ド忘れ...？

●母が、思いつめたように言うのです。
「今朝、いつものお題目が、全然思い出せないんだよ。」

（母は、朝と夕方、小さな仏壇に向かって、お経を上げております。帝釈天の参道で買って来た経本を読み上げ、それに加えて、お願いごとだの、どこぞで教わった、おまじないだの、まことに自由奔放、自分勝手な“お題目”を連日、繰り返して唱えているのです。）

毎日繰り替えしている、その“繰り言”のひとつが、今朝は、まるっきり出て来ないと言うのです。

●１～２年も前のことですかね。
母が、洗濯機の中を覗きながら、ボ～ッと立っているんです。何もしないで...。
声をかけると、「これ、どうやるんだったっけ？」と言うんです。
母は、洗濯が大好きで、これは私の仕事とばかりに、連日洗濯機を廻しておりました。
電源のスイッチを入れて、一番大きなボタンをひとつ押す、そしてスタート。それだけなんですけど、ある日突然、記憶の中の一部が、欠落してしまうのでしょう。老いるということは、そういうことなんですね。

●今食べたご飯のことを忘れてしまうことは、まだありません。だけど、ついこの間も、「私は、マーボー豆腐というものを食べたことが無い。」と言って聞きません。「食べたことあるよ。」と言うと、ムキになって否定します。あげくの果てには癇癪を起してしまいます。
マーボー豆腐ごときで、死ぬの生きるのと騒がれるのもかなわないので、さりげなく話題を変えておしまいにします。

●自分の親が、目の前で、どんどん小さくなって、どんどんわがままになって、人の話しを聞かなくなって、挙げ句には、すぐに泣く。せつないものです。

●洗濯は、その後もしばらくの間、母の仕事でした。、腰痛で、洗濯ものを干す作業が辛くなったと言った時は、長～いS字金具を使って、ハンガーを低くしてやりました。で、またしばらく...。
そう簡単に楽隠居なんてさせません。
もっとも、今は、すべて卒業です。でも、本人がやりたいと言ったら、どんどんやってもらうつもり。