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松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

産地表示の法的義務付けは必要か?~NHK「追跡!“国産食品”偽装」の感想

2008-12-17 11:22:04 | Weblog
 遅まきながら、NHKスペシャルを見た。14日に放送された「追跡!“国産食品”偽装」の再放送。産地偽装の現場を食品表示Gメンと追う場面など臨場感たっぷりで面白かった。
 だが、番組を見ながら、何度も思った。産地表示なんてものを法的に義務付けるから、国産に付加価値が過剰にうまれ偽装が起きるのでは? 本当に、2000人の食品表示Gメンは要るのか? 産地偽装のトラックを追うようなことが、農水省職員のすべき仕事か? 

 番組には消費者団体の女性たちも登場し、店頭で冷凍食品をさんざんひっくり返して表示を確かめて、「産地を知りたい。きちんと表示してほしい」というようなことを言っていた。
 でも、彼女たちがほしい産地を表示した商品は、既に生協や高級店にはあるのだ。なにも普通のスーパーに行って、主婦が半額セールになるのを待ちかまえて買うような商品を手にとって言う必要もないだろう。消費者団体のステレオタイプのポーズに見えて、不快な気分になった。
 
 私は、産地表示は基本的に、民間レベルで自主的にすればいいことだと思っているので、食品表示Gメンの活動に最後まで違和感を拭えなかった。一生懸命にやっているのは分かるし産地偽装を図る不正な業者が多いのも事実。だけど、民間の取引の中で厳しい契約を結び確認することで、ある程度は防げるはずだ。それに、ウソつきの商売に対応する法律は、別にある。

 産地は変動する場合も多く、表示対応は煩雑な作業になる。コストもかかる。国産に対する優良誤認も産む。表示義務付けが、本当に必要なのか? 
 そういう視点が、番組全体からも消費者団体の発言からも感じられず、残念だった。食糧庁がなくなった後に仕事探しに躍起になっている農水省の思惑に、消費者団体やNHKがなんだかうまく乗せられているような気がして仕方がなかった。

 産地表示に、これだけの資源を投入しているのは日本くらいのものだという。農水省消費・安全局審議官の山田友紀子さんが「生物資源から考える21世紀の農学第5巻 食品の創造」(京都大学出版会)で書いている。
 また、ニュージーランドのFood Safety Authority長官が、11月末にウェブサイトに出したコラムで、産地表示を取り上げている。同国でも産地表示は論議の的だそうだ。だが、長官は「任意表示の方が法的な規制よりもよい。法的規制は困難を極めるし、食品価格を押し上げることにもつながる」と慎重な姿勢を示している。

 畝山智香子さんの「食品安全情報blog」12月1日付で、コラムが翻訳されて紹介されているので読んで欲しい。私は、この長官の主張をもっともだと思う。日本でも、こういうことを言える役人や政治家が出てこないものか。
 当然、反対意見は多いだろう。だが、こういう根源的な疑問をきちんと議論することがこれからの時代には必要ではないか。

 結局、違和感を抱えたまま番組視聴は終了。一番気に掛かったことは、情けないことに番組の主題とは全然違っていた。主婦としては、消費者団体に尋ねてみたい。「当然、見た商品はちゃんと購入したでしょうね。さんざん手で触って温めて冷凍ショーケースに戻したら、承知しないわよ!」。
 最近、スーパーに行くとよくいるのです。ショーケースの奥から引っ張り出してべたべた触り、ひっくり返して表示をじっくり眺めて、ぽいっと一番上に置いて行ってしまうお方が…。「ああ、温度が上がる~。品質が劣化する~」。そちらのマナー違反の方がよほど気になる私、である。 

伊藤ハムのシアン問題4~CMに対する違和感

2008-12-13 21:21:26 | Weblog
 伊藤ハムのシアン問題で、自主回収と廃棄の問題を書くと予告しておきながら書かなかった。少々引っかかったのだ。CMに。

