素分を効率よく利用できる小麦の開発などが強く望まれているようだ。

 だからといって、来年や再来年に組換え小麦が登場するわけではない。実際の上市にはまだ、かなりの年数がかかるだろう。消費者の組換え小麦に対する抵抗感は、飼料用トウモロコシやダイズの比ではないという見方も依然として強い。
 でも、商業化に向けて少しずつ動きが顕在化し、関連する情報が増えてきている。小麦受容のための雰囲気づくりに向けて、着々と布石が打たれている、という印象だ。

鳥取県作成の「まるごとわかる農薬のはなし」

2009-05-08 21:24:41 | Weblog
 鳥取県農林水産部生産振興課の新居さんが、県が今春発行した「まるごとわかる農薬のはなし」という小冊子を送って下さった。
 今年2月、同県農林総合研究所園芸試験場で講演させていただいた時に、「作成中です」と聞かされていたのだが、完成したのだ。
 こちらのページからダウンロードできる。

 これまでも、群馬県が農薬の解説本を出すなど自治体の取り組みはいろいろとあったけれど、消費者を対象にしたものが目立っていた。今回の小冊子は、生産者向けだ。「なぜ農薬を使うのか」という素朴な疑問にはじまり、農薬の作用メカニズムや安全性確保の仕組みなどを分かりやすく解説している。
 
 特に、第三章の「農薬の使用にまつわる注意点」がいい。ラベルの見方や希釈方法、複数の農薬を混ぜて使う場合の混ぜ方、使用回数の数え方など、実地に役立つ情報が盛りだくさん。
 「似て非なるもの」という項目では、同じに思える作物が実は、違う作物として分類されていて使える農薬も異なることを説明している。ネギとワケギとアサツキはそれぞれ使える農薬が違うなんて、知ってましたか? 私は知らなかった。
 「うっかりこんなこと! ありませんか?」では、間違えやすいポイントを列挙。有袋と無袋の梨では、スプラサイド水和剤の使用時期も使用回数も違うとか、スイカの畝ごとに品種や定植時期など変えて収穫時期も異なる場合、間違えやすいので気をつけろ、とか、とても面白い。
 鳥取農業の特徴を踏まえた情報を生産者に提供して、役立ててもらおうという制作者の意気込みが感じられる。

 私は最近、生産者や指導者に講演する時には、「生産者も勉強が必要ですよ」と話している。「生産者が、農薬のことを誤解していて、間違った情報を広めているケースが目立つ。『自家用野菜で、農薬を使っていないから安全だよ』と消費者に言う生産者が未だにいるんです。そんな状態で、消費者に理解して、と頼んでも無理ですよ」と思い切って言う。
 まずは、生産者の理解から。生産者が農薬のことを分かって適正に使えるようになり、そのことを自分の口で消費者に説明できるようになったら、消費者の反応もうんと変わってくるのではないか。

 鳥取県も同じことを考えたようだ。「農薬を安全に使用している! と胸を張って言うことができますか?」と問いかけ、生産者が飽きずに眺めて理解できるように、いろいろと工夫してある。無難さを排して、チャレンジしている。頑張っている。それがとてもいい。

 自治体がまた改めて、生産者の方を向き出した。その一つの表れのように思える。消費者迎合の農業ではなく、生産者も消費者も大切にされる農業であってほしい。