松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

遺伝子組換え作物の作付面積が、昨年も増加

2009-02-16 01:27:32 | Weblog
 先日、飼料米を利用している畜産農家の講演を聞いて驚いた。いわく、遺伝子組換え小麦が開発されず、トウモロコシやダイズに組み換え技術が利用されているのは、米国人にとって小麦が主食でトウモロコシやダイズは飼料だからだ。そのトウモロコシやダイズを輸入している日本はつまり、米国にとって家畜並みだということ。こんなひどい話はない。だから、飼料を米国に依存せず国産化を目指さなければならないーー。

 飼料の国産化を目指すのは私も賛成だけれど、生協やGM反対派の市民団体などに古い情報を吹き込まれて、こんな「恨み」に基づいて張り切るのも、なんだかなあ、と思う。
 米モンサントが、遺伝子組換え(GM)小麦の開発に躊躇したのは事実だし、消費者が受容してくれるかどうかを懸念してのことだったと私も思うけれど、それはかなり昔の話。モンサントの動きは目立たないし、GM小麦の商用化はまだだが、ほかの多くの研究機関で開発が進んでおり、米国でもこれまでに400件以上の圃場試験が行われている。オーストラリアも、干ばつ耐性小麦の開発に意欲まんまんに見える。
 それに、米国人はGMトウモロコシで作られたチップスやコーンブレッドも食べている。

 日本の農家が、古い偏った情報で動いてしまう要因の一つは、やっぱり報道のゆがみだろう。
 以下も、その例の一つ。世界のGMの栽培状況などを毎年調べている非営利団体、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が2008年の調査結果を調べて11日に発表したのだが、日本のマスメディアで取り上げたところはないようだ。ほかの国のメディアはちゃんと取り上げているのに…。
 
 ISAAAによれば、2008年の世界の作付面積は1億2500万ha。07年に比べて1070万ha増加。作付した国の数も増えて25カ国になった。
 ISAAAのウェブサイトで資料が読めるし、バイテク情報普及会が、日本語に翻訳したものを既にウェブサイトにアップしている。
 
 というわけで、情報はある程度は自分で収集しましょうね。古い情報やバイアスのかかった情報に振り回されて、事業に暗雲が……。なんてことのないように。
 例えば、英国の首相や環境大臣は昨年相次いで、「組換え作物は食料生産性を高め、価格抑制に重要な役割を果たす」などと推進姿勢を明確にした。また、「インドの農家がGMワタを栽培したために自殺に追い込まれている」という話も、否定されている。(BBCのこういう記事やNew Scientistのこんな記事参照)
 でも、日本では、日経BPのFood Scienceを除き、ほとんど報道されていない。したがって、識者と呼ばれる人たちの中にも、「インドでは~」なんて口走ってしまう人たちが未だにいるのだ。
 

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4 コメント

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Unknown (ひさまつ)
2009-02-16 06:15:41
報道のゆがみにはいろいろ原因があるでしょうが,新聞やテレビ報道では,GMを冷静に分析する(肯定的に取られかねない)姿勢を打ち出しにくいということはあるんでしょうか。
Unknown (ohira)
2009-02-17 10:47:27
小麦とトウモロコシのくだりについて、欧州ではそのような感覚を持っている人も多いようですね。

詳しくは以下のblogをご覧になってください。
http://ep.blog12.fc2.com/blog-entry-1265.html#more
Unknown (しゅん5)
2009-02-18 22:54:54
初めまして。毎回興味深く読んでいます。

松永様はご存知だと思いますが、小麦はゲノムサイズが大きく、倍数体があるので遺伝子解析、遺伝子操作がイネやトウモロコシより遅れていただけじゃないでしょうか。そう言っても信じない人は信じないでしょうが。

会社名がばれてしまうのですが、私が以前務めていた会社では遺伝子組換え技術を使ってイネアレルギーの人でも食べられるイネの研究が行われていました。ポシャってしまいましたが、これが実用化していればイネアレルギーの人にとっては「遺伝子組換えイネ」の方が「遺伝子非組換えイネ」より確実に安全性が高くなる、という話をすると大抵の人は黙ります。
Unknown (A-GYO)
2009-02-27 06:04:48
はじめまして。いつも楽しみに読んでいます。

遺伝子組換えについて色々意見があるとは思いますが、農業やっている私としては、GMを作りたいとは思いません。

否定的な報道によって、消費者の心理にはGMに対して嫌悪感がかなりあり、作業効率が良くなるGMを導入しても、販売においてのデメリットが作業効率のメリットを凌駕します。

あと、私個人としては、それまで問題にならなかった虫がGMをきっかけに「食性転換」を起こし、他の植物に多大な害を及ぼす可能性を危惧しています。

人間は30年前後で一代ですが、虫は1年間で数世代が入れ替わります。
進化のスピードが早い害虫に対してGMが有効な害虫対策にならなくなる日も来るのではないでしょうか?