 伊藤ハムは今、テレビCMで「この度、第三者による調査対策委員会により、製品に使用する水の安全性が確認されました。東京工場では、操業再開に向けて、品質チェックのためのテスト生産を開始いたしました」と流している。ウェブサイトでも見られる。
 調査対策委員会はシアン化物イオンと塩化シアン濃度が基準超過した原因について検討し、再現実験なども行って「原水のシアン汚染はないと考えられる」とし、シアン検出の原因を「不十分な塩素処理に起因するシアンの生成であると思われる」としている。12月5日に公表した「経過報告」では、次のように書いている。

調査対策委員会としましては「水の安全性」と「水質の管理体制と報告連絡体制」はマニュアル上は確保されていますが、今後はこれらの仕組みを定着させることが極めて重要であると判断しています

 調査対策委員会の出している文書は、科学的に明確なことと、証拠を積み重ねて行う推論がきちんと区別して読めるように、非常に慎重な書きぶりだ。シアン基準超過の原因は科学的に断定されたことではなく、あくまでも推論であり、それに基づいて対策が講じられている。それ自体は妥当なことだ。

 ところが、CMになると「委員会により水の安全性が確認されました」になってしまう。企業としてはインパクトのある“安全宣言”をしたいのだろうが、これは科学的に誠実か? 企業として誠実な態度か?
 私は引っかかる。そんな単純な問題だったのか。もともと、製品からはシアンは検出されていないのだから、製品の安全性に問題はなかった。情報公開しながら淡々とテスト生産に進んでほしかった。
 この手の安全宣言は、よくある。企業の儀式のように見えて、消費者をなめているように思えて、いつもがっかりする。伊藤ハムも、そんな企業だったのか?

伊藤ハムのシアン問題3~検査の意味

2008-12-08 09:23:18 | Weblog
 前回、はっきり書かなかったことがあった。塩素処理に使った次亜塩素酸ナトリウム溶液の有効塩素濃度が低下していたのではないか、という委員会の指摘である。タンクを外に設置し、減ると継ぎ足して保管、温度管理もしていなかった。そのため、濃度が低下していたのではないか、という見方だ。
 これに加え、水質基準への塩素酸項目追加があり、次亜塩素酸ナトリウム溶液の添加量自体も絞っていた。有効濃度の低下と溶液添加量不足が重なり、塩素処理が不十分になった、というのが委員会の見解だった。

 シアン濃度が40年間問題として浮上しなかったという事実などから、私は保管のまずさによる有効塩素濃度低下が主因ではないだろう、と思っている。それが主因なら、これまでにシアン基準超過が何度も起きているはずだ。やはり、使用量を絞ったことがファクターとして大きいのではないか? そう考えた。
 溶液の有効塩素濃度低下の確証となるデータが出されなかったことも引っかかった。そのため、なんとなく、ではあるのだが、明確に書かなかった。

 だが、多くのマスメディアは「次亜塩素酸ナトリウムの管理が悪かったのが原因」と報じ、私としてはびっくりした。そんな単純な話じゃない。
 しかし、明確に触れず、「委員会は今回、塩素処理に用いる次亜塩素酸ナトリウムの管理や使い方など、いくつかの提言をしている」という一文にしてしまった私もちょっと問題。これは私というメディアのバイアス報道?
 そんなことを考え、追加情報として提供する次第だ。委員会の提言の中では、次亜塩素酸ナトリウムの保管改善は重要項目となっているので、食品メーカーの方々はご注意ください。

 さて、伊藤ハム問題が提起する「検査」と「自主回収・廃棄」という二つの視点。今回はこのうちの「検査」について少し触れてみたい。

 私が一連の取材の中で感じたのは、「伊藤ハムはまじめだったが故に年に4回も検査を行い、だからこそシアン基準超過を見つけてしまった」という皮肉だ。ここまで熱心に検査せずに地下水を使っている食品企業は多い。
 ただ、同社の検査は「基準をクリアしていることを確認するための検査」だったのではないか? 各項目の意味や数字の推移などに注目していなかったのではないか? 
 だから、塩素酸濃度が上がった時に、簡単に使用量を絞るというような選択をした。シアンが基準を超過するという事態が起きた時に、何度も再検査に出して時間をロスしてしまった。検査を頻繁にやるという熱心さに、そのデータを科学的に受け止め判断する姿勢が追いつかなかった、という見方は、後付けの批判だろうか?

 こんなことをわざわざ書くのは、残留農薬検査でも同じことが言えるように思うからだ。キャセイ食品が中国産を国産と偽装する問題が起きた時(農水省プレスリリース)、一部の生協職員の間で、「これまでの残留農薬検査結果から、偽装を見つけることはできなかったか」ということが話題になった。
 例えば、「日本では使われない農薬が、基準以内であっても頻繁に検出されていれば、怪しい」というわけだ。結局、そうした分かりやすい怪しさは前のデータからは伺えなかったらしい。ただ、同種の冷凍野菜を扱うほかの企業に比べて、農薬検出の割合は高かったという。
 「今後は、そういう視点から残留農薬検査を十分に活用しないといけないね」と生協職員たちは言い合っていた。

 検査データは雄弁に語るのだ。検査頻度が格段に上がっているからこそ、基準の意味を考え数字の推移を把握してその原因を追及し、顕在化する可能性のある問題点を早めに見つける、というような作業が大事になるのだろう。
 もう一つ、検査機関のレベルも考えたいところだ。そのデータの意味するところまで検討し伝えてくれる検査機関もあるという。一方、データをはいと渡すだけのところもある。当然、検査料には違いが出る。どちらの検査機関に依頼するのか?

 多くの検査が今、問題ないことをただ確認するためのものになっている。「検査したから安全」と言うための検査になってしまっている。
 私は、こんなに数多く、何度もする必要はないと思っている。しかし、検査するからには、その意味を十分に考え最大限に有効活用してほしいと願う。

伊藤ハムのシアン問題2~やっぱり塩素処理不十分が原因?

2008-12-05 23:12:32 | Weblog
 伊藤ハムが12月5日、記者会見を開いたので行ってきた。調査対策委員会が発足してから1カ月がたち、5回の委員会で議論してきたことの中間報告である。主に、基準超過の原因を科学的に解明するための調査研究の内容について、説明が行われた。

 既に、資料がウェブサイトで公表されているのでご覧いただきたい。
 委員会の見方は、「基準超過は、井戸水そのものに問題があったわけではない。塩素添加の不足、つまり不十分な塩素処理に起因するシアンの生成が起こり、基準を超えた」というものだ。
 
 中間報告で提示された主な事実は次の通り。
・水中のアンモニア性窒素は、塩素の添加によって塩素と結合し、さらに水中や濾過材中の有機物と反応して塩化シアンを生成する場合がある。
・伊藤ハム東京工場の井戸水は、アンモニア性窒素が多い
・再現実験で、塩素添加が不十分だとシアン生成量が増えることが確かめられた
・水質基準項目にこの4月から塩素酸濃度(0.6mg/L以下)が追加され、7月の自主検査で0.62mg/Lという数字が出て再検査したところ下がるなどしていたため、添加する塩素量を抑えめにしていた
・11月始めに濾過材を交換したところ、シアンはほぼ検出限界以下となった

 これらのことから、委員会は「塩素添加が不足したことから、塩化シアン濃度が上がり基準を超過してしまった」と推測した。
 だが、これだけでは原水が基準を大幅超過した(0.037mg/L)ことと話のつじつまが合わない。原水は、塩素処理前の水だからだ。
 委員会は塩素注入地点と原水サンプリング地点が極めて近いうえ、塩素が逆流する可能性もある構造であることを説明。採取された原水に塩素が混入していた可能性を指摘した。


 なんだかつじつま合わせの理屈のようにも見える。大幅に基準超過した試料はもう残されておらず、検証のしようがない。
 しかし、この推論に二つの傍証が加わる。委員によれば、0.037mg/Lという値の大部分は、シアン化物イオンではなく塩化シアンとして検出されている。自然水に塩化シアンが含まれることはほぼなく、塩素の混入が強く疑われる。
 さらに、地下水では急激な水質変化はまず生じないと考えられ、基準超過がこの1回きりで、ほかの検査では見られないことも、この検査でなんらかのアクシデントが起きたことを疑わせる。
 こうしたことから、委員会は「原水自体には問題がなかった」と考えた。

 私も、大筋で妥当な推論だと思う。一つだけ引っかかるのは、再現実験などで塩素処理が不十分な場合に検出したシアン濃度と、実際の基準超過濃度の間に、いくぶん乖離がある点だ。再現実験では、シアン濃度は0.002~0.003mg/L程度。実際には、この10倍程度の濃度が検出された。報告書は、ほかの悪条件も重なってシアンの量が増えたことを示唆しているが、はっきりとは書いていない。

 気になって、調査対策委員会委員で再現実験を行った北里大医療衛生学部講師の伊与亨さんに尋ねてみたところ、微妙な返事だった。この、微妙という言葉を、私は良い意味で使っている。科学者として、この程度の濃度上昇は起こりうるという感触は持っているけれども、まだ公の場で明言はできない、という感じ。これから、再現実験を詳細に詰めて、学会発表や論文という形で出してほしい。
 
 今回の事故の場合、原因を確定させることは難しい。だが、伊藤ハムは、仮説をたて再現実験などを行い検証した。この姿勢は、立派だ。記者会見でも、伊予さんらが、実に丁寧に科学的なメカニズムを説明。あくまでも仮説の検証に過ぎないことを伝え、推論をしっかりと述べ、科学的に不明であること、推測できないことは「分からない」とはっきりと示した。

 委員会、伊藤ハム共に、見事な姿勢を見せてくれたと私は受け止めている。地下水を使用しているほかの企業などに極めて有益な事例研究となりつつある。委員会は今回、塩素処理に用いる次亜塩素酸ナトリウムの管理や使い方など、いくつかの提言をしている。ぜひ、ほかの企業も参考にしてもらいたい。最終報告書は、後日公表されるそうだ。

 さらに二つ、私は伊藤ハムの今回の事故を契機に考えたいことがある。一つは、検査をなんのためにやるのか、ということ。もう一つは、自主回収は必要だったのか、である。
 これについては、明日か明後日、また書きます。

厚労省のいい仕事ぶり~加工食品の表示に関する共通Q&A改訂

2008-12-04 12:38:47 | Weblog
 加工食品の表示に関する共通Q&A(第2集:消費期限又は賞味期限について)が11月、改訂された。
 「赤福」や「白い恋人」など、期限表示を巡る問題で大騒ぎになったのは2007年。安全性、品質共に問題がないと思われる食品が、大量に回収され捨てられたのはご承知の通りだ。その混乱の再発を防ぐために、Q&Aは踏み込んだ内容になっている。厚労省基準審査課が、相当に頑張ったのだろう。
 加工食品を扱う関係者は、ぜひ目を通してください。厚労省:食品の表示に関する情報提供のページ

 私が重要だと思う変更点は次の通りだ。
(1)一般消費者向けと事業者向けに整理された。

(2)消費期限と賞味期限を分ける目安になっていた「おおむね5日」が消滅した。
 5日という一律の目安ではなく、食品の特性、条件等に応じた科学的、合理的な判断を、個々の事業者の責任でやりなさい、ということのようだ。

(3)消費者向けに、「保存中に期限が切れた場合には、どのようにすれば~」というQ9が設けられた。Aでは、消費期限と賞味期限の区別を説明した後に、賞味期限については「すぐに捨てるのではなく、その見た目や臭い等の五感で個別に食べられるかどうかを判断するとともに、調理法を工夫するなどにより、食品の無駄な廃棄を減らしていくことも重要です」と説明している。

(4)事業者向けのQ12のAで、賞味期限を設定する場合の安全係数として、「必要以上に短い期限とならないように、0.8以上を目安に設定することが望ましい」と説明している。
 通常、実験などで確認された期限に1以下の安全係数をかけて賞味期限を設定する。従来、極端な場合には0.3程度の数字をかけて短い賞味期限を設定していた業者もあった。そういうことは止めなさい、ということだろう。

(5)Q14で、賞味期限におけるいわゆる「1/3ルール」に法令上の根拠がないことを明確にした

(6)Q31で、「加工の段階で、期限切れの原材料を使用することは可能か」という質問を新設。消費期限切れの原材料使用については「厳に慎むべき」。賞味期限切れについては、「必ずしも禁止されてはいません。当該原材料の特徴を踏まえ、または、保存温度の変更や加熱加工などを行った場合に、最終製品の品質に問題がないことを科学的、合理的な方法で確認できているのであれば、問題はありません」と回答。

(7)Q32で、一度出荷した後に返品された商品の再包装と出荷についての質問を新設。「再包装して再出荷する場合には、食品衛生上問題がないことを確認した上で、客観的な指標に基づいて、再度賞味期限を設定し直すことが必要」と回答。つまりは、条件付きながら再出荷していい場合もあるよ、ということ。

 Q&A全体を通じて、「科学的、合理的な判断が重要」ということと、「無駄な廃棄は減らすべき」という力強いメッセージが打ち出されている。厚労省、いい仕事してます。
 あとは、事業者の自覚と責任、実行力が問われる。もちろん、消費者の判断力も。

伊藤ハムのシアン問題~原水も基準超過

2008-12-01 22:15:30 | Weblog
 10月25日に明らかになった伊藤ハムのシアン問題の情報が、1カ月たった今もどうも妙に錯綜しているように思う。整理してみたい。

 伊藤ハム東京工場は竣工以来、約40年間にわたって地下水をくみ上げ浄化処理をして使用してきた。ところが、一部の水源の水質の自主検査でシアン(シアン化物イオンと塩化シアン)が基準値の0.01mg/Lを超えた。
 社内の連絡体制に不備があり公表が遅れ、約20日間にわたって製造し続けてしまった。そのため、製品自体の安全性にはなんら問題がないけれど、自主回収に踏み切ったというのが、今回の問題の概要だ。

 情報が混乱したままなのは、伊藤ハムが細かな情報を公表していないこと、そして、週刊誌AERAが「地下水の塩素消毒によって、塩化シアンが発生」という説を出したこと、さらにそれを、中西準子先生が自身のHPの雑感「地下水原水の汚染だったのか、塩素処理後の水の汚染だったのか-伊藤ハムは至急明らかにしてほしいー」で紹介したためだと思う。この問題に注目している食品関係者も、わけがわからなくなっているのだ。

 私が入手した内部資料によれば、シアンは浄化処理する前の原水からも出ている。伊藤ハム東京工場には、井戸が三つある。そのうちの2号井戸から揚水し浄化した処理水を9月18日に定期検査したところ、24日にシアンが基準を超えているという結果が出た。数値は0.022mg/L。
 専門業者から「基準外の数値は、浄化の過程で加えられる化学物質の影響の可能性がある」との指摘を受けたため、同工場の担当課は翌25日、再び浄化処理水を採取し検査した。この結果は、10月2日に出た。0.034mg/Lで、基準を超えた。

 同工場は、3日に今度は3号井戸の浄化処理水の検査を実施。さらに7日には、2号井戸の浄化する前の原水検査も行った。3日の検査結果は9日に出て、これも0.014mg/Lで基準超え。さらに、原水の結果は15日に明らかとなり、こちらも0.037mg/Lで基準を超えた。結局、2号井戸の浄化処理水で2回、原水で1回、3号井戸の浄化処理水で1回、基準を超えている。
 その後は、原水、浄化処理水共に何度となく検査しているが、基準は超過していない。

 原水超過を記載した資料は社員から入手したし、社内説明会でも幹部が言及したようなので、この内容は間違いないと思う。
 原水の汚染だとすると、中西先生が書いている通り、問題はややこしくなる。地下水を周辺の企業も柏市も揚水して使っている。伊藤ハムで超過したのなら、ほかの井戸水でも超過した可能性があるのではないか? そんな疑いを否定することができなくなる。
 柏市は、伊藤ハム工場付近7カ所を含む市内36カ所の井戸水の水質を調べ、すべての井戸で0.001 mg/L 以下だったと発表した。しかし、だからといって、柏市の地下水が常に基準を下回っていると保証できたわけではないのだ(だが、伊藤ハムの原水も、安全性に懸念が生じるようなレベルの基準超過ではない。このことにも、十分配慮しなければならない)。


 伊藤ハムが設置した調査対策委員会の議事内容を見る限り、ずっと塩素処理による塩化シアンの発生にこだわっているようで、再現実験なども行っている。原水からの検出について、委員会でどのような議論が行われているのかは、よく見えない。
 私は、内部資料をかなり前に入手して、調査対策委員会の議論の内容や伊藤ハムの再現実験の内容が、どのように逐次公表されるのかに注目していた。原水の基準超過は、前述した通り、かなり公共性の高い出来事なので、情報は公開されるべきだ、と思った。残念ながら情報はほとんど公表されなかった。

 だが、今週末にはメディア関係者も集めて報告会を開くそうだ。報告会で、同社がどのような実験結果を発表するのか。原水の検出をどう解釈するのか。ここが、伊藤ハムの今回の問題の一つのポイントであろう。

 どれほど再現実験をして「塩素処理で塩化シアンができる」ことを証明したところで、原水からの検出についてうまく解釈したところで、それは今回の問題の原因を突き止めることとイコールにはならない。伊藤ハムの「汚名をそそぐ」ことにはならない。
 しかし、地下水を浄化処理して使っているほかの多くの食品企業や自治体にとっては、その実験結果や検討内容はおおいに参考になるはずだ。

 伊藤ハムの問題が発覚した当初は、「地下水を使うなんてとんでもない」という的外れの批判もあったと聞く。だが、全国の食品企業が地下水使用をやめて水道水にシフトしたら、水道水はまったく足りない。したがって、多くの企業が地下水を管理しながら使わざるを得ない。
 皮肉なことだが、伊藤ハムの“事故”は他社に極めて有意義な情報を与えてくれた。さらに、再現実験までしているのだ。同社の社会貢献の価値は、実はこれから、非常に大きくなるかもしれない。

伊藤ハムの事故の主な経緯
_____________________________________
9月18日 2号井戸浄化処理水を採取しシアン検査(検査1)
  24日 検査1の結果が判明。0.022mg/L→基準超過
  25日 2号井戸浄化処理水を採取し検査(検査2)
10月2日 検査2の結果が判明。0.034mg/L→基準超過
  3日 3号井戸浄化処理水を採取し検査(検査3)
  7日 2号井戸の原水を採取し検査(検査4)
  9日 検査3の結果が判明。0.014mg/L→基準超過
  14日 1~3号井戸の浄化処理水を採取し検査(検査5)
  15日 検査4の結果が判明。0.037mg/L→基準超過
     担当課が工場長に報告。工場長が2号井戸の使用中止を指示
  16日 検査5の結果が判明。すべて、基準内におさまる
  17日 2号井戸の原水検査(検査6)
  21日 検査6の結果が判明。0.001mg/L未満で基準内におさまる
  22日 工場長から本社へ報告
  23日 工場担当者が柏市保健所に相談
  24日 柏市保健所が1~3号井戸から採水。製品も収去(検査7)
  25日 記者会見し公表
  27日 検査7について、柏市保健所が結果を公表。すべて検出せず。ただし、
    3号井戸浄化処理水から塩素酸1.1mg/L(基準値0.6mg/L)を検出し、公表
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このほかにも検査がたびたび行われているが、検査1~4以外は、基準超過していない。また、製品検査でもシアンは検出されていない

池田さんのムシだより2~オオキンカメムシ

2008-11-27 00:53:31 | Weblog
 静岡の池田二三高さんから、ムシだより第2弾が届ききました(第1弾はアサギマダラ)。今度は、オオキンカメムシです。

………………………池田さんのムシだより……………………………………………
 18日は天気が良かったので、虫友を誘い東伊豆の城ヶ崎海岸へオオキンカメムシの調査に行ってきました。
 このカメムシの幼虫は、この地ではアブラギリの実を食べて成長しています。成虫で越冬しますが、ほかの昆虫とは異なった珍しい方法で冬を越しています。
 成虫は晩秋から初冬に掛けてこの地に多いヒメユズリハ、ヤブニッケイ、トベラなど葉の厚い常緑樹に集まってきますが、そこでそのまま越冬します。しかも、毎年ほぼ同じ場所の同じ樹に集まる不思議な習性があります。多発生時には広く分散し、近くのみかん園にも飛来することがありますが収穫時と重なるのでその悪臭が大きな問題になることもあります。成虫が越冬している葉は何と目通りの高さから5mほどの梢であるため、仰ぎ見て探すことになります。また、樹は海岸に近い樹の方が多く、海風をまともに受けて葉が激しく揺れる葉裏にしがみついています。

 大多数の昆虫は、冬には当然そのような所を避けて株元や地面に下りて来ます。でも冬の樹上は、オオキンカメムシにとっては天敵もいなくなるのでかえって安全な場所と言えましょう。しかし、反面野鳥には目につき狙われやすい環境ですが、成虫のど派手な橙の模様は野鳥を忌避させる役目を果たしています。自然は上手い具合にできているものです。
………………………………………………………………………………………………
 池田さんの本はいろいろとありますが、最新のものは2年ほど前に出された「菜園の害虫と被害写真集」です。

義父の死と物質循環

2008-11-20 02:36:01 | Weblog
 入院中だった義父が先週木曜日に亡くなって、この4~5日間、夫の実家で「お嫁さん」をしていた。松永というのは私の旧姓なので、プライベートでは名前からして違う。さらに、喪服を着て夫よりも一歩下がって付き従うとか、エプロンをしておさんどんをする、というような生活。
 義父を失った哀しみはあるのだが、私の普段の生活とあまりにも違うので、なんだかコスプレをしているような気分だった。そんなことを言うと、お姑さんから怒られますね。

 夫の実家は富山にあり、いろいろな風習が興味深かった。もっとも驚いたのは、亡くなってから初七日まで、お坊さんが毎日家に着てお経をあげてくださる、という習わしだ。説教もして下さる。その内容にびっくりした。

 「体の大部分は水分なので、燃やされることで蒸発しますよ。今日の雨の中に、その水分が混じっているかもしれません。体の中にあった炭素は、二酸化炭素になって空気中に戻っていきますよ。人の体を作っている物質は、生きている間は次々に交換されているのです。お骨は、たまたま死ぬ間際に体として持っていて、焼いた後も残った物に過ぎません」。
 お坊さんはそう言うのだ。とにかく、驚いた。なんだか、科学読み物を読んでいるようではありませんか!
 
 聞いていたのは義母と義弟と私たち夫婦の計4人。たった4人に、お坊さんが真剣にこういう話をしてくださる。そして、死ぬと体も心もなくなるが、心は残された者たちの胸の内に刻まれるという。故人が残してくれた心の記憶を大切にして、残された人は生きなさい、と言うのが説教の内容だった。

 私の日々の生活はまったくの無宗教なのだが、日本の宗教の厚みを感じた。地方にはまだこういう生活が残っているのだ。


農水省の「有識者との意見交換会」

2008-11-13 00:01:18 | Weblog
 農林水産省改革チームが、5日に開催した「有識者との意見交換会」の内容が12日、農水省のウェブページにアップされた。有識者として招かれた神門善久氏(明治学院大学教授)の怒りが炸裂していて面白いので、一読を。

 神門氏、「この会合の開催について農林水産省の事務対応は緊張感を欠いている」といきなり噛みついている。そして、「私は2006年に『日本の食と農』を著しサントリー学芸賞と日経BP・BizTech図書賞を受け、新聞や雑誌で斬新な農政論を展開し続けている。石破大臣も私の著作を何度も読み直したという。ところが、農林水産省職員から選抜された改革チームのメンバーのほとんどは、私の著作を読んでいないことを、この会場で確認した。改革チームの意識に疑問を持たざるをえない」という趣旨の発言をしたようだ。

 うーん、すごい! 
 私は、こういう変な人がかなり好きだ。それはともかく、その後の神門氏の発言はなかなかに的を射ていると私は思う。改革チームはこれまでに、計4人の識者から話を聞いているのだが、ダントツに突っ込んでいる感じ。そして、その著書「日本の食と農 危機の本質」(NTT出版)も実際にとても面白かった。私の本も一部、引用していただきました。
 たしかに、この本を農水省の職員があまり読んでいないとしたら、「そりゃ、まずいよ」と思う。

枝豆が堆肥になる

2008-11-10 22:55:13 | Weblog
 先週、中国・厦門を視察した。味の素冷凍食品の自社管理農場や冷凍野菜加工工場を見せていただいた。これから、何回かにわたって紹介する。

 まずは枝豆、いや、ごみの山の写真をご覧いただきたい。
 これは、味の素冷凍食品が中国の自社管理農場で栽培収穫し冷凍してあったもの。本来であれば日本に輸出され、家庭やレストラン、居酒屋さんなどでおいしく食べられたはずだった。だが、今年1月の冷凍ギョーザ事件を契機に、中国産というだけで売れ行き激減という事態に陥ってしまった。冷凍され長く倉庫に保管されていたが、時間が経って商品として出せなくなり、これから堆肥になる運命だ。


 枝豆だけでなく、青々としたいんげんも山と積まれていた。これらの野菜は、同社が種子の生産からかかわり自社管理農場で農薬などもしっかりと管理して栽培し、収穫やブランチングなどの加工、冷凍、包装まで完全に把握して、トレーサビリティが確保されている。はっきり言って、国産より品質はよい、と思う。しかし、「中国産は危ない」という報道に踊らされた消費者や流通、外食産業などが拒絶した。在庫はまだあり、さらに堆肥にしなければならない。見せてくれた同社の社員がつぶやいた。「身を切られるような思いだ」。


 中国産にも、当然のことながらピンからキリまで食品がある。日本に入ってくる中国産の食品のかなりの部分は、日本の食品メーカーや商社などが指導して、作ってもらったピンの食品だ。その中に不幸にも、犯罪が仕掛けられた食品が混じってしまった。それが、ギョーザ事件である。また、犯罪品の微量混入を防げなかったのが、(日本国内の)メラミン混入事件である。
 
 思い起こせば、日本でも食品犯罪はあった。70年代の青酸コーラ事件、80年代のグリコ森永事件、90年代の和歌山カレー事件…。そんな時に、外国人から「犯罪が起きたから、日本の食品は怖い。絶対に拒否する」と言われたら、日本人はどう反応しただろう?
 そんなことを考えながら、堆肥になる枝豆を眺めた。

 堆肥にするよりも、生ごみとして処分を中国側に任せた方が、はるかに安上がりだそうだ。だが、まとめて堆肥にして畑に戻したいと同社は言う。
 新聞や週刊誌などでは、未だに中国に詳しいと自称する「識者」が「危ない中国産」を語っている。そのエピソードは概して古い。そして、日本向けの食品の話なのかどうか、不明のままだ。そんないい加減な識者に騙されるな、まじめな日本企業や中国人の取り組みを見ろ、と記者たちに言いたくなる。

 だが、中にはあやしい識者を利用して自分の署名記事をインパクトのある読み物に仕立てている確信犯の全国紙記者もいる。そんなもくろみは行間ににじみ出るから、私はひどく苦い思いを味わうのだ。

<注>私が、メラミン混入事件と書いたのは、あくまでも日本国内で消費される食品において起きたメラミン混入事件です。ご指摘を受けて、(日本国内の)を追加しました。2008年11月13